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時計の短針が進み続ける。
そろそろ昼休みの時間か。
そう思い腕時計を見ると、昼休み10分前だった。
長年働いていると、このような時間感覚が生まれる。
休憩が近いなら少し緩くやるか。
そう思い書類の束に目を通す。
ここ最近は事故の報告が圧倒的に多い。
俺は10年間くらい交通局で働いているが、毎日300件以上の事故が発生していることはあまり見たことがなかった。
昔はハッカーやチーターの影響でそうなることはあったが、直近そういった目撃情報は無い。
やはりなにかあったのだろうか?
俺は慣れた手つきで書類に判子を押していく。休憩前はこれくらいの作業がちょうど良いのだ。
でも不思議だ。車掌の俺が書類仕事をするとは。半年以上は事務と車掌の二足の草鞋でやっているが、他の交通局だとこのようなパターンは滅多にないらしい。
上司に聞いても、“人手不足だから”とだけ返される。ここはそんなに人手不足だっただろうか?
そんなことを考えながら作業を続ける。
ふと、手が止まる。
おかしな紙が混ざりこんでいた。
子どもが描いた落書きだろうか?
コピー用紙にでかでかとピエロのような顔が書かれている。
またあのガキンチョたちガキンチョたちの仕業だろうか。
少しうんざりしながら紙を退ける。
時計のアラームが鳴った。休憩しなければ。
俺の昼は決まってコーヒーとサンドイッチだ。昔はブロクシーコーラをよく飲んでいたが、今は甘すぎて飲めない。
いつも通り食べようとすると、今日は同僚がやってきた。
「やあ、今から昼?」
こいつはいつでも元気だ。 ああそうだよ、と返す。
「しかし相変わらず、サンドイッチとコーヒーだけなんだな。」
同僚はにいっと笑ってこちらを見る。
彼の昼飯はハンバーガーにコーヒーだ。
「でも、お前のメニューも俺とほぼ同じだけどな。」
また、同僚が口を開く。
「いやあ、ここ最近事故の報告件数が多いねぇ…季節もあるだろうけど、300件以上は滅多にないよ。」
彼も不思議がっていた。彼は事務職なので、何か知っていると思っていたが、そう」でもないようだ。彼は続ける。
「最初はハッカーが事故起こしたりしてると思ったんだけどよ、ログのどこにも足跡がないんだ。うまーく隠したとしても、うちの技術だと絶対に何かしら残るってワケ。なーんか、気持ち悪いよな。」
俺は本職ではないからあまりよく分からない。とりあえずその場は笑って流した。
「はは、一体どこの誰がやっているんだか…」
突然、会話を遮るように机に置いていたコーヒーが揺れる。地震だろうか?
…いや、これは机自体が揺れている。
「お前、貧乏ゆすりしてるか?」
思わず聞いてみた。ガタガタうるさいのだ。
「いや、してないよ。」
そう言って、同僚は組んでいる足を見せてきた。
その間も、机は揺れている。
「なあ、この机、揺れてないか?」
「え?」
同僚は揺れている机を見て、目を見開いた。
「ええ…怖…」
同僚は身動ぎして机から立った。
同僚は下を軽く覗くと、小さく息を漏らした。
「あ…そろそろ俺休憩終わるから、先戻るわ!」
俺が聞く間もなく、彼はそそくさとカフェテリアを後にした。
一体なんだったのだろうか?
気になり俺も除くと、視界の端に悪魔のようなしっぽが揺れていることに気がついた。
昼休憩が終わると、俺は車掌として働く。
いつも通り点検をし、切符の有無を確認したりする。
今日は、ベーコンが俺に話しかけてきた。
「あの、車掌さんですよね?」
切羽詰まったような顔でこちらを見てくる。
「はい。どうされましたか? 」
あの…とベーコンはもじもじしながら、俺に耳打ちしてきた。
「車内のダクトからなにか紐のようなものが見えたり隠れたりしていて…不審物かもしれなくて…」
「報告ありがとうございます。直ぐ対応させていただきます。該当のダクトまで案内をお願いします。」
ベーコンが頷き、歩みを進める。
ただでさえ交通事故が多いというのにその上不審物とは…このブツが原因なのか…?
ベーコンが足を止め、ダクトを指差した。
「この中に、何かあるかもしれません。」
「ありがとうございます。次の停車駅で確認いたします。」
俺は無線で本部と連絡を取り、駅に着いたと同時にダクトを開けた。
そこは暗がりで視界が悪い。ペン型の懐中電灯を取り出して照らすと、そこには赤、黄、緑の3色の紐が垂れ下がっていた。
“こちら鉄道課車掌のエイパー。列車番号RIA-101にて不審物あり。応答願います。”
無線機でそう告げると、数秒経ったあと指示が下りた。
“こちら本部安全課のレイラ。まずは乗客の安全確保をお願いします。”
指示通りに俺はメガホンを持ち、乗客たちを安全な場所まで避難させた。
その後安全課の職員がやってきた。
「該当する不審物は?」と聞かれた。
「あのダクトにあります。」
俺は迷いなくダクトを指さした。
職員の1人が脚立でダクト内に入る。
よく見えないのか、体のほとんどが入ったところで、うわ、という声が聞こえた。
「中に子供が3人居ます!担架と救護班を!」
車内で見守っていた職員が連絡を取る。
俺は状況が飲み込めなかった。