第11話
「浴衣だ!焼きそばだ!そして――夏祭りだーーーっ!!!」
夜の校門前、提灯の明かりの下で私は全力で叫んだ。
「……お前、テンション高すぎだろ。」
「うるさいっ、夏はテンションで乗り切る季節なの!」
人混みと屋台の匂いが混じって、なんだか胸がワクワクしてくる。
隣を歩くのは、相変わらずクールな顔した黒瀬颯太。
白シャツに黒のパンツ。
派手でもなんでもないのに、妙に似合っててずるい。
「……なにジロジロ見てんだよ。」
「な、なんでもないし!?浴衣の袖見てただけ!!」
「浴衣の袖?」
「うるさい!なんでもないってば!」
顔が熱い。気温のせい……たぶん。
「よーし、まずは金魚すくい!」
「去年、三秒で沈んでたよな。」
「今年は二秒!進化した!」
「退化してんだろ。」
案の定、秒で破れた。
「くっ……この金魚、動きがプロ級……!」
「いや、お前の腕が素人以下。」
「じゃあ黒瀬やってみなさいよ!」
「ほら。」
スッ……ポイ、破れず金魚ゲット。
「なっ!?一発!?ずるくない!?」
「運だよ。」
「チートだ!!金魚職人だ!!」
「お前、騒ぎすぎ。」
「夏は騒いでナンボ!!」
笑いながら、気づけば黒瀬も少し笑ってた。
それがちょっと嬉しくて、心があったかくなる。
「かき氷食べるか」
「食べる!」
即答。イチゴ味。
一口目で――頭キーンッ!
「ひゃぁぁ!痛いっ!脳みそ凍るぅぅ!!」
「学ばねぇな。」
「いっ、いだぁいぃ……」
「……ほら、水。」
「え?」
黒瀬が差し出してきたペットボトル。
「これ、飲め。」
「……あ、ありがと。」
「……別に、見てられねぇだけだ。」
顔、ちょっと赤い。
花火の灯りのせいじゃない……と思いたい。
「花火、始まるぞ。」
空に大きな光が咲く。
パッと明るくなって、黒瀬の横顔が浮かび上がる。
……ちょっと、かっこいい。
「……なに、見てんだよ。」
「べ、別に!?花火!!」
「……ふーん。」
「ふーんじゃない!!」
風が涼しくて、袖が軽く触れた。
お互い少しだけ黙って歩く。
――なんか、いつもと違う夜。
うるさいくらいの花火なのに、
この沈黙だけは、ちょっと心地いいかも。
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