「相手の方はどんな方なんですか?」
「……そうですね。家庭的な優しい人……だと思います」
「家庭的な人なら、料理が得意だったりするんでしょうね。男にとったら、料理の上手な女性は有難いですしね」
月城さんがこういうなら、穂乃果ちゃんもきっと料理が上手なんだろう。
「確かにそうですね……」
穂乃果さんと香織さんを比べてはいけない。
充分わかってるつもりだけど……
だけどもし、仕事を終えて、家に帰れば穂乃果ちゃんがいて、疲れた僕を迎えてくれて、美味しい料理を僕のために作ってくれたら……
そして、大好きな彼女を抱きしめられたらどんなに幸せだろうって……
そんな妄想を巡らせてしまった。
僕は、本当にいやらしい人間だ。
穂乃果さんには月城さんがいるのに。
自分が自分で許せなかった。
今回も、素晴らしいセンスで僕のカットをしてくれた月城さん。
こんなに完璧な人には、やっぱり絶対敵わない。
最後まで、僕だけが情けなくてダメなやつだった。
僕は、月城さんにお礼を言った後、最後に穂乃果ちゃんにも挨拶したかったけど……ただ会釈をして、僕はそのまま店を出た。
帰ってから、自分なりにいろいろ考えていた。
22時を過ぎた頃、香織さんから連絡があった。
電話の向こうの声は……泣いていた。
僕に好きな人がいても、やっぱり付き合ってほしいと。
僕は、包み隠さず、全て今日のことを話した。
穂乃果ちゃんと一緒になれる確率は0パーセントだとわかっても、それでもまだ彼女を好きでいること、自分がこんなにも情けない男だと言うことを。
他にも自分のダメなところをさらけ出し、だから付き合えないとハッキリ言った。
「私は、その人を好きでいる恭吾さんのまま、そのままのあなたを愛しています。いつか、あなたの心からその人が消えるまで、私は待ちます。だから、お願いです。結婚してなんて言わないから……せめて私の側にいて下さい」
胸が……熱くなった。
こんなにも、自分を想ってくれる人がいるんだって。そう思ったら、「もうどうにでもなれ」と思ったことが恥ずかしくなった。
もっとちゃんと……
目の前にいる香織さんのことを考えていかないとダメだと思った。この人を少しずつでも好きになっていけたら、自分も幸せになれるかも知れない。
穂乃果さんを好きでいることは、誰のためにもならないんだ。
今はもう……絶対に手の届かない人なんだから。
自分の幸せも、そろそろ考えてもいいんじゃないかって……ほんの少し思いたくなった。
穂乃果さんに出会えたこと、穂乃果さんを好きになったこと、それはもちろん後悔していない。それでも、一生、穂乃果さんの幸せを願い続けながら、僕も……新しい道を……歩いていこうと思う。