テラーノベル

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テラーノベル(Teller Novel)

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「わぁ……!」


街の入口、”GRASSLAND グラスランド MIDDLEミドル“と木の板に掘られた横看板の下を通れば、街中は子供から老人まで人々で溢れかえっていた。右にも左にも人、人、人。

沢山の人間。賑わう街。人酔いしそうになるテールだったが、太陽や空。草や木。鳥や猫。本や想像の中でしか知らなかった光景を目にし、これが外なのだと実感して目を輝かせた。


(この世界も一応本の中だけど……)


「貴方、こういう場所に来るのは初めて?」


「は、はい」


「そう。この街は名前の通り、広い草原の中心にあるらしいの。人によっては”グラミドの街”って省略して呼ぶ人もいるわ。長時間草原の中を進んできた人達の休息場所にもなってて、宿や酒場、お土産屋も沢山あるの。旅人から遠征帰りの兵士など、各地域から色んな人が足を休めに来るから、そういう人達相手に商売するため、わざわざ街に来る商人や情報交換をする場所として集まる人もいる。だから、辺鄙へんぴな場所にある小さい街の割に商売が盛んで人が多いの」


(詳しい……)


大通りを歩けば食べ物や置物、服などの商品を売る露店や屋台が並んでいて、昼間だと言うのに酒場からは大勢の笑い声が聞こえ、道の端では大道芸を行う者、占いを行う者もいる。

テールにとっては小さな街すら異世界。目に入るもの全てが好奇心を刺激するには十分なほど、魅力的に見えた。


(これが”街”。凄い……!)


はぐれないよう、シャーロットの後ろに付いて行きながら露店を見て周っていると、近くにいた女性二人の会話がテールの耳に入る。


「そういえば、この街に”雷人”が来てるって噂、知ってる?」


「あ、それ。うちの旦那も言ってたわ。怖いわよねぇ。街の建物壊されたらたまったもんじゃないわ」


(────”雷人”?)


「テール、どうしたの?」


女性二人の会話に気を取られていたテールは、シャーロットに名前を呼ばれて正面を向き、「なんでもないです」とシャーロットの元に駆け寄る。


「広場の方が屋台も沢山あって休める場所もあるからそっちに行きましょう」


「はい」


広場周辺に屋台が集結しているということで、奥へと進む二人。テールは歩きながら、女性二人の会話に出てきた”雷人”についてシャーロットに尋ねてみることにした。


「あの、”雷人”ってなんですか?」


「雷人?」


「はい。さっき女性達が話してるの聞いて気になって……」


「そうねぇ。私も最低限の情報しか知らないけど、建物は壊すわ人は襲うわ、時には盗賊みたいな真似をして物を盗むならず者って話よ。色んな町に噂が広まってて、あまりに凶暴だから怖がる人もいるみたい」


「おっかない人ですね」


「一年前、北方にあるノースの町で暴れたのがきっかけで、”雷人”の噂が広まり始めたのを覚えてるわ。それ以降、周辺の街でも散々やんちゃして、先月はサウスシティで建物まで壊したみたいよ」


もはや、やんちゃで済まされない暴れっぷりにテールは顔を引き攣らせた。そんな人物がこの街に居る。

そう考えただけでも確かに恐ろしい。出来れば遭遇したくない。けれど、そう考えると遭遇してしまうのが物語内における”フラグ”と言うもの。なるべくマイナス思考にならないよう意識しながらテールはシャーロットの話に耳を傾ける。


「しかもその雷人、十〜十二歳程の子供らしいわよ」


「えっ、子供!? しかも十〜十二歳って、とんだガキ大将ですね……」


「そうね。けど────」


広場のすぐ側まで来ると、中心に設置された噴水周りを囲うようにして人だかりが出来ており、二人は足を止めた。何かあるのだろうか。

確かめるために人混みをかき分け、前へと出る。

噴水の前に居たのは、剣を腰から下げた人柄の悪そうな男五人と、額にゴーグルをかけた銀髪の青年。左目の下には頬にかけて黒い刺青にも見える痣がある。

青年の後ろには紫の髪を右側にサイドテールにした少女が立っており、男達と青年は双方睨み合って険悪な雰囲気だ。喧嘩だろうか。様子を見守っていた街の人達の話し声がテール達にも聞こえてくる。


