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「じゃあ、これ頼んだよ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
お出かけの取締役を送り出す
鈴木 美優27歳
大手電気設備会社のOL
入社当初は、一般事務だったが……
容姿端麗の見た目と、聡明さを買われ、
常務取締役の秘書も兼務することになった。
仕事が楽しくなり、気づけば……
「私……もう、27歳じゃ〜ん‼︎」
学生の頃からずっと彼氏が居たのに……
なんで?
秘書なんてモテないじゃん!
モテ期の22歳で、結婚しておくべきだった。
学生時代の友達からは、
どんどん「生まれました〜♡」というメッセージと
共に赤ちゃんの写真が送られてくる。
「可愛いよ、そりゃあ愛すべき赤ちゃんだもの
でも、誰か私のことも愛してよ〜って、
時々叫びたくなるわよ」
「お前、またそんなこと言ってんのかよ」
「お前が早く結婚しなかったからだろ?」
呑みの相手をしてくれるのは、同期の男
井上と山本だけ。
2人共、大卒だから2歳年上の29歳。
「だって、あの時は、まだ恋愛が楽しくて……
結婚なんてまだまだ〜って言ってたら、同期女子は、皆んな結婚しちゃった」
「でも、杉野さんは、まだ独身だぞ。お前のこと待ってるんじゃないか?」
「待ってないよ……あの人は……」
「ホントのところ、どうして別れたんだ?」
「さあね、イヤになっちゃったんじゃない?
私がチヤホヤされて、ふらふらしてたから……」
「違うだろ? 杉野さんが海外赴任したからだろ?」
「そうだっけ?」
杉野 洋平31歳
美優の元カレ
美優が20歳で入社後、多くのライバルが居る中で
唯一、美優のハートを射止めた男だ。
会社に入ってからは、美優は、この洋平としか
お付き合いをしていない。
2年付き合って、そろそろ結婚か?と、囁かれた時に、洋平に海外赴任の辞令が下された。
マレーシア5年
当初は3年と言われていたが、5年に延びた。
美優と一緒に行くことも考えたが、
その頃、美優には常務取締役の秘書という大事な仕事を任されることが決まっていた。
だから、美優は一緒に行けなかった。
「だからって、何も別れなくても……」
「そうだよ、杉野さんのこと、待ってれば良かったんだよ。現に今も待ってるくせに……」
「待ってないよ! ただ、邪魔したくなかっただけだよ。エリートコースだったから……」
「杉野さんも結局、結婚しないで、待ってるんじゃないの?」
「そう、お前たちはタイミングが悪かっただけだよ。今なんじゃないか? 杉野さん、今年ようやく帰って来るみたいだし……」
「もう、なんとも思ってないよ。きっと……
新しい彼女でもいるんじゃない?」
「会った時に確認しろよ!」
井上と山本に促がされた。
正直、難しい……と思っていた美優だった。
「杉野さん、帰って来たんだって〜」
「杉野さんって誰?」
「エリートコースまっしぐらの超イケメンよ」
「えー? そんな人居たの?」
若い女子社員が騒いでる
「オイ、鈴木! 杉野さん帰って来たぞ」
わざわざ井上が言いに来た。
「へー」
「オイって……」
「今、忙しいのよ!」
「忙しい所、悪いけど、この書類、処理してもらってもイイですか? 鈴木さん!」
「ん? あっ!」
それは、まさに5年ぶりに見る洋平の姿だった。
一瞬、|時間《とき》が止まった。
「あ、すみません。お帰りなさい。分かりました」
「よろしく!」
「はい」
洋平は、何事もなかったかのように、上司の元へ行き、報告している。
若い女子社員たちは、代わる代わる見に来ては、
騒いでる。
当然、私たちが付き合っていた事など知らない。
私は、しばらく、ボーっと洋平を目で追っていた。
井上が「だから、帰って来たって教えてやったのに……良いのか? 杉野さんと話さなくて……」
「話なんてないわよ。話せる状況でもなさそうだし……」
「強がんなって……」
山本もやって来て、「早くヨリを戻さないと、若い子に取られるぞ」
「もう、戻らないよ。きっと若い子の方がいいに決まってる」
「素直じゃないな、ちゃんと話す機会、持てよ」
「……」返事できなかった。
美優は、取締役に書類を届けるために、
エレベーターを待っていた。
誰も乗っていないエレベーターに乗り込んだ。
ドアが閉まる寸前に、ドアを開ける人が……
「あ!」
洋平だ!
