3話「無力」の、不破が出たあとの休憩所の話。
「…どうしたんです、一体」
焦るように休憩所を出ていった不破の背中を見て、剣持はさらに疑問に思った。
ただ、休憩所に来て不破の顔を見てずっと思ってることはある。
甲斐田が不破を庇ったのでは、と。
今日事務所に来て、マネージャーから今後のことを聞いて、甲斐田が重傷を負ったことを知った。加賀美と不破が巻き込まれた事も。
「…さぁ。どうしてあんなに怯えてるような状態なのかは、私にも分かりません」
教えて欲しいのに。
加賀美はボソッと、剣持にも聞こえないぐらいに小さく呟いた。
「…甲斐田くんが、不破くん庇ったんですか?」
思い切って聞いた。浮かぶ疑問がこれしかない。
「─半分、そう言えますね」
「何故半分?」
「私も庇われたので」
「は?」
加賀美は剣持の目を見て、あの日の夜の事を話し始めた。
「………なるほど。じゃあ、正確に言えば庇われたんじゃないけど、2人揃って守られたと」
「そういうことです」
「さらに疑問しか出てきませんが?」
「えぇ…」
もう言うことないですよ、と加賀美は苦笑を浮かべる。
「不破くん、社長より辛そうに見えるんですが」
「それは…そう、ですね」
「アニコブの絆が働いているのか?」
「それだけじゃないようにしか見えないですよ?」
2人の間に、数秒の沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、加賀美でも剣持でもなかった。
「あれ、お二方、何してるんですか?」
「お疲れ様でーす…なんか暗いですよ?大丈夫ですか?」
「あ、こんにちは」
休憩所に現れたのは、リゼ・ヘルエスタとアンジュ・カトリーナだった。
こんにちはと返した加賀美に続き、挨拶をした剣持は、リゼに聞いた。
「お二人は何故事務所に?」
「さんばかで打ち合わせだったんですよ」
「なるほど…戌亥さんは?」
さんばかで打ち合わせだったのなら、あとの1人である戌亥も居るはずなのだが、居なかった。
「多分、もう戻ったかと」
自販機で水を2本買ったアンジュは、1本をリゼに渡しながら言った。
「あ、ありがとアンジュ。お金…」
「いいっていいって」
「戻ったって…何処に?」
さらっとイケメン行動を起こしたアンジュに加賀美が聞いた。確かに普通、戻った、ではなく帰った、だ。
「戌亥の勤める喫茶店ですね」
「あぁ、そういう事ですか」
それなら戻ったで意味が通る。
「あ、そうだ」
水を一口飲んだリゼが言った。
「お二方、この後暇ですか?」
「えぇまぁ、私は今日配信の予定も無いですし…」
加賀美はそう言いながら剣持の方を見た。
「僕も何も無いですが…?」
「では、お二方お昼は?」
続けてリゼが問う。
「まだですね」
「同じく」
答えた加賀美と剣持は、不思議そうにリゼを見る。
「じゃあ、一緒に行きません?」
「一緒にって…お昼に?」
「はい。それも、今さっきちょうど言った、とこちゃんの喫茶店に!」
「「…え?」」
加賀美と剣持は固まった。
それを見たアンジュがこう言った。
「2人とも、何やら暗いので何か悩んでるのかと思いまして。お話聞きますよ? なんなら奢りますよ?」
「えぇ!? アンジュ、私に奢らせてよ! さっき水貰ったし」
「いや、水とお昼じゃだいぶ違うけど」
「いいよいいよ!」
「「…」」
「お二方?」
「いや、流石に後輩に奢ってもらうのは…」
「同感です」
「いいですって! 私、剣持さんにも社長にも奢ってもらったことありますので!そのお返しです! させて下さい!」
「…では」
「お言葉に甘えて」
こういう時の女性は強いな、とつくづく思うかがみもちなのであった。
「─ックシュ…」
「なんや? 風邪ひいたかおふわ」
運んできたお冷を不破の前に置きながら、戌亥は聞いた。
「いや、大丈夫です…」
確かに寒気はしたけど…と嫌な予感がした不破は、メニューを開いて何にするかを決める。
「てか、昼なのに人いませんね?」
「あぁ、アタシが店長に頼んでな。貸切状態よ」
「え!? い、良いんですか…?」
「いいんよいいんよ。人たくさんおったら、話したい事もあまり話せんやろ?」
「…ありがとうございます」
「んで、何があったんよ」
注文後、カウンター越しに戌亥が聞いてきた。
「…………」
「…言いずらいか? 食べてから話すか?」
「…ぃぇ……あの、実は…」
決心し、ゆっくり、ゆっくりと、一言一言はっきりと、不破はあの夜のことを話し始めた。
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