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「……なあ、アル。お前、正気かよ?」
アーサーは乾いた声で言い放った。
睨むように視線を上げるが、アルは微笑みを崩さない。
「正気、だよ。……ずっと昔から、ずっと変わらない。俺が君を、どれだけ好きだったか――知らなかったのは、君だけだ」
「”好き”って……は? お前、勝手に監禁して、それで”好き”? バカじゃねぇの?」
「違う」
アルの声が一瞬だけ低くなった。
「“勝手に”じゃない。君が、俺から逃げようとしたから……だから、ここにいるんだ。
そうしなきゃ、もう君は二度と俺の前に戻ってこなかっただろう?」
アーサーは眉をひそめる。
確かに、昨日までは家にも帰らず、誰とも連絡を取らずに“逃げていた”。けど、それは――
「……俺が、お前の気持ちに応えなかったからって、こんなことしていいわけねぇだろ」
「じゃあ、どうしたらよかったんだ?」
アルの声が、静かに尖る。
「目の前で他の奴と笑って、平気な顔で俺を避けて、それで俺は――何も言わずに笑ってればよかったのか?
違うだろ? 俺の気持ちくらい、少しは気づいてたはずだぞ、アーサー」
「っ……」
図星だった。
無自覚ではなかった。
アルの視線の熱さも、何気ない触れ方に込められた温度も――全部、気づかないフリをしていた。
それでも、こんなやり方はおかしい。
「……お前、最低だな」
アーサーが吐き捨てると、アルの表情が一瞬だけ曇った。だがすぐに、優しく、どこか壊れたような笑みを浮かべる。
「……最低でもいい。嫌われてもいい。
それでも、君がここにいるなら、それでいいんだ。
……俺は、君が笑うたびに壊れそうだったんだぞ。俺以外の奴に、それを見せるな。……お願いだから、俺だけを見て」
「……は……マジで、重てぇよ、お前」
「うん。重いよ。最初から、軽い気持ちで好きになんてなれるわけないだろ。
――俺は、本気なんだぞ。命だって、君のためならどうにでもなる」
アーサーの胸に、ひやりとしたものが這い寄る。
アルの“愛”は、もうすでに愛の形をしていなかった。
だが、それでも――心のどこかで、その歪んだ優しさに揺れている自分がいるのも、確かだった。