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センティが死した日からそれほど経過していないので、センティの自室はそのままの状態で残されていた。
ゼンティと共にその部屋に入ったリィラは、王族らしく高級感のある金色の家具や内装が眩しくて瞬きが止まらない。
「ここがセンティの部屋なのね。なんか不思議……」
かつて愛したセンティ王子の自室に、こんな形で入る事になろうとは……運命とは不思議なものだと感じる。
二人で奥の寝室へと進むと、ゼンティはキングサイズのベッドに仰向けに倒れた。
「ふ~、ここのベッドも落ち着くね。今夜からはここでリィラちゃんを食べるのが楽しみだよ」
センティ王子の記憶を有するゼンティにとっては、この国も城もベッドも全てが馴染みのある場所に感じられる。
リィラはベッドに腰掛けると天井を向いているゼンティの瞳を覗き込む。
「ねぇ、ゼンティはレンティさんをどうするの?」
リィラは遠回しにゼンティの真意を確かめる。復讐が目的であるゼンティにとって、レンティは邪魔な存在なのだろうか。
ゼンティは天井を見つめたまま微笑している。
「あぁ、レンは殺すよ」
「え!?」
あまりにも率直な返答にリィラは驚きの声しか出ない。
「なんで!? なるべく人は殺さないって……!」
「なるべくね。でもレンだけは殺す。すぐじゃない、いずれはね」
ゼンティの目的が何であれ、リィラはセンティの願い通りにレンティを守りたい。
レンティを殺したい魔物のゼンティと、レンティを守りたい王子のセンティ。二人の目的は一致どころか完全に矛盾している。
それ以前に、リィラの感情的な部分でもゼンティの意思には納得がいかない。
「でも、レンティさんはあなたの妹でしょ!? それなのに……!!」
そこまで言いかけたリィラの言葉が止まった。起き上がってリィラを見つめるゼンティの瞳の色が、本来の赤に変わっている。
背筋が凍るような威圧を込めた目線に射抜かれてリィラは身動きすら取れない。
「勘違いしないでよ。レンは僕の妹じゃない」
笑顔が消えたゼンティの口調すらも凍てつくように冷たい。こんな目を向けられたのは最初に出会った日以来だろう。
確かにゼンティの妹はヒメだ。魔物ゼンティと王子センティを混同させてしまったたリィラの失言だった。
「……ごめんなさい。でもゼンティ、お願い。レンティさんは殺さないで」
怯む訳にはいかないリィラは、真っ直ぐにゼンティの魔物の瞳に立ち向かう。
今までリィラが『お願い』と言えばゼンティは必ず叶えてくてれた。だからあえて、その特権を利用する形になった。
ゼンティは目を細めると、リィラの腕を掴んで強く引っ張る。
「調子に乗るなよ、オレの餌がっ!!」
「きゃっ!?」
ベッドに倒されたリィラは、あっという間にゼンティに組み敷かれてしまった。
息を呑んで至近距離に迫るゼンティの瞳を見ると、やはり獰猛な魔物の赤色。人の理性を感じない。
「ゼンティ……瞳の色が……」
「オレの餌の分際で、何でも願いが叶うと思い上がってんじゃねえよ!」
リィラを餌扱いする乱暴な口調は、ゼンティの魔物としての本来の人格と口調だった。
しかしリィラは意外にも落ち着いていた。今のゼンティが自分を本気で餌扱いしていない事くらい分かる。
魔物の人格と赤い瞳の色。ゼンティにこの変化が現れた時は『禁断症状』だと理解している。
「ゼンティ!!」
リィラはゼンティの頬を両手で包むと、引き寄せるようにして唇を重ね合わせる。
この後はゼンティに全てを任せる。花の蜜を吸うように味わいながら、ゼンティはリィラの毒という名の甘い養分を吸収する。
二人の熱が重なると、今度はリィラの意識が朦朧とする。それは熱に浮かされているのか、行為の依存による快楽なのか分からない。
「……ふぅ、ごめん、リィラちゃん」
毒を吸い終えたゼンティは落ち着きを取り戻し、瞳の色もブルーになっている。
ゼンティが毒を吸いすぎたのだろう。リィラは体内の毒素が薄まった事で体に力が入らない。
力なくベッドに横たわるリィラの頬に、ゼンティは触れるだけの優しい唇を落とす。
「これはリィラちゃんのための復讐でもあるんだよ」
ゼンティは穏やかな口調で、白いシーツの上に流れているリィラの紫の長い髪を指先でなぞるようにして撫でる。
「そのうち、リィラちゃんにも分かるから……ね」
きっと彼は今、優しい瞳をしているのだろう。しかし今のリィラにはその瞳も声も届かない。
心地良さを感じながらリィラはそのまま眠ってしまっていた。