「何があったんだ?」


「連れの女の子があの男連中に絡まれたらしい。とはいえ、相手が相手だしなぁ」


「絡んだ連中はあの”ヨムスヴァイキング”の仲間って話だろ? 噂じゃあ傭兵団はバルブロ様が雇ったって話だ」


話を聞いていたシャーロットが「ヨムスヴァイキングの仲間を雇ったですって?」と眉をひそめれば、テールは「あの、ヨムスヴァイキングって何ですか?」と首を傾げる。


「伝説の傭兵団のことよ。”ヨムス傭兵団”とも呼ばれてて、時には盗賊団として略奪も行ったり、相当な額の報酬を支払えるなら相手の立場関係なく味方として戦ってくれるとか。色んな噂はあるけど、腕の立つ戦士が集まっているとも聞いてるわ。ただ、物騒な連中であるのに変わらないから関わらないのが一番。それに……」


「おい、ガキ」


シャーロットが何かを言いかけると、傭兵団の一人である小太りで背の低い男が口を開き、言葉を遮られる。男の視線は目の前に立つ銀髪の青年に向けられていた。


「喧嘩売る相手は選んだ方がいいぞ」


小太りの男が威圧するように顔を近付ければ、青年も負けじと前のめりになって言い返す。


「そりゃあこっちのセリフだ。先に俺の仲間に手ぇだしたのはそっちだろ。全体的にセンスのおかしいビビアナでも、お前等みたいな連中選ぶかよ。むしろビビアナにしつこく声をかけてきたお前等のセンスの方がどうかしてるぜ」


「ちょっと! 誰のセンスがおかしいって!? というかどう言う意味よ!?」


「お前の服選びのセンスとか何か……変だろ?」


「失礼ね!! どっからどう見ても見事なセンスでしょ?」


青年に”ビビアナ”と呼ばれた少女は納得いかない様子で反論するも、傍目から見ても青年の認識はあながち間違いではないのか、傭兵の男達もつい口を閉じてしまい、ビビアナから「何でそこで黙るのよ!!」と指摘されてしまう。

現にビビアナの格好は黒と紫色を基調にしたタイトワンピースに腰には黒いコルセット。

落ち着いた暗い色のお陰で派手さは抑えてあるが、オフショルダーの袖部分はコウモリの羽のデザインになっており、単にゴシックドレスと言うには幼く、まるで仮装パーティー用に着るコウモリ風ドレスの類のようだ。

見ようによってはただのコスチュームにも見えるため、単に”ダサい”と形容するには難しく、ビビアナのセンスは”人を選ぶ絶妙なセンス”と言った方が的確かもしれない。

そんな服を言われるまで違和感なく着こなせていたのだから流石だとテールは静かに感心した。


「威勢が良いだけのガキは相手するのがメンドクセェな」


テールが感心している間にも、背が一八〇程あるだろう褐色肌で体躯の良い男が一歩一歩青年に近付き、突然胸ぐらを掴む。


「それ以上舐めた口聞いてみろ。何も出来ねぇ癖にしゃしゃり出てくんなよガキが」


「あ? そりゃあこっちのセリフだ。迷惑しかかけらんねーくせに威張り散らしてガキかよ」


青年の言葉に男の眉がピクッと反応する。

男は青年の胸ぐらを掴む手に力を入れると、もう片方の手を開いた。次の瞬間、手の平から”炎”が現れ、その場にいたテールや街の人達がどよめく。


(今のは、何……?)


「”魔法”……!」


「え、魔法?」


「ただ単に剣の腕が立つだけならまだしも、ヨムスヴァイキングには魔法を使える者もいると聞くわ。だから厄介なの」


シャーロットの発言で、テールはこの世界に”魔法”が存在することを初めて知る。同時に、魔法が使える相手に対し、魔法を使えない生身の人間がどう対抗すればいいのだろうと考えた。魔法で反撃出来ないのなら青年は明らかに不利だろう。だが、助けに入る者はいない。たった一人────────


「火炙りにしてやるクソガキがっ」


(……!)


