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そしてマイホーム完成の日を迎えた。
展示場に行ってハウスメーカーを見回り新藤さんに出会ってから、今日までが本当に早かった。新藤さんにはすごくお世話になっただけじゃなく、時々ときめいてしまった。今思うと私が浮かれていただけの話だ。恥ずかしい。
マイホーム建設に奔走している間に詩音が私のお腹に宿ってくれて、光貴もメジャーデビューを控えるアーティストになった。
今日まではあっという間だった。
朝から光貴と二人で完成した三階建ての自分の城に向かった。
到着して出来上がった建物を見上げると、外観は黒くスタイリッシュで洗礼された建物だった。とても立派で誇らしい気持ちになる。これから暮らしていく私たちの新居。
玄関は開放的にして門は作らなかった。今の風潮で防犯にもいいらしい。
じっくり建物を眺めたあとに玄関に視線を落とす。悩んで決めた黒の門柱ポストには『ARAI』の文字。これを見ただけで自分の家なんだと嬉しい気持ちになった。
玄関前に既に新藤さんと工事監督の方が私たちを待ってくれていた。
「この度はおめでとうございます。どうぞお入り下さい」
オートロックでボタン式の電子キーを渡された。
新藤さんたちに揃って頭を下げ、受け取った電子キーで玄関を開けた。ピーという電子音が響いて扉が開いた。どんな風に家が出来上がったのだろう。わくわくする。
まずは玄関。広く取った玄関は白い御影石が輝いている。通常の倍ほどある玄関には、機材搬入で床に傷がつくことを考慮して濃ブラウンのタイルマットを敷いた。白と濃ブラウンのコントラストが美しく映えている。
壁はグレーのタイルがきちんと施工されていて、お洒落な凸凹タイルは今の流行デザインを思わせた。
「めっちゃ素敵!」
思わず声が出た。
玄関横がすぐ光貴の音響ルームになっている。広く取った白い空間は沢山の機材を置けるよう、可能な限り贅沢に間取りを取った。
「うおー、サイコーやん!」
光貴も大興奮の様子。ここにずっと引きこもりそうだ。好きな機材を持ち込んでこの空間から出てこなくなりそうな予感がした。
続いて階段下収納や手洗い、私の仕事用部屋を見た。
私の仕事部屋は小さく、机と棚を置いて一人入ったらもういっぱいの大きさしかない。音響ルームとは大違いだった。
家を楽しみにしていたから施工中は立ち入らないように気を付けて、土台と骨組みまでしか見ていなかったから、こんなにお洒落で立派になるなんて思わなかった。
マイホームすごい!
続いて全員で二階へ上がってお風呂を一番に見た。黒いバスタブに白の壁と床はダークグレー。こんなに素敵なお風呂見たことがない!
「お風呂ステキ! 早く入りたいな」
「ホテルみたいや」
光貴と目を輝かせながら盛り上がった。
キッチンもカップボードもIHコンロも白のテレビボードも、全部お洒落。まるでモデルハウスのようだ。
「この家……本当に私たちの家?」
今まで住んでいた古いマンションとは雲泥の差だ。
「家に帰るのがめっちゃ楽しみになったなぁー」
光貴もしきりに感激している。
「では、続いて三階の確認もお願いします」
新藤さんに言われて三階へ上がった。
悩みに悩んで採用したダークグレーの凹凸のある美しい壁紙は、理想の空間を予想以上に素晴らしく彩っていた。
二階から三階にかけての階段の途中から見える、開放的でお洒落なダークブラウンの木製手すり。そこを上がりきると目の前の廊下から奥へ伸びる本棚。そして窓。
プチホールみたいな古代図書館のような空間は、本好きの私のためだけに作られたように思えた。
一目惚れした赤いソファーをあの空間の中に置きたい。そして大好きな本をはべらかせて読書三昧したい。
ああ。早くあのソファーが届いて欲しいなぁ。待ち遠しい。
大満足の出来栄えに新藤さんたちに何度もお礼を伝えた。
他の部屋もチェックして最後に私たち夫婦の寝室とベビールームを見た。
寝室やベビールームは白い壁紙に大きな窓になるように依頼したから、日当たりも良く快適に過ごせそうな状態で仕上がっていた。
「傷や破損が無いか、今一度ご確認をお願いします」
工事監督が最終確認を行い、全ての項目にオーケーのチェックを入れた後、印鑑を押すように言われた。
特に問題はなかった。想像以上のマイホームの出来栄えに大満足しかない!
「ごめん、もう行くわ。悪いけどあと頼むな」光貴に耳打ちされた。
「うん。気を付けて」私も耳打ちし返した。
「本当に長らくの間お世話になり、ありがとうございました。用事があるので僕はこれで失礼いたします」
光貴は今日、サファイアデビューライブの最後の追い込み・練習を控えている。マイホームの立ち合いが終わり次第現地へ向かうことになっているので、ギターを背に自慢の機材を積んだ愛車を発進させ、慌ただしく行ってしまった。
「光貴さん、もうすぐデビューライブですね。五人になったサファイアのライブ、私も見に行きたかったです。チケットを取るつもりでしたが、争奪戦に勝ち残ることができませんでした」
新藤さんが心底残念そうに言ってくれた。