あの日から毎日と言ってもいいくらい、あの手紙は届いた。始まりは決まって『拝啓、神様へ』で、内容も何も変わらない。最後には美しい睡蓮の花が咲いている。一通から増え続け、まるで山のようになる。始まりの一通と何一つ変わらないファンレターは、少しづつ不気味なものへと変化していった。
「今日も来てるね、睡蓮さん」
正体不明の手紙を、俺達は花の名前からとって『睡蓮さん』と読んでいた。『睡蓮さん』からの手紙は、これで何通目だろうか。両手を使っても数え切れない数となったファンレターは、もう感触もしっかりと覚えてしまった。届く度に触り、読み、最後には睡蓮を見て。それを何度も繰り返していれば、嫌でも覚えるだろう。
「ここまで来ると、不気味なんだけど…」
「まあまあ、僕たちのショーを楽しみにはしているみたいだし、悪く言わないであげよう」
「…嗚呼、そうだな!この『睡蓮さん』も1人のファンなんだ!有難くこの手紙を受け取ろう!」
「うん!そうだね!ガクガクッ~ブルブルッ~ってしてたら、『睡蓮さん』もしょんぼりしちゃうもんね!」
「…………そうだね」
こうは言っったものの、1度不気味なものだと認識してしまったからだろうか。有難く受け取ろうとはしているのに、やはり心は正直で、どこかでは恐ろしく思っていた。皆で平等にわけあって『睡蓮さん』からの手紙がギュウギュウに詰め込まれた箱を、クローゼットの奥へ閉まってしまう。ちょっとでも遠ざけようとしてるなんて、最低だなと思っても、やめれることはなかった。
『睡蓮さん』
面白い名前をつけたな、と思う。
ゲームのマッチング待機中、大きなクッションに背を預けながら、天井にかざした手紙を見て思った。真っ白な封筒に汚れはひとつなく、美しい信仰心を表しているように見えた。実際は、汚い汚い信仰心から成り立っているのに。
泥で汚れた睡蓮に、『純粋』なんて似合わない。
この『睡蓮さん』に合う言葉なんて、『不純』だとかそういったものだろう。
マッチングした音がする。手紙を机の上に置き、体を起こす。リモコンを握り直し、画面に向きあった。
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