「”流れる水よ、熱する炎を消したまえ──────〈水よアクア〉”!」



──────シャーロットを除いては。



(シャーロットさんも、魔法を!?)


約二十八センチ程の杖を持ったシャーロットが呪文を唱えれば、噴水の水が生き物のように動き出し、青年以外の男達にかかる。

火が消えたのを確認すると、青年は胸ぐらを掴んでいた男の腕を両手で掴み、顎を狙って蹴りを入れた。


「ぐっ……! このガキが!」


男性が青年から手を放したまでは良かったが、一触即発。だがシャーロットは躊躇いもせず「待ちなさい」と二人の間に入り、「だ、誰だお前」と青年が困惑すれば、シャーロットは睨みつけるようにして傭兵達に視線を向ける。


「ただの喧嘩ならまだしも、魔法が使えるなら話は別」


「何だこの女?」


「杖……水はこの女のせいか?」


「クソッ。ガキだけじゃなく女にまで舐められるなんて……。テメェには関係ねぇだろ。引っ込んでやがれ!」


「魔法を使わない相手に魔法で攻撃するなんて言語道断だわ! 恥を知りなさい!」


傭兵である男達を前にしても怯まないどころか叱りつけるシャーロットの姿は目を見張るものがあり、見ていた周りの人達も呆然としていた。


アマが……調子に乗りやがって!」


男達に諦めた様子は見られず、むしろ殴り掛かる勢いだったが、それでもシャーロットは仁王立ちで腕を組み、その場から動かない。

このままではシャーロットも危ない。そう思ってテールがシャーロットの傍へ駆け寄ったその時、手を二回叩く音が広場に響いた。


「そこまでだ。 何の騒ぎだこれは。問題事は困るね。仕事を増やさないでくれたまえ」


声が聞こえた方に視線が集まると、そこには鼻の下に髭を生やした細身の男が兵を数人連れて歩いていた。

男は貴族が着るアビ・ア・ラ・フランセーズを彷彿させる紫の衣装を纏い、服のせいも相まってか如何にも尊大そうに見える。否、鼻につく話し方からして実際にそうなのかもしれない。

新たに登場した男に、周りの人々は「あいつ、バルブロだ」「バルブロ……」とざわつき始めた。

バルブロを見る人々の視線は歓迎や羨望の眼差しなどではなく、むしろ冷めきっていたが、バルブロは気にすることなく前へと出て状況を確認する。

そして、シャーロットの持っている杖に視線を下ろし、目を細めた。


「……ふん。魔導分野は”マジック・スペル・ユーザー”。魔導地位は”メイジ”、と言ったところか? 街中で”オムニスマギア”同士が戦えばどうなるかは分かるだろう。魔法の喧嘩ならば街の外でやってくれ。街に被害がでないようにな」


聞き慣れない単語にテールは顔を顰め、頭上に疑問符をうかべる。


(”メイジ”は魔法使いの意味、だよね? “マジック・スペル・ユーザー”、”オムニスマギア”は何のことだろう)


「話は以上だ。君達も考えて行動したまえ」


(え、それだけ?)


バルブロが背中を向けて立ち去ると、褐色肌の男は「チッ……覚えておけよガキ。それと、女の方もな」と捨て台詞を吐き、仲間達と共に大通りの人混みへと消えて行った。あまりにも呆気なく去るバルブロと、意外にも反抗せず素直に退いていく傭兵団。

やはり、傭兵団達の雇い主はバルブロなのか。

街の人達が困惑する中、傭兵達の姿が見えなくなりシャーロットが「ふぅ……」と安堵の溜息を漏らす。

しばらくして、周りで見ていた人々が散り散りになって離れていくと、「なぁ」と背後から声をかけられる。後ろを振り向けば、そこには当事者である青年と少女ビビアナが立っていた。


「さっきはサンキューな!」


先程までの近寄り難い気の張った表情とは異なり、青年はニッと気さくそうな明るい笑顔を見せながらシャーロットにお礼を言う。


「ねぇ、貴女達、時間ある?」


「「?」」



「わぁー! 良いんですか? 私まで」


「良いの良いの。助けてくれたお礼だから食べて食べて!」


(私、何もしてないけどね)


シャーロットが助けた青年は名をレビンと言い、