「何階ですか?」
「1階へ」
「え? このエレベーター上に行きますが……」
私が押した12階を見ている
「じゃあ12階で!」
「え?」
慌てて
閉まるボタンを押した洋平
「久しぶり!」
「お久しぶりです」
「元気だった?」
「はい、おかげさまで……お元気そうですね?」
真っ黒に日焼けして健康そうだった
「うん、バリバリ働いてたからね〜」
「そうですか……」
「良かった、美優、まだ居てくれて……」
「美優って呼ばないでください。会社だし……」
そう言いながら、内心、私の心臓はドキドキして
熱を帯びているようだった。
空気が薄くなってるんじゃないか? と、思うぐらいに息苦しくて、倒れそうだった。
目のやり場にも困った。
エレベーターの階数を知らせる数字を見上げた。
もうすぐ12階。
「後で電話して!」
メモ紙を渡された。
携帯電話の番号が書いてある。
「クスッ、今時、紙って……」
「え?」
「ふふっ、ううん」12階で私だけ降りた。
役員室の前だったから、わざと、洋平に深々とお辞儀をして、エレベーターを見送った。
「絶対な!」と、小声で釘を刺す洋平。
思わず、ニヤッと笑ってしまった。
夜、美優は、洋平の電話番号を登録した。
──電話番号、変わったんだ
ついでに、電話番号でメッセージを送信出来るように、無料通信アプリに登録した。
──気づくかな?私のアイコン
まさか、アプリ取ってないとか?
いや、まさかだよね……
無料アプリから電話をかけてみる
呼び出し音は、鳴るが全く出ない。
まさか……
電話番号にかけてみる
「もしもし」すぐに出た
「あの〜鈴木です」
「お〜待ってた!」
「あの〜もしかしてですけど、アプリ取ってないんですか?」
「何の?」
「無料通信アプリ」
「あ〜携帯電話、変わったばかりだから、まだ何もしてない」
「なるほど……電話番号変わったんですね?」
「携帯電話、紛失して……日本に帰って来てから買った」
「え? そうなんですね」
「なあ、美優!その敬語やめろよ」
「あ、うん」
「で、お前、結婚してないの?」
「いきなりだね〜もっと、久しぶり〜!とか、
から入るものじゃないの? 5年ぶりなんだし……」
「そっか? さっき会ったし……」
「そうだけど……」
「で? 結婚は?」
「してないよ」
「そっか、もう、とっくに違う男としてるのかと思ってた」
「う〜ん、なんだかタイミングを逃しちゃって……
元彼が海外に逃げちゃったし……」
「オイオイ、人聞き悪いな〜」
「ふふ、海外に行ったのは、事実だし……」
「美優! 元気そうで良かった」
「あなたもね。新しい彼女出来た?」
「仕事ばっかりで、全くないよ」
「そうなんだ。じゃあ日本に帰って来て、若い女子たちにキャーキャー騒がれて嬉しいんじゃない?」
「お〜なんだか久しぶりに注目されてて、気分良かったなぁ〜」
「ふふ、それだけ? あの子たちが聞いたら、ガッカリするセリフね」
「ハハ」
「エリートまっしぐらの超イケメン! って言われてたよ」
「え? そうなのか? なんだか恥ずかしいな」
「ふふふ、良かったね」
「まあな」
「で? もう、ずっと日本に?」
「うん」
「そうなんだ」
「な、美優! 俺たち、やり直さないか?」