テラーノベル
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入学してからの二ヵ月半、空席をいつか埋めるであろう人物を想像し、空想し、一日一人隣席のクラスメイトを描き続けた。最初は朝陽に照らされ、凛とした長い黒髪を靡かせた大和撫子のような女性をイメージして描いた覚えがある。それからは、髪を短くしたり結えたり、髪色を変えたり、表情を変えたり様々な人を描いた。
自画自賛にはなってしまうけれど、僕の絵は客観視してもなかなかの出来だと思う。
しかしながは僕の絵には欠点があった。
幼少期かは絵を描いている僕だけど、絵画には欠かせないものである色鉛筆や絵の具、水彩絵の具などの、絵に色を付け、絵を彩る道具を一切使えないのだ。
それらの道具を使うと幼稚園児が描くような簡単な絵になってしまうし、一番描き慣れてそうな色鉛筆でさえ、使うと絵の出来の深みが出ない。それは練習しても上達することはなく、いつの間にか色を付けること自体を僕は諦めてしまっていた。
それからは色々な濃さの鉛筆を使い分け、鉛筆なりに手本とした風景そのままの色を再現できるように努力を重ねている。
だけど、やはりと言うべきか、鉛筆の濃さだけで赤や青といった色を再現することは、かなりの難問だった。
今となっては、見る人が見ればある程度は色の判別をできるくらいにはなったけれど、素人が見れば白黒の綺麗な絵という感想に留まってしまうと思う。
だからこそ、僕は画力の向上も兼ねて毎日空想上のクラスメイトを描く。
それは、空想の世界、絵の世界を超えることはないと思われた。
しかし僕は、まだ見ぬクラスメイトを思い、少しの期待を胸に、描き続けた。
そして、ついに、満を持して。
僕の妄想もとい願望は叶うこととなったのだ。
梅雨らしい天候が続く中、気まぐれのように晴れた六月の最終日、六月三十日。
ある少女が、クラスの欠けたラストピースを、僕の隣の空想を-埋めたのである。
そう。
例の空想には、確かな意味があったのだ。
クラスメイト一「また明日ね」
クラスメイト二「うん、バイバイ」
帰りのホームルームが終わってから、約一時間後。
コメント
1件
前回♡ありがと。今回目標-前回よりも多い。