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あいつに出会ったのは六月の初めだった。
雨雲で暗くなった屋上にあいつは 居た。
今にも柵から飛び降りそうな勢いで宙に手を伸ばす女。
全身が雨に濡れているのに、不思議に輝いているように見える。
女は無表情だが、どこか少年のような野心に満ち溢れた気配がしていた。
俺とは違う、自由な気だ。
しばらく扉のそばから見ていると、女はこちらを振り返った。
強い力を持った瞳だった。
俺に気づくとふっと微笑み、
「やぁ」
と声をかけてきた。
俺は咄嗟に「やぁ」と返事をした。
女は俺を横切り、階段を降りて行った。
以前雨はやまない。
山に囲まれているからか、あたりには濡れた土や木々の匂いがほのかに漂っている。
太陽のない灰色の空は暗く淀んでいた。
雨の音以外、何も聞こえない。