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 シャインがアメリア国の城に居座って10日が経ったが、見事に雨が降らない。

 しかしシャインは遊んで暮らしている訳でもない。どこかに出掛けたかと思えば、フラッとレイニルの部屋を訪れる。


「え、シャイン……泥だらけ……何をしたのですか」

「あぁ、ちょっと民家で畑仕事を手伝っていた。なかなか楽しいな!」


 大柄で体格が良く健康体のシャインは、勝手に城下町まで出かけて庶民と馴染んでいた。フレンドリーな性格もあり、一国の王とは思えない。

 ヴェルクも隣国の国王であるシャインをどうする事もできずに今日まで黙認していた。

 そして夜になるとシャインはレイニルの寝室に押しかけて堂々と夜這いをする。


「シャイン……このままだとアメリア国にもヴェルクさんにも、ご迷惑がかかりますし……」

「心配いらない。費用はサンディ国に請求してもらう」

「そうではなくて……」

「お、サンディ国に帰る気になったか」


 毎晩、ベッドでシャインに押し倒されているレイニルは、ついに押されて負けそうになっている。

 ここまでされたらシャインの愛は本物だと認めざるを得ない。ローサとのキスの件に関しても許すしかないだろうと。

 それに晴れ男のシャインがこのまま居続けたら、雨が降らずにアメリア国まで枯渇してしまう。その罪悪感もあった。


「ならば、改めて言う。オレはレイニルを愛している。結婚してくれ」


 すでにサンディ国では夫婦のはずなのに、改めての求婚にレイニルの胸も再び熱くなる。

 素直に嬉しいと思えるこの感情こそが自身の幸せで愛なのだと、ようやくレイニルは答えを見付けた。


「はい。シャイン……愛しています。あなたの妻でいさせてください」


 10日で陥落した可愛い妻と勝利を得たシャインは、抗えない衝動のままレイニルを強く抱きしめる。


「可愛いな、レイニル……今夜は激しく抱いてやるから覚悟しろ」

「……優しくしてください」


 明日になったら、シャインと共にサンディ国に帰ろう。ヘリオス様は、ローサお姉様はどうしているのだろうか。

 そんな事を思いながら、重ねられるシャインの肌を両腕で抱き返す。レイニルは全身を巡る熱と幸福感、それが愛なのだと強く肌で感じた。

 その夜も、やはりシャインは耳元で何度も『愛してる』と囁く。それで洗脳されても構わない。レイニルはその愛を何度でも何百回でも心と体に刻みたいと思う。




 そんな時に、執務室で今後の事を思案しているヴェルクの元に1通の手紙が届いた。

 それはサンディ国の王宮からで、シャインへの不信任案と国民の意向により、ヘリオスが国王として即位したとの知らせだった。

 これで必然的に婚約者のローサが王妃となる未来が見えてくる。


「シャイン様は失脚された、という事ですか……」


 ヴェルクは片肘を机に突きながら、口の端を歪めて微笑んだ。





 シャインとの一夜を過ごした次の日の朝、レイニルはサンディ国への出国の準備をしていた。

 30日以内に雨が降った事で契約結婚の勝負はレイニルの勝ちが確定している。しかし同時にレイニルがシャインを愛した事でシャインの勝ちも確定。

 つまり最終的な判定は二人とも勝者で引き分けだが、勝敗に関係なく結果は同じ事であった。


(これからはサンディ国で、ずっと夫婦としてシャインと過ごせるのね)


 レイニルが着替えを終えて、あとは馬車とシャインの準備が整い次第、アメリア国を出発してサンディ国へと向かう事になっている。

 この城でメイドになってくれたステラには申し訳ないし、ヴェルクの求婚の返事も曖昧なままだが、この状況なら言わなくても察してもらえるだろう。

 そわそわと待ちきれなくて、レイニルは窓際に立つと外の景色を眺める。

 すると、ちょうど下に見える城門の前あたりに、武装した兵に囲まれてどこかへと向かうオレンジ髪の男性の姿を見付けた。


(え……あれは、シャイン?)


