孤児院に戻ってからも雑貨屋の店主の言葉がチラついていた。
自室のベッドに寝そべり、ぼんやりと天井を見つめる。
店主があんな風に神獣に嫌悪感を抱くのも無理はない。
今の世界は酷いものらしい。
力を持った王たちは、自分の力が1番強いのだと主張し頻繁に戦っているのだ。あわよくば、他国の神獣を自国のものにするために。
返り討ちにすることもあれば、されることもある。僕たち平民はいつ仕掛けてくるかも分からない敵にびくびく怯えるしかないのだ。
深刻なのは貧富の差だ。
もちろん孤児院は国から幾らか給付してもらっているが、それでも多くなんかない。
適した食事を食べれていない今の子達は全然歳に見合った成長ができていない、とマザーもため息をついていた程だ。
「仕方ないよ、これがこの世界だ」
自分に言い聞かせるようにそう呟いて、僕は枕に顔を沈めた。
『---、行きなさい。
世界を守るために、旅へ出るのです。
やるべきことは分かっているはず。
安心して、私はいつもの貴方の傍にいるわ』
はっと目を開け、荒い呼吸のまま上半身を勢いよく起こす。
いつの間にか眠ってしまっていたのか、太陽が登り始めているところだった。
一筋の涙が頬を伝う。
見たこともないし、聞いたこともない。覚えているはずがない。人に話せば勘違いだと言うだろう。
だが何故か僕には確信があった。
夢のあの人は間違いなく僕の母親だった。
それからの僕の行動ははやかった。服を着替え、必要なものを大きな肩掛けカバンに詰め込むために部屋を見渡した。
ここに僕のものはほとんどなかった。
二着の服に下着、それだけだ。
バンッ_と 部屋の扉が勢いよく開く。
ノエルの大きな目がより一層大きく見開かれる。 寝起き特有の顔にはっきりと驚きの色が見えた。
「…セ、セラ?どうして…」
視線がセラの肩の荷物へと向かい、小さな声が不安げに震える。
ふわふわしたいつも通りの癖毛を今日は無性に撫で回したくなる。
僕は微笑んだ。
「食堂に行こうか」