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恭吾さんがシャルムに来た夜、私達は2人でリビングで話をした。
「氷野さんは、お見合いのことを悩んでいるみたいだった。あの人は、まだ穂乃果のことが好きだと思う」
温かいミルクティーのカップを触りながら、悠人が言った。
「そんなこと……」
「俺にはそう思えた。話をしている時、まだお前を忘れられないでいるように見えた。だけど、氷野さんはお見合いをして、黙って身を引いて、1歩前に踏み出すことにしたんだろう。でも、最後に自分の気持ちを確かめたかった。だから、穂乃果に会いにきたんだ」
「……」
私、恭吾さんにはその女性を大切にしてもらいたい。
その人と幸せになってもらいたい。
絶対に……そうであってほしい。
「輝も、たまに会えばわかる。まだ穂乃果を忘れてないって。氷野さんも、輝も、穂乃果という女性に心を奪われて、そこからなかなか抜け出せなくて、もがき苦しみながら必死にお前を忘れようとしてる」
「そ、そんなことない。私は……悠人のおかげでずいぶん変われたけど、でも、まだダメなとこもいっぱいあるし、いつまでもそんな風に想ってもらえるような良い女じゃない」
必死で言葉を並べてみたものの、上手く自分のことを伝えられずにいた。
「俺にはわかるんだ。なぜかって、俺も、氷野さんや輝と同じだから。お前のこと、心から愛してるのに、もし側に自分じゃない別の男がいたら……そんな状況絶対に耐えられない」
「悠人……」
「俺がたまたま穂乃果に選んでもらっただけで、もしお前が別の人を選んでいたら……それは、俺にとって苦痛でしかない。だから、あの2人は、今、その苦痛を味わいながらも、懸命に前に踏み出そうとしてるんだ。その気持ちは痛いほどわかる。俺には、そんな2人の分も穂乃果を大切にして守る義務がある。そう……思ってるんだ。こんな言い方は、偉そうかも知れないけどな」
悠人は私の横にさり気なく座った。
そして、普段は絶対誰にも見せないような切ない顔で私を見つめた。
「本当に……俺は穂乃果がいないとダメなんだ。お前がいないと……」
悠人……
あなたはいつも完璧な人。
だけど、こうして自分の弱さをみせてくれるの、正直、すごく嬉しいよ。
他の誰も知らない秘密を、私だけが知っているようで……
「こんな俺だけど、ずっと側にいてくれる?」
悠人は、私の頬を右手でそっと撫でた。
潤んだ瞳が妙に色っぽくてドキドキする。
「もちろんだよ。悠人は誰よりも素敵な人だから。私、こんなにも愛されて……本当にいいのかな? 幸せ過ぎて怖いよ」
私を強く抱きしめる悠人。
アンナはもうとっくに眠っている。
リビングには誰もいない、私達以外は……
自然に当たり前のようにお互いを求め合う2人。