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#主人公最強
伊織
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「ああ……私の1000万ルクのエメラルドちゃん……」
自室へ戻った私は、執務机に突っ伏した。まるで、理不尽に引き裂かれた最愛の恋人を想うかのように。
3秒後。ガバッ!勢いよく顔を上げる。
(落ち込んでる暇なんてないわ! こうなったらプランCよ!)
エメラルドが宝物庫から動かせないなら、別の方法で稼げばいい。皇帝陛下は仰った。
――1000万ルクを使って、貧民街を救え、と。
(……救ってあげるわよ。最高効率でね!)
口元を、にやりと吊り上げる。万年筆を掴み、紙へ数字を書き殴った。
貧民街の人口は、およそ5000人。税収はほぼゼロ。一方で、食料配給、慈善病院への補助、治安維持――支出ばかりが膨らみ続けている。
(完全なる万年赤字体質……!)
もちろん、今日食べるパンを配ることも、病人を治療することも必要だ。でも――。
(明日も誰かからパンを恵んでもらわなきゃ生きていけないままじゃ、何も変わらない)
だったら、自分で稼いで買えるようにすればいい。まずは、1か月間の短期集中型・職業訓練校を作る。適性に合わせて3コース。
事務――読み書きと計算が得意な者。
調理――料理経験のある者。
清掃――体力自慢。
(でも、今日の食事にも困ってる人に『1か月無給で勉強しなさい』なんて言ったって、通えるわけないわよね)
なら、訓練中の食事はこちら持ち。
(……あ。子どもがいたら、それどころじゃないか)
学校と託児室も併設!調理コースの実習で、訓練生の昼食と子どもの給食を作る。清掃コースの実習で、施設と貧民街を綺麗にする。
(職業訓練しながら、食事も教育も衛生改善もまとめて解決)
(……完璧じゃない♡)
「うふふふふふっ」
「お、お嬢様っ!?」
カチャッ!アンナがハーブティーを机へ置いた。
「さっきから目がバッキバキで怖すぎますよ!?」
「アンナ」
「は、はいっ!?」
「万年赤字の貧民街を、自分で稼げる街に変える錬金術を思いついたわ!」
「わあ!」
アンナの目がぱっと輝く。
「お嬢様のガメつさ……いえ、商売魂なら、あっという間にうまくいっちゃいますよ!」
問題は施設だった。500人規模の職業訓練校に、食堂、学校、託児室。一から全部建てれば、1000万ルクなど一瞬で吹き飛ぶ。
けれど――。
(あるじゃない)
以前の視察で見つけた。治安悪化によって大手商会が撤退し、放置されている巨大倉庫群。
(あれを使わない手はないわ!)
***
「……あの放置倉庫が欲しいのか?」
カイル殿下が目を丸くした。
「ええ。所有している商会の代表者へ、取り次いでいただけません?」
「それは構わないが……」
わずかに眉を寄せる。
「一人で大丈夫なのか? 俺が同行してもいい。買い取って贈ることもできるが」
「結構ですわ。欲しいものは、自分で手に入れる主義なので」
「……そうか」
カイル殿下は小さく息を吐いた。
「分かった。お前に任せる」
「感謝いたしますわ、殿下♡」
***
「こちらの倉庫でしたら――300万ルクでお譲りいたしましょう」
商会代表が、揉み手をしながらにこやかに微笑んだ。
「…………」
私は見積書へ視線を落とす。
「貧民街とはいえ、あれほど広大な倉庫群です。皇太子妃殿下であれば、この程度など端金でございましょう?」
男の視線が、私のドレスを値踏みするようになぞった。
(はいはい)
(世間知らずで浪費家の皇太子妃なら、相場も知らずにホイホイ払うと思ったわけね)
「そうですわねぇ……」
優雅に扇子を開く。そして、にっこり笑った。
「60万ルクで」
「…………はい?」
男の笑顔が凍りついた。
「ろ、60万ルク!? ご冗談を! 300万ルクの超優良物件ですぞ!?」
「優良?」
小首を傾げる。
「3年間、誰一人買い手がつかずに埃を被っていた粗大ゴミが?」
「なっ……!」
「アンナ」
「はいっ!」
バシッ!アンナが書類を机へ叩きつける。
「昨年度の維持管理費です!」
「さらに今年は、屋根と外壁の大規模補修が必要ね。修繕見積書を」
「はいっ!」
2枚目の書類が滑り込む。男の顔から、さっと血の気が引いた。
「商会はすでに、この地区から完全撤退済み。今後使う予定もない」
私は扇子をぱちんと閉じた。
「それでも所有し続ければ、維持費、警備費、修繕費が毎年かかり続けますわ」
「そ、それは……」
「300万ルク? 笑わせないでいただけるかしら?」
「ぐっ……! ひゃ、150万!」
「80万」
「いきなり半額近くに値切るなんて無茶苦茶だ!」
「こちらも20万ルク譲歩いたしましたわ」
「どこが譲歩ですか!?」
(ふん。意外と粘るわね)
「では、結構ですわ」
「え?」
私はすっと立ち上がった。
「他を当たりますわ。では、ごきげんよう」
「お、お待ちください!!」
(ほら来た)
こちらには、別の建物を探す選択肢がある。でも向こうは、この機会を逃せば、今後も使わない負動産へお金を払い続けるだけ。私は振り返った。
「80万ルク」
「…………」
「厄介事が一つ綺麗さっぱり片付く。悪い取引ではないでしょう?」
長い沈黙。そして――。
「……分かりました」
代表は、がっくりと肩を落とした。
「80万ルクで、お譲りいたします……」
「まあ! ありがとうございます♡」
さらさらと契約書へ署名する。
「……妃殿下」
「何か?」
「噂とは……随分違われるのですな」
「あら」
扇子で口元を隠し、微笑んだ。
「どんな噂かは存じませんけれど――お金をドブへ捨てる趣味だけは、ございませんので」
***
「……80万ルク?」
皇宮へ戻って報告すると、カイル殿下が絶句した。
「はい」
「代表からは、300万ルクほどだと聞いていたが……」
「私もそう言われましたわ」
「…………」
しばし沈黙。
「……よくやった」
「当然ですわ」
私はすかさず彼の手を両手で包み込んだ。
「……?」
ぐいっと引き寄せ、可愛らしく上目遣いをする。
「ところで……私、世界で一番頼りになる殿下にしかお願いできないことがございますの♡」
コメント
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うわ、第36話もめっちゃ面白かった!主人公の「欲しいものは自分で手に入れる」スタイル、最高に気持ちいいわ。300万ルクを80万に値切る交渉シーン、めちゃくちゃ痛快だった。相手の状況見抜いて、冷静に畳み掛ける感じがかっこよすぎる。貧民街を自立させるプランCも、職業訓練×託児所×食事支給で一気に回す設計、頭良いなって思った。カイル殿下に「よくやった」って言われてからの上目遣いの駆け引き、ニヤニヤしちゃったよw 続きが気になる!