 見間違えるはずもない。あれはシャインだ。レイニルは咄嗟に窓から離れて、現場に向かおうとして駆け出す。

 しかし、ちょうど出入り口のドアを開けて部屋に入ってきたステラと正面から衝突しそうになる。


「……っ! レイニル様!」

「ステラさん! 今、シャインが連れて行かれて……何が起きてるの!?」


 ステラもその件を伝えに急いで来たらしく、息を切らしながらも落ち着かせようとレイニルの両肩に手を添える。しかし、その顔は青ざめている。


「シャイン様は不法滞在の罪で逮捕されたようです」

「逮捕……!? どうして!?」


 サンディ国で起きた事実を何も知らないレイニルには、何が起きたのか分からない。なぜ今になって、このタイミングでの逮捕なのか。

 シャインが失脚したこと、ヘリオスがサンディ国王となったこと、それによってヴェルクの対応が変わったこと……何もかも。

 逮捕ならばシャインが連れて行かれた先は分かる。城の裏側にある地下牢。皮肉にも以前にレイニルが監禁された場所でもある。


「……レイニル様!?」


 レイニルはステラを押しのけて部屋を飛び出す。走るのに邪魔なドレスの裾を両手で持ちながら、全力で階段を駆け下りる。

 やっとの思いで城の外へと出ると、晴れ男のシャインが地下に閉じ込められたせいか、曇り空になっていた。

 ヴェルクがシャインを幽閉しようとする理由は、単純に雨のコントロールのためなのか、それとも……。


(シャイン、ごめんなさい、私のせいで……)


 こんな時でもレイニルは、シャインを巻き込んでしまったのは自分のせいだと己を責め続ける。

 城の裏側へと周り、地下牢へと続く階段まで辿り着くと、躊躇う事なく階段を下っていく。

 今度は、自分がシャインを地上へと救い出さなければと……強い罪悪感と意思を心に秘めながら。


 地下へと辿り着くと、シャインがいるであろう牢屋への道を塞ぐようにしてヴェルクが立ちはだかる。その左右には武装した兵が控えている。


「ヴェルクさん……これはどういう事なのですか」


 レイニルは気丈にも堂々とヴェルクに立ち向かう。一国の王を捕らえるなんて、ヴェルクもただでは済まない行為だろう。

 ヴェルクは相変わらず闇に溶け込みそうな黒いスーツと漆黒の瞳で余裕の薄笑いを浮かべている。


「ヘリオス様がサンディ国王として即位されました」

「え……?」

「シャイン様はもう、国王でもお得意様でもないのですよ」

「それは……本当ですか?」


 そう言いながらも、おそらく本当の事を言ってるのだと分かる。ヴェルクが嘘で一国の王を捕らえるなんて危険な行為はしない。

 ヘリオスがサンディ国の王ならば、アメリア国との水の売買の交渉と決定権はヘリオスが持つ。もうヴェルクはシャインにへりくだる必要はない。


「シャインを……どうするのですか?」


 王妃でなくなったレイニルにも権力はない。それでもシャインだけでも守りたい一心で、レイニルはヴェルクの人格と人情を信じるしかない。


「サンディ国にお帰り頂きます。逃亡や駆け落ちをされては困るので一時的に捕らえました」


 ヴェルクの判断は当然だった。アメリア国にシャインが居続けたら雨が降らない。晴れ男のシャインにはサンディ国で能力を発揮してもらわないと困る。

 水の需要と供給。それを成立させるためには、アメリア国には雨女のレイニル、サンディ国には晴れ男のシャインを置く事が必須。

 雨女と晴れ男が共にいる事は許されない。二人は最初から交わる事のない運命だった。


「なら、私は……?」

「以前に申し上げました通り、私と結婚して頂きます」


 ヴェルクを挟んでいた二人の兵が動きだして、今度はレイニルを左右から挟むと両腕を掴んで拘束した。

 そのまま、引きずるようにして無理やり地下牢の出入り口である階段の方へと歩かされる。


「いやぁっ!! シャイン!! シャイン!!」


 もうレイニルにはシャインに会う事すら叶わない。地下牢に響き渡るレイニルの叫びは、きっと牢の中のシャインにも届いているはず。

 長年の地下牢暮らしから解放してくれて、愛を教えてくれたシャインと本当の夫婦になれないまま別れるなんて……。

 愛する人を救えない無力な自分が憎くて涙が溢れて止まらない。


 階段を上りきって強制的に地下牢から地上へと連れ戻されると、外はいつの間にか激しい雨になっていた。

 まるでレイニルの涙に反応したかのように、雨女はアメリア国の大地に涙の雨を降らせる。

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