コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「はい、ムッちゃん、あーん」
リゥパが一口サイズに切り分けた肉料理をムツキの口元へと運ぶ。ムツキは慣れたもので料理より少し大きい程度に口を開いて待つ。彼女がすっと入れたところで口をゆっくりと閉じる。
「ありがとう」
「美味しい?」
「美味しいな。いつも美味しいが、今日のはいろいろと張り切って作ってもらえている感がある」
リゥパが微笑みながらそう訊ねると、ムツキも嬉しそうな顔で答える。
「リゥパが作ったわけじゃないだろう」
ナジュミネはその2人の隣でそう言いつつ、ジュースを口に含み始める。
「いいじゃない? 私が作ってなくても美味しそうな顔で食べてもらったら、こっちも嬉しくなるじゃない?」
「……それはそうだな」
リゥパの正論にナジュミネは思わず首を縦に振り、ムツキの嬉しそうな顔を眺めてから再び首を縦に振った。
「あら、美味しい。ナジュミネも早く食べなさいよ」
「たしかに、美味しいな」
リゥパはムツキの口にもう一度放り込んだ後、今度は自分の取り皿を持って根菜のソテーを食べ始める。ナジュミネはムツキ同様に肉料理を口にし、思わず顔が綻んだ。
「エルフの村だと、あんまりみんなで食べることなかったから、こういうの楽しいわね」
「リゥパ……」
ふと一瞬見せるリゥパの暗い表情に、ナジュミネは神妙な面持ちになる。
「もっと早く結婚するんだった! そしたら、第二夫人だったのに!」
ナジュミネはズルっとコケたような動作をする。
「まだ言うのか」
「悔やんでも悔やみきれないわ。でも、ナジュミネだから許してあげるわ」
「まったく、許すも何もあるまい」
リゥパの軽口は止まらない。彼女が会話を楽しんでいるようで、ナジュミネもつられて楽しくなってくる。
「そういうときは私の留飲を下げる意味で受け取ってよね」
「まあ、そうだな」
「やけに素直?」
「逆の立場なら、そうしていたかもしれぬからな」
「それ、前にも聞いたわね」
「そうだな。リゥパとは似ている部分もあるようだからな」
ナジュミネとリゥパは面白くなったのかクスクスとお互いに笑い始める。その後、リゥパはムツキの方を見て、ゆっくりと口を開く。
「……ところで、ムッちゃん。その隙あらば、ナジュミネの胸を見るのはどうかと思うわよ?」
「っ! 気付かれていたのか!」
「そんな堂々と見ているのに、気付かないと思っていたの? というか、今も視線が胸にあるのだから、隠す気ゼロ過ぎない?」
露骨も露骨なムツキの凝視する視線をリゥパもナジュミネも感じていた。そして、ナジュミネは少し誇らしげである。なんなら少し寄せ気味のポーズを取り始めた。
「許してくれ。むしろ、見ないのは失礼だと思ってしまう男の悲しい性なんだ……」
ナジュミネがわざと少し動くたびにムツキの視線が追従する。
「本当に悲しい性ね。ハニートラップに引っ掛かっちゃダメよ?」
「旦那様なら引っ掛かっても大丈夫だ」
リゥパの心配をよそに、ナジュミネは自信を持ってそう言い放った。
「引っ掛かる前提ではあるのね」
「間違いない」
「絶大な信頼ね……」
「信頼なのか、これ、って何度も似たようなことをするな」
ようやくムツキの視線がナジュミネの胸から外れたところで、その奥からユウが近づいてくることに気付いた。
「楽しんでる?」
「ユウ、急に大きくなったのか」
ユウは衣装が変わらず、見た目だけ若い女性の姿になる。かわいらしく露出の少ない衣装ではあるが、ユウのその妖艶さは健在で、彼女が瞳にムツキを映した瞬間に、彼はドキリとしてしまう。
「そうよ。よくよく思い出したら、パーティーは大きくなった方が楽しいし、動きやすいからね」
ユウはムツキから視線を外して、ワイングラスを傾ける。コクっと小さく鳴った喉の音さえも色っぽく、ほろ酔いなのか、少し赤らんだ頬も色気を催す。
「ユウ様」
「ユウ」
「二人ともどうしたの? なんだか真剣な顔をしているわね。パーティーは笑顔で楽しまなきゃ損よ?」
「ちょっと相談したいことがある」
ナジュミネが切り出す。パーティー後に話を切り出す予定だったが、酒がたくさん入った状態では話が決まらない可能性もある。リゥパも同じように感じ、話を切り出すことにしたのだった。
「分かったわ。ケトちーん」
「はいニャ」
ユウに呼ばれたケットはソースを口の端に少し付けた状態で駆け寄った。ユウが近くにあったナプキンでそのソースを拭く。
「ちょっと悪いんだけど、しばらくムツキの面倒を見てくれる? 女の子3人で女子トークしてくるから」
「承知ニャ」
そう言うと、ユウ、リゥパ、ナジュミネは少し離れた場所で話し始めた。