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「残念ですが私も行けないので、ピカピカの新居を満喫しながら応援しておきます」
「ぜひそうして下さい。素敵な新居になってよかったです」
「新藤さんのおかげですよ。ありがとうございます」
「私は何もしていませんよ。それよりサファイアですが、デビュー前からチケットが入手困難とは快挙ですね。ライブはきっと大成功するに違いありません」
「私、思うんです。あんなにギターが好きでギターのことばかりやっているのだから、ギターの神様も光貴に微笑んでくれるはずです」
「粋なことをおっしゃいますね」
新藤さんが笑った。その笑顔にちょっとだけときめいてしまったけれど、今日で最後だから。イケメン眼鏡の見納めだ。
不思議だ。
新藤さんにはどういうわけか惹かれてしまう。イケメンでカッコイイとかそういう単純な話ではない。
もっとこう、魂の根底から惹かれるなにかを持っているような、本当に不思議な感覚になるときがある。長く恋焦がれた最愛の人と巡り会えたような、言葉では言い表せないような、なんとも言えない気持ち。
本当に不思議な人だ。でも……今日でそれはおしまい。
私の中でもいい区切りがつきそうだ。
自宅の最終チェックの後、工事監督は次の現場があるため早々に帰って行ったので新藤さんが残ってくれた。
新居についての説明や使い方について説明を受けていると、引っ越し業者がやって来た。予め振り分けして段ボールに書いてあるから、一階・二階・三階に分けて部屋に運んでもらった。
本当は私の母が来てくれる予定だったが、間の悪いことにインフルエンザにかかってしまい、訪問は断ったから一人きりで対応しなきゃならない。光貴の義理両親も今日に限って忙しく、手が空いている人が誰も捕まらなかった。
そのうちに家電や机、お祝いのベビーベッドまで届いた。
どうすることもできないので所定の位置へ運んでもらった。
新藤さんは私の体調を気遣って、色々手伝ってくれた。
ベビーベッドは光貴に組み立ててもらうために子供部屋に置き、各部屋が段ボールで埋まった。
寝室に設置した私たちのベッドが組み上がるころ、ようやくひと段落した。
街は夕暮れに染まっていた。冬の夕暮れは早い。もうこんな時間だ。
「新藤さん、今日はお手伝いありがとうございました。誰も捕まらなかったのでとても助かりました」
「担当として律さんのお手伝いをするのは当然です」
きっぱりと言い切ってくれてありがたいのだけど、何も返せなくて申し訳ないなぁ。
「せめてお茶だけでも飲んで行ってください」
届いたばかりの珈琲メーカーで珈琲を淹れて買っておいたお菓子の缶を開け、珈琲とクッキーをセットで出した。
私は珈琲を避けているのでレモン水を用意した。
光貴と買い物に行ったときに見つけた、大きな一枚板のテーブルも今日に合わせて届き、業者が設置してくれた。
一目惚れした一枚板のウォールナットを利用したテーブルは、形が変形ギターのようだったため、満場一致で即決して買ったものだ。
「素敵なテーブルですね。音楽好きのお二人らしい」
「はい。色々見て回ったのですが、このテーブルにしようと二人で即決しました」
新藤さんは微笑んでくれた。それから他愛もない話で少し話した。
「あの……新藤さん。本当に今日までの間、ありがとうございました。お世話になりました」
「律さんに喜んでいただけたのなら、なによりでございます」
「こんな風に家が形になるなんて……まだ信じられません」
「快適に過ごしていただけますよ。私が保証致します」
「新藤さんのお墨付きなら、絶対大丈夫ですね。あ、珈琲のおかわり入れましょうか?」
席を立った途端、チクン、とお腹に痛みが走った。
あれ、と思ってお腹を撫でた。
そういえば今日、詩音の鼓動……聞いた――?