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1話 『鍵のかかった部屋で』
薄暗い部屋の中、目を覚ましたアーサーはまず、天井の木目を見つめていた。
どこかで嗅いだことのある匂い。落ち着くような、それでいて胸の奥がざわつくような。
「……っ、ここ……どこだ?」
身を起こそうとして、両手に違和感を覚える。手首には柔らかい布が巻かれていて、ベッドの柱に結びつけられていた。
「っ……え、なにこれ……?」
戸惑うアーサーの耳に、静かにドアが開く音が届く。振り向くと、そこにいたのは――
「……アル?」
その声に、アルはふわりと微笑んだ。
まるで、何もかもが普通であるかのように。
「おはよう、アーサー。ちゃんと眠れた?」
「え、は、?ちょっと待て……これ、どういう――」
「ねえ、アーサー」
遮るように、アルが言った。声色は穏やかだけど、どこか張り詰めている。
「……君が、どこかに行こうとするから悪いんだぞ」
アーサーは目を見開く。
その表情すら、アルは優しく包むように見つめてくる。
「ずっと言おうと思ってた。君が誰かと笑ってるのを見るたび、胸が焼けるようだった。
君が誰かに触れられるたび、手首を掴んで引き剥がしたくなった。
……でも、我慢してたんだよ、ずっと。我慢して、優しいふりして、隣にいようって決めてたんだ」
「アル……それは……」
「でも、君が俺を見てくれないなら――俺の声を、君の心に届かせるには、こうするしかなかった」
アルの瞳は、どこまでも純粋だった。狂気をはらんでいるのに、まるで花を愛でるような眼差しで、アーサーだけを見ていた。
「怖がらないで。ここには君と俺しかいない。
誰も君を傷つけない。誰も君を、俺から奪わない。
……だから、ここでずっと一緒にいようね。アーサー」