テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1,385
#⛄️
kaede🍁
18,368
125
そして迎えた、収録当日。
深澤は朝から落ち着かなかった。
鞄の中には、小さな指輪の箱。
何度確認したか分からない。
収録前。
誰にも見られない場所で、担当スタッフへそっと箱を渡した。
「これ、お願いします。」
「お預かりします。」
スタッフは大切そうに受け取る。
「絶対なくさないでくださいね。」
「もちろんです。」
「本当に。」
「深澤さんの顔見れば、どれくらい大事か分かります。」
「……恥ずかしいな。」
スタッフが笑う。
「準備は完璧ですよ。」
深澤は深く息を吐いた。
あとは。
予定通り進めるだけ。
___________
収録が始まった。
最初は普通のクイズ企画。
何も知らない岩本も。
他のメンバーも。
いつも通り楽しそうに参加している。
深澤だけが。
密かに答えを間違え続けていた。
「ふっか今日やばくない?」
佐久間が笑う。
「うるさい。」
「さっきから全然当たってないやん。」
康二まで笑う。
岩本が少し心配そうに深澤を見る。
「今日調子悪い?」
「全然。」
本当は。
分かっている問題もある。
それでも。
間違える。
「最終問題!」
司会の声。
ここでも。
当然のように外した。
結果。
罰ゲームは深澤。
「うわ、最悪!」
大袈裟に頭を抱える。
心の中では。
(よし!)
予定通りだった。
「罰ゲームの準備がありますので、深澤さんはこちらへお願いします!」
スタッフに案内される。
「行ってきまーす。」
手を振りながらスタジオを出る。
岩本が笑いながら言った。
「頑張って。」
その言葉に。
深澤の胸が少しだけ痛くなった。
(照。)
(待っててね。)
___________
深澤が裏へ消えたあと。
残った八人は。
別の企画を撮影すると説明されたらしい。
その間に。
深澤は別室へ案内されていた。
扉を開ける。
「……え。」
思わず固まった。
衣装。
メイク道具。
アクセサリー。
ヘアセット用の道具。
何人ものスタッフ。
「本格的すぎない?」
深澤は笑ってしまった。
「罰ゲームの準備じゃないじゃん。」
「今日は主役ですから。」
スタッフが笑う。
「座ってください。」
「はい……。」
椅子へ座る。
そこから。
想像以上の準備が始まった。
肌を整え。
メイクをして。
髪も丁寧にセットされる。
「ちょっと待って。」
鏡を見る。
「俺、普通に綺麗じゃない?」
スタッフが笑う。
「もっと綺麗になりますよ。」
そして。
衣装ラックから。
大きなカバーが外された。
「……。」
深澤は言葉を失った。
真っ白な。
華やかなウエディングドレス。
「これ……。」
「深澤さん用です。」
「マジ?」
想像していた。
確かに。
ウエディングドレスを着たいと話した。
でも。
自分が考えていたものより。
ずっと豪華だった。
長い裾。
繊細なレース。
ライトを受けると僅かに輝く装飾。
「やりすぎじゃない?」
「一生に一度かもしれないので。」
その言葉に。
深澤は少しだけ黙った。
「……そっか。」
慎重に。
ドレスへ着替える。
スタッフに手伝ってもらいながら。
最後に。
鏡の前へ立った。
「……。」
自分なのに。
自分ではないみたいだった。
「照……。」
これを見たら。
どんな顔をするのだろう。
笑う?
驚く?
泣く?
それとも。
困る?
最後だけは。
今も怖かった。
___________
準備中。
スタッフの一人が言った。
「ちなみに。」
「はい?」
「スタジオも、もう変更始まってます。」
「変更?」
「式場っぽく。」
深澤が振り返る。
「え?」
「簡単なものじゃないですよ。」
「ちょっと待って。」
「照たちにバレない?」
「別企画ってことで、別室に移動してもらってます。」
完璧だった。
スタッフは続ける。
「バージンロードみたいな通路も作って。」
「花も用意して。」
「照明も調整してます。」
深澤はだんだん不安になる。
「本当に番組?」
「番組です。」
「結婚式場じゃなくて?」
「今日は半分くらい式場ですね。」
スタッフが笑う。
「そこまでしてもらっていいんですか?」
深澤は申し訳なくなってきた。
すると。
スタッフの一人が。
少し真面目な顔で答えた。
「いいんですよ。」
「……。」
「深澤さん。」
「いつもこの番組で司会して。」
「メンバーが喋りやすいように振って。」
「スタッフが用意した企画も盛り上げてくれるじゃないですか。」
深澤は黙る。
「自分が目立つより。」
「メンバーとか、ゲストとか。」
「周りを引き立たせてくれる。」
「……。」
「だから今日は特別です。」
スタッフが笑った。
「深澤さんが主役の日があってもいいと思って。」
「……。」
その瞬間。
目の奥が熱くなった。
「やば。」
深澤は慌てて上を見る。
「泣きそう。」
「駄目です!」
メイクスタッフが笑う。
「まだ泣かないでください!」
「無理無理。」
「今泣いたらメイク直しです。」
「そっち?」
「本番まで取っておいてください。」
深澤は笑いながら目元を押さえる。
「ありがとうございます。」
本当に。
それしか言えなかった。
「すげぇ嬉しい。」
スタッフも笑った。
___________
最後。
イヤリングをつけ。
ベールを整える。
準備完了。
スタッフが少し離れて全身を見る。
「完璧。」
「本当に?」
「岩本さん、絶対驚きますよ。」
「断れない?」
「そこまだ気にしてるんですか?」
「そこ一番大事。」
全員が笑う。
すると。
一人のスタッフが。
完成した深澤を見ながら呟いた。
「セット代。」
「衣装代。」
「スタッフ総出。」
「……。」
嫌な予感。
スタッフは笑顔で言った。
「深澤さん。」
「しばらくこの番組、ノーギャラですね。」
「え!?」
一瞬。
深澤が本気で驚く。
直後。
部屋中に笑い声が響いた。
「嘘です!」
「びっくりした!」
「顔、本気でしたよ。」
「いや、払えるなら払うけど!」
「プロポーズのために出演料返す人初めてですよ。」
深澤も笑った。
緊張が。
少しだけ和らいだ。
その時。
スタッフが。
大切そうに指輪の箱を差し出した。
「深澤さん。」
「……はい。」
受け取る。
朝。
預けた指輪。
今度は。
驚くほど重く感じた。
「準備できました。」
「……。」
深澤は指輪を握る。
扉の向こうには。
何も知らない岩本がいる。
そして。
何も知らないメンバーも。
深澤は大きく深呼吸した。
「行きます。」
もう。
後戻りはできなかった。
コメント
1件
うわあ、もうここまで準備が整っちゃったんだ…!スタッフが総出で協力して、スタジオまで式場に変えてしまうって、本当に愛情込められたサプライズだね。深澤が「自分なのに自分じゃない」って鏡の前で呆然とする姿と、スタッフに「ありがとうございます」って言うシーンにグッときたよ。岩本、何も知らずに「頑張って」って送り出したんだな…その後の展開を知ってる読者としては切なくも甘い気持ちになる。指輪を握った深澤の緊張がひしひしと伝わってきて、本番が待ち遠しい!