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「あぁーっ!もうっ!なんでこんなところに置きっぱなしなんだろ、せめて洗濯機に入れてって言ってるのに」
仕事で疲れて帰ってきたら、リビングに旦那の作業服が脱ぎ捨ててあった。
12時から5時間だけのパートでも、なかなかの体力仕事で終わる頃には、かなり疲労している。
「まったく!何回言っても…あっ!」
仕方なく洗濯物を集めて洗濯機へ持っていこうとしたときに、コツンと何かを蹴っ飛ばした。
足元を見ると、まだ半分くらいは残ってたであろうコーラの缶が倒れてコーラが溢れていた。
「もうっ!なんで飲み残しを床に置くのよっ!せめてテーブルに置いてってば!」
いつもいつも、どうしてこのちょっとしたことをやってくれないのかな。
昨日だってそうだった。雨に濡れた靴を玄関に脱ぎっぱなしで、濡れた足跡が廊下に残っていた、思い出したらよけいに腹が立ってきた。
「ええーいっ!!」
手に抱えていた旦那の作業服で、コーラを拭いてやった。
そのまま、フローリングを拭きとって、それから洗濯機へ放り込む。
「あっ!」
洗濯物から丸まった靴下が落ちた。
「ああーーーーーーっ!もう、馬鹿やろーっ!どうしてちゃんと伸ばさないの!洗えなくても知らないからね!」
ひとしきり大きな声で叫ぶ。
旦那はリビングの奥の和室にいるはず。
息を潜めているのか、布団に寝てるのかわからないけど、聞こえないフリをしてるのはわかる。
「にゃー」
猫のタロウがやってきた。
「なに?お腹すいたの?あ、いたっ」
頭を撫でようとしたら、猫パンチで爪にやられた。
「もう、痛いなぁ。どうしていまだに懐いてくれないのかな、こら、タロウ!あんたのご主人様は、爪の手入れもしてくれないの?」
がさっと音がして、和室から旦那が出てきた。
「タロウ、お腹すいてるみたいだから、ご飯あげて。それから爪を切ってやってね、痛いから」
餌の皿にカリカリを入れる旦那。
タロウは、旦那の足に頭をこすりつけている。
「よしよし、いい子だ、たんとお食べ」
私に返事はないのに、タロウには話せるのか?
イライラがさらに増す。
「それからさ、コーラと、洗濯物!何回言ったらわかるの?昨日だって濡れた靴でさ…」
さっきまでの愚痴を、もう一度本人に突き付けようとまくしたてる。
「…あとでやろうとしたんだよ、ちょっと待っててくれたらやったのに」
「はぁ?」
子供みたいな言い訳に、私の怒りのボルテージはぐんぐん上がった。
気配でわかったのか、慌てて和室に戻る旦那。
バン!と思いっきりクッションを投げつけてやった。
いつからだろう?
旦那に対して腹が立つことばかりなのは。
こんなはずじゃなかった、と思う。
優しい人だった。
おとなしく、私のことを守ってくれる人だと思った。
出会った頃、旦那にはバツが1ついていて、2度目の結婚をしてた。
私には1、離婚したばかりだった。
つまり今は旦那にとって私は3番目の妻。
私にとっては
2人目の旦那。
思い返せば、私が離婚して間もなくの頃、まだ2番めの結婚をしていた旦那と出会った。優しそうで大人の雰囲気を出していたからか、その時の私が離婚してまもなくで弱っていたからか、惹かれて強くアピールしたのは私だった。
不倫なんてするつもりはなかったんだけど、結婚している旦那が幸せそうに見えなかったんだよなぁ。
それでつい
「今すぐ離婚してこい!私が幸せにしてやるから」
なんて言ってしまって今にいたるわけで。
あ、略奪婚じゃん、私。
出会った頃は、この人の何もかもが好きだと思っていたのに、違った。
2番めの結婚を終わりにさせて入籍したときは、私ってなんて幸せなんだろ!とか思ったのに。
カリカリと餌を食べていたタロウが、旦那がいる和室の前で鳴き始めた。
「にゃーん、にゃにゃん」
前足で、襖ふす襖を開けようとしている。
「ちょっと、タロウが中に入れてって言ってるから開けてやって」
スッと10センチほど開いて、タロウを招き入れる旦那。
座ったままの旦那の頭頂部が見えた。
あれ、あんなに薄かったっけ?
なんてあらためて思った。
9才の年の差は、意外と大きいな。
一旦閉まった襖がまた開いた。
「あのさ、明日から長期の出張だから」
「は?どれくらい?」
「半年は帰れない」
「あ、そう」
「タロウを頼むわ」
「それだけ?」
「…うん」
他に言うことあるでしょ?と思ったけど。
まぁ、いいか。