古文の現代語訳が終わると、今度は英文の日本語訳が待っていた。
スマホの翻訳機能を使えば一発で片づく作業だが、それでは勉強の意味がないと思っている根岸は、地道に自分の力で翻訳していった。
隣の部屋のドアが力の加減なく開け閉めされ、階段の踏板を踏み抜く勢いでドスドスと音を立てて兄が風呂に行くのが分かった。
暫くすると、さっきの逆で兄は足音を立てて階段を上がってきた。
階下から母が根岸に呼びかける。
「私たち全員お風呂に入ったから、あとはヒロ君だけね」
「うん、分かった」
根岸はドア越しに大声で答えた。
それから暫くは、シャープペンの先が紙の上を走るカサカサという音しかしなくなった。そして−−
「あー、終わった」
根岸が上体を起こし、大きく伸びをする。
「兄貴お疲れ。ボクの方も終わったよ、見て見て」
フリーダが根岸に話かける。
「ん。ちょっと待って」
根岸は明日の時間割りに合わせてカバンの中身を詰め替えた。そのカバンも、半年の間に連中に放り投げられたり踏み付けられたりしたせいで、災害現場で発見された遺品のようにズタボロになっていた。
「で、何?「今年の漢字」でも決めた?それとも魔よけの護符でも作った?」
「ブッブー。違いますぅ」
フリーダが自身たっぷりに言う。
「これが!社会構造だ。ババーン」
レポート用紙の上に2本足で立つフリーダの足下には、ピラミッド状の図形と文字が書き込まれていた。
フリーダが説明を始めた。
「ピラミッドの最下部にいるのは悪魔信者これは只の人間。悪魔信者の上に位置しているのは魔術師これは人間が修行によって魔術を使えるようになった状態」
魔法とは魔の法であり、人智を超えた力の行使手順である。故に生半な修行と覚悟では、人は魔法を扱うことが出来ないばかりか、狂気の世界に飲み込まれたり、力の暴走に巻き込まれて命を落とすこともある。人間を廃業するくらいの覚悟で全てを棄てて修行と研究を行い、それでも魔術師に成れるかどうかは五分と五分という厳しい世界。
悪魔側も、魔術師の希少性と努力とを認めており、魔術師の護衛のために下級魔族を使い魔として派遣したり、魔導研究に助言を与えたり資金援助をする等、一般人よりも遥かに良い待遇を与えていた。
「で、魔術師の上に来るのが下級魔族。ガーゴイルとかサキュバスとかTVゲームに出てくる中堅レベルの敵のイメージ?」
そして、下級魔族の上に来るのが上級魔族。リッチー、合成獣、バンパイア・ロード、古き竜等々、TVゲームの最終ダンジョンに出てくるような、メジャーで強力な魔族がここに入る。
魔導書レメゲトンに記された悪魔の内、公爵や貴公子といった下級の悪魔もここに含められる。
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スマホの翻訳はグーグル翻訳しか経験がありませんが、翻訳やAIは、比喩や韻を踏んだ解釈迄可能なんでしょうか?