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「む、睦みあう……!? クリス様、それは違います。私はただ、蒼波様にお帰りなさいと伝えただけですっ」
クリス様の言葉にからかいの影が見えたので、つい反応してしまった。
しかしクリス様はさらにニマニマと笑い、頭をやれやれと振った。
「頬を赤らめて、瞳を潤ませて、にこにこ笑うのは睦み合うって言うんだよ。マナはチヒロに、そんなことも教えて貰ってなかったのかな?」
「!! それは蒼波様に失礼な言い方なのではっ」
ずいっとクリス様に詰め寄ると、また蒼波様の笑い声がした。
「いやいや。どうして。この三日間で真那とクリスが打ち解けているのはよく分かった。このまま二人の談笑を見届けるのも良いが、まずは食事でもしないか?」
私はクリス様と談笑などしてないし、打ち解けたなんて思ってはいない。
クリス様はきっと私のことをじゃじゃ馬だと思っているだろう。
でも、ふふっと笑う蒼波様に毒気を抜かれたというか、確かにクリス様も顔も穏やかな表情なので私とクリス様との仲については、これ以上追求するのは止めて蒼波様を見る。
「蒼波様、お食事のお誘い嬉しいのですが私はこのように、リストランテに相応しい姿をしていません。周りの方やお店にも、ご迷惑をお掛けしてしまうかも……」
言葉の末尾を結ぶまでには蒼波様のお顔から、スーツの胸元へと視線を落としてしまった。その胸元からしゃらりと蒼波様は銀の懐中時計を取り出した。
そして時間を確認すると、また懐中時計をさっと懐にしまわれた。
「気にすることはない。言伝を貰ってからこんなこともあろうかと、リストランテの料理人に弁当を頼んで置いた」
「お弁当?」
クリス様と蒼波様を見比べると、二人は以心伝心を心得ているように、視線を交わして微笑んでいた。
美丈夫お二人の微笑みを見て、その微笑みの意味がなんとなくわかった。
蒼波様はクリス様に絶対の信頼を置いている。
だから私が今回のように勝手な行動をしても、クリス様が居れば『問題ない』と判断された。
そしてクリス様も『食事は別の方法も考えてておいてくれ』などと、いつもの調子で伝言を残されたのではと思ってしまった。
そのやり取りを尋ねるなど、野暮と言うもの。
私はお二人の信頼関係を羨ましく思いながらも、蒼波様の次の言葉を待った。
「馴染みの店だから融通を利かせて貰った。弁当だったら、どこでも時間を気にせずに食べれるだろう? 俺も格式ばった店で食事より、外で食べる食事の方が性に合ってる。もう、そろそろ出来た頃合いだろう」
「まぁ……!」
私が感じていたことは的中したと思った。
それに蒼波様のお心遣いに感心するばかりである。
夜にお外でお弁当だなんて、お月見や夜のお花見みたいでワクワクしてしまう。
両親が健在のときはそういったお出掛けもした。それが今になって、そんな遊興の機会に巡り合えるなんて嬉しい。
「真那、クリスも交えて近くの公園で俺と一緒に食事をしてくれるか?」
「もちろんですっ!」
クリス様だってまだ夜ご飯は召し上がってないだろう。空腹は体によろしくない。食事こそ健康な体の基本だ。
そう思いながら笑顔で返事をすると、反応したのはクリス様だった。クリス様は小首を傾げて蒼波様を見た。
コメント
1件
ああ、もうこのやり取りが本当に好きです……!クリス様のからかいと、それに真っ向から反論する真那さんの真面目さが絶妙で、思わず頬が緩みました。でも何より、蒼波様が弁当を用意してくれていた気遣いが優しくて。格式張らない形で真那さんを労おうとしてくれるその距離感が、すごく温かいと思いました。お月見みたいだという真那さんの言葉に、彼女の子ども心がちらりと見えたのも可愛かったです。