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その日。
深澤は一人、家のソファに座ってテレビを見ていた。
特に見たい番組があったわけではない。
スマホを触りながら、なんとなく流していただけだった。
『あなたにとって、一生を共にしたい人は――』
聞き覚えのある声に、深澤が顔を上げる。
「あ。」
テレビに映っていたのは目黒だった。
最近放送が始まった、婚活サイトのCM。
綺麗なチャペル。
白いタキシードを着た目黒が、誰かを待っている。
そして。
扉が開いた。
華やかなウエディングドレスを身に纏った阿部が、ゆっくり目黒の元へ歩いていく。
「……綺麗だな。」
仕事なのは分かっている。
二人とも俳優として演じているだけ。
それでも。
目黒の前まで辿り着いた阿部は、本当に幸せそうに笑っていた。
目黒も同じだった。
最後。
二人が顔を見合わせて笑ったところで、CMが終わる。
「……。」
深澤はスマホを置いた。
何となく。
左手を見る。
薬指。
当然、何もない。
「結婚、かぁ……。」
今まで。
考えたことがなかったわけではない。
照とは長い。
もう、付き合っている年数を数える方が面倒なくらい一緒にいる。
今さら。
恋人という言葉だけでは説明できないくらい。
家族みたいで。
メンバーで。
親友で。
それでも、ちゃんと恋人だった。
「……プロポーズ。」
口に出してみる。
妙に恥ずかしくなった。
「いやいやいや。」
一人なのに手を振る。
そもそも。
今の自分たちは。
婚約なんてできるのだろうか。
結婚となれば、もっと難しい。
阿部と目黒だってそうだ。
あれだけお互いを人生の伴侶として選んでいても、婚姻届の騒動があっても。
法律上の婚姻届は出せていない。
だから。
自分たちだって。
簡単な話ではない。
「……でも。」
深澤はもう一度テレビを見る。
別のCMが流れている。
さっきの阿部の笑顔が頭から離れなかった。
婚姻届が出せるかどうかと。
この人と一生一緒にいたいと約束することは。
別なのかもしれない。
(俺から……?)
照から言われるのを待つ必要もない。
自分から言えばいい。
逆プロポーズ。
そこまで考えて。
深澤は急に真顔になった。
最大の問題がある。
照は慎重。
とにかく慎重。
自分たちの仕事。
メンバー。
事務所。
将来。
法律。
きっと全部考える。
そして。
『今じゃないと思う』
なんて言われたら。
「……。」
想像した。
指輪を差し出す自分。
困った顔をする照。
そして。
『ごめん』
「無理。」
深澤はソファに倒れた。
「絶対無理。」
そんなことになったら。
一生立ち直れる気がしない。
翌日から同じグループで活動する自信もない。
振られるわけじゃない。
分かっている。
照が自分を大切にしてくれていることくらい。
誰より知っている。
でも、プロポーズを断られるのは別だ。
深澤は天井を見つめた。
(じゃあ……。)
断れなければいい。
自分で思いついて。
ゆっくり起き上がる。
照が、絶対に断れない状況。
深澤の頭が回り始めた。
二人きりだから。
冷静に考える時間を与えてしまう。
だったら。
大勢の前。
それも。
逃げられない場所。
(……番組。)
メンバー全員で出演するバラエティ番組。
何度もお世話になっているスタッフ。
メンバー全員が揃う。
カメラもある。
そこで。
サプライズ。
「……これだ。」
深澤の顔が明るくなる。
みんなの前で。
カメラが回っていて。
自分が指輪を持って。
真剣にプロポーズする。
慎重な照でも。
さすがに。
(……断れないでしょ。)
完璧。
深澤は満足そうに頷いた。
しかし。
数秒後。
「いや、最低じゃね?」
自分で気付いた。
完全に外堀を埋めている。
というより。
逃げ道を全部塞いでいる。
「……。」
少し悩む。
でも。
断られるのは怖い。
「……サプライズだから。」
何の言い訳にもなっていなかった。
深澤はスマホを手に取る。
メンバーには。
言わない。
阿部に言えば絶対、
『それ、照にちゃんと聞いた方がよくない?』
と言われる。
佐久間も阿部と同じ事を言いそうだ。
目黒はすぐ顔に出る。
渡辺には馬鹿と言われる。
宮舘には冷静に諭される。
ラウールには正論を言われる。
康二はうっかり喋りそう。
つまり。
誰にも言えない。
「よし。」
次の収録で番組スタッフに、頭を下げよう。
一生に一度のお願い。
サプライズプロポーズをさせてください、と。
___________
数日後。
深澤は一人で事務所の人に時間を作ってもらっていた。
「……相談したいことがありまして。」
珍しく緊張しながら頭を下げる。
仕事の相談ではない。
もっと個人的なこと。
「実は……照に、プロポーズしようと思ってて。」
口にした途端。
一気に恥ずかしくなった。
「俺から。逆プロポーズっていうか……。」
そこまで説明して、深澤は恐る恐る相手の反応を見る。
しかし。
返ってきたのは予想外に穏やかなものだった。
「それで、どうしたい?」
「……え?」
「何か協力が必要なんでしょ?」
「いや、あの……いいんですか?」
「ちゃんと先に相談してくれたからね。」
そして笑いながら付け足された。
「目黒と阿部で、だいぶ慣れたから。」
「……婚姻届事件。」
思わず素で呟いてしまった。
それでも。
反対されなかったことに、深澤は胸を撫で下ろした。
むしろ。
「相談してくれてありがとう。」
そう言ってもらえた。
___________
続いて。
メンバー全員で出演するバラエティ番組のスタッフにも相談した。
収録後。
岩本やほかのメンバーが帰ったことを確認してから、深澤だけが残る。
「あの。」
「はい?」
「すげぇ個人的なお願いなんですけど……。」
深澤は頭を下げた。
「番組で、照にサプライズプロポーズさせてもらえませんか?」
「……!」
スタッフが驚く。
深澤は慌てて続けた。
「もちろん無理だったら全然! 事務所には相談してあって――」
「やりましょう。」
「……早くない?」
即答だった。
「いいんですか?」
「ぜひ。」
「マジで?」
「せっかくなら、ちゃんと時間をかけてやりましょう。」
スタッフはすでに楽しそうだった。
「次の収録が二週間後ですよね。」
「はい。」
「そこで最高のプロポーズにしましょう。」
「……。」
深澤は少し感動した。
「ありがとうございます……。」
「指輪は?」
「あ。」
何も考えていなかった。
「必要ですよね。」
「プロポーズですからね。」
「買います。」
そこは自分で選びたい。
照に渡すものだから。
誰かに決めてもらいたくなかった。
「俺が選んで、用意します。」
「分かりました。」
スタッフがメモを取っていく。
そこまでは。
比較的まともな打ち合わせだった。
しかし。
話が進むにつれて。
だんだんおかしな方向へ向かい始めた。
「衣装どうします?」
「衣装?」
「せっかくなら特別な衣装があった方が。」
「……。」
深澤は考える。
そして。
数日前に見たCMを思い出した。
華やかなウエディングドレス姿の阿部。
「……ウエディングドレス。」
「いいですね!」
スタッフの食いつきがすごかった。
「待って待って。」
自分で言っておきながら深澤が止める。
「俺が着るの?」
「逆プロポーズですし。」
「いや、それ関係ある?」
「華やかですよ。」
確かに。
華やかではある。
そして。
深澤の頭に本来の目的が蘇った。
絶対に断られないプロポーズ。
「……ドレス着てた方が断りづらいか。」
「そこですか?」
「そこ大事なんです。」
照は優しい。
ウエディングドレスを着て。
指輪まで用意して。
大勢の前でプロポーズされたら。
「……さすがに断れないでしょ。」
「深澤さん。」
「はい。」
「だいぶ力技ですよ。」
「知ってます。」
自覚はあった。
___________
問題は。
どうやって岩本に気付かれず、収録中にドレスへ着替えるか。
「最初から着てたらバレるし……。」
「当然ですね。」
「途中で俺だけいなくなるのも変だよね。」
スタッフと一緒に台本を眺める。
その日の企画は。
メンバー全員で挑戦するクイズ企画。
最後には。
成績の悪かったメンバーに罰ゲームが用意されている。
「……これだ。」
深澤が罰ゲームの文字を指差した。
「俺、負けます。」
「わざと?」
「わざと。」
スタッフも意図に気付いた。
「罰ゲームの準備ってことにして、裏に行ってもらう?」
「そう。」
そこで。
ドレスに着替える。
その間にスタジオもプロポーズ仕様へ変更。
何も知らないメンバーと岩本を残して。
準備が整ったら。
深澤が登場する。
「完璧じゃない?」
「かなり大掛かりになってきましたね。」
「一生に一回だから。」
その言葉を口にすると。
深澤の表情が少しだけ変わった。
ふざけているように見えて。
気持ちだけは本物だった。
長い間。
隣にいてくれた人。
これから先も。
ずっと隣にいてほしい人。
だから。
自分から伝えたかった。
「……絶対成功させたい。」
スタッフも笑った。
「成功させましょう。」
「お願いします。」
深澤は深く頭を下げた。
こうして。
岩本以外のメンバーにも一切知らされない、極秘サプライズプロポーズ計画が動き始めた。
指輪。
ウエディングドレス。
クイズでわざと敗北。
罰ゲームと見せかけて着替え。
番組スタッフ全面協力。
計画は着々と完成へ近付いていた。
コメント
1件
深澤くんの「逆プロポーズ」大作戦、どうなるんだろうってドキドキしながら読んだよ…!「断られるのが怖い」って気持ちから、ウエディングドレスで逃げ道を塞ごうとする発想が深澤くんらしいなって思った。でもちゃんと事務所にも番組スタッフにも相談して、準備を進めてる姿がすごく真剣で、照くんへの気持ちが伝わってきたよ。みんなの前でサプライズ、絶対成功させてほしいな…!
kaede🍁
4,612
りゅず
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