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「――いい? 法雨。――法雨が彼らを受け入れて、法雨のトコに引き留めておいてくれたから、彼らは雷さんっていう救世主に出逢えたんだ。――法雨は、自分の手だけでは、彼らを完全に救う事が出来なかったかもしれない。――でも、彼らを救うために絶対的に必要だった選択肢を、法雨はちゃんと選べたんだ。――だから、今の彼らの安泰があるのは、法雨のおかげでもある。――俺はね、そう思うよ」
「………………」
「全ての運命はね、数多くのきっかけと選択を経て受け取れるモノなんだ。――そして、彼らが今に至るために、“雷さんの手助けを受ける”という選択肢を得るには、まずは法雨が、“何か月も彼らを受け入れ続ける”という選択をしてくれる必要があった可能性は高い、とも思う。――だからね、雷さんだけじゃなく、法雨も確かに、彼らの救い手の一人であった事に、変わりないんだよ」
「――“救い手の一人”……。――じゃあ、アタシも、ちゃんとあの子たちのためになれてたって事……?」
「そうだよ。――絶対にね」
― Drop.008『 The MOON〈Ⅱ〉』―
菖蒲の言葉に、またしばし考える様にしている法雨に、菖蒲はさらに紡ぐ。
「――もちろん、法雨が受け入れない選択肢をとった場合だって、何かしらの条件が整えば、別の形で彼らは安泰を獲得できたとは思うよ? ――運命なんて無限大にあるわけだから、その運命に関わる選択肢がさらに多く存在するのは、必然だからね。 ――だから、例えば、雷さん抜きで、法雨が彼らの事情を察して救いの手を差し伸べていたら、また違った流れを辿って彼らを救えていたかもしれない。――でもね、それも、それ以外も全部、“かもしれない”でしかない。――“そうしなかったらどうなったか”なんて事は、残念ながら教えてもらえないんだ。――だからね、“結果的に”良い運命を受け取れたのなら、その過程で選んだ自分の選択は、すべて“それで正解だった”って事なのさ」
そんな菖蒲の助言を踏まえ、法雨はひとつ想像してみる。
もし、初めて京たちに声をかけられた時に、京の言葉にすぐに応じず、雷のように、法雨も彼らの事情を察しようとしていたら――。
(――………………、駄目ね……)
法雨は、先ほど菖蒲に言われたような流れで、自身が京たちを救う運命を想像してみたのだが――、どれだけ様々なパターンを想像してみても、法雨が望む結果には至れなかった。
法雨は、どのような流れを想像してみても、あの状況下では、そもそも、彼らの事情を察する事が出来なかったのだ。
「――どう? ――やっぱり、雷さんっていうきっかけを抜いて、法雨があのコらを助けるのは、結構難しそうじゃない?」
「――えぇ……。そのようだわ……」
そう言い、法雨が諦めたような溜め息をつくと、菖蒲は苦笑して言った。
「さっきも言ったように、様々な運命は、条件に合った選択肢さえ選んでいけば、簡単に受け取れるものだ。――つまり、自分が望む、特定の運命を受け取るためには、無限大の選択肢から、条件に合った選択肢を選び、必要な条件を揃える必要があるわけだね。――でも、逆に云えば、その条件を揃える事が出来ない限りは、永遠に、望んだ運命を受け取れないって事だ。――だからさ、今、自分が受け取れた運命が、少なからず良いものであったなら、“もっと良い流れがあったんじゃないか”――なんて、余計な事を考えず、幸せな今と、これからの選択に時間を使った方が、その先の未来も、きっと楽しくなると、俺は思うよ」
菖蒲が、そう言って微笑むと、法雨は、重荷を手放したような――さっぱりとした表情を作り、溜め息交じりに言った。
「――そうね。――確かに、今のアタシじゃ、あの子たちはそれくらいしかできなかったみたいだし。――だからこそ……、それが、アタシの最善の選択だったわけよね」
「――そっ! ――そ~いうコトっ」
菖蒲は、そんな法雨に、満足げに頷いた。
そして、余っていた紅茶を飲み干すと、しばし考える様にして、自身の顎に手をやった。
「う~ん……、でもなぁ~……、――俺は平和主義だから~、皆揃ってハッピーエンドなら、それはそれでいいんだけど~……、――とは云え……、――俺の知らないトコで、そ~んなお子ちゃまオオカミたちが、俺の大事な法雨のコトを好き放題食べてた~ってのは~、ちょ~っと頂けないなぁ~……」
「――アラ。珍しい。――菖蒲がそんなお子ちゃまたちにも嫉妬するなんて」
「だってさぁ~?」
駄々をこねるようにして不満を紡ぐ菖蒲に、法雨が笑って言うと、菖蒲は近場のクッションをひしりと抱き、駄々を続けた。
「――年下相手の時の法雨はさ~、“食べる方”専門だったじゃん~? ――なのに~、今回はそのお子ちゃまオオカミたちに、大人しく抱かれちゃってたんでしょ~? ――ここ最近じゃあ、法雨を“食べる”のは、俺だけの特権だったのにさぁ~」
「――ふふ。そうねぇ。――でも、今はまた、アナタだけの特権に戻ったじゃない?」
「――まぁ~……そうなんだけどぉ~……、――う~ん……」
「――あらまぁ。アタシが思ってた以上に、秘密だったダメージが大きかったみたいねぇ。――特権が戻るだけじゃ満足できないご様子かしら?」
「――まぁね~……。――それに~、俺が法雨を食べられるのも~、法雨がフリーの間だけなんだよ? ――そんな時間制限つきの法雨なんだから、他のコに分けてあげられる分はないんだって」
法雨は、そうして駄々をこねながらクッションと熱い抱擁を続けている菖蒲を、おかしそうにして笑った。
法雨と菖蒲は、あくまでも無二の親友同士であり、恋人同士ではない。
そして、恋人同士となった事もない。
だが、そんな彼らの間には、恋人以上とも云える特別大きな信頼があり、二人は、友情と云うには大きすぎるほどの、強く深い絆で結ばれている。
そして、学生時代からすでに身体の関係もあったが、互いに“関係性の不変”を求める気持ちが一致し、一線を越えた後も、二人は友愛関係であり続けてきた。
今――、この瞬間も――。
そして、そんな二人には、ある時期から互いに想い合っている事があった。
「――まぁ、でもさ……、――俺は、――法雨が幸せになってくれるの、待ってるから」
そう言って微笑む菖蒲に、法雨も首を傾げるようにして微笑み返すと、言った。
「ふふ。いつも言ってるけど、――それはコッチのセリフだわ。――アナタは、アタシと違って“ちゃんとした恋愛”、できるでしょ? ――だから、アナタが先に幸せになってちょうだい。――そしたら、アタシもアナタを参考に頑張ってみるわ」
そんな法雨に楽しげに笑うと、菖蒲は言った。
「あはは。それは駄目だよ~。――俺は~、法雨が幸せになってくれないと~、だ~れも好きになれないからね~」
法雨は、それに、おかしそうにして笑う。
「もう、何よそれ。――そんな事言ってると、いつまでも幸せになれないわよ? ――アナタは普通に恋する事もできるんだから、アナタが先の方がお手本も見られて、アタシも早く幸せになれるかもしれないわよ?」
その法雨の言葉にひとつ唸ると、菖蒲はまた紡ぐ。
「う~ん。――まぁ、恋をする事はできるよ~? ――でも~、だからこそ、――俺は法雨の幸せを見届けてからがいいの」
法雨は、それに溜め息をついて苦笑する。
「――もう、――相変わらず強情ねぇ」
「アハハ。――それも、お互いサマ~」
「――はぁ。――まったくね……」
唯一無二の――、絶対に失いたくない――、愛しき友。
そうであるからこそ、この関係が不変のまま続く事を、互いに望んでいた。
だが、だからといって、親愛なる友の人生までを独占したいわけではないし、大切にしてもらえる人となら、一日でも早く幸せにもなってほしい。
その、心からの互いへの願いは、共に強く、この先も変わらない。
だからこそ、菖蒲は、己の直感が強く感じさせる、法雨の運命の出逢いの予感に――、ついに訪れるかもしれない愛する友の夜明けの兆しに――、大きな期待を寄せずにはいられなかったのだ。
Next → Drop.009『 The MOON:U〈Ⅲ〉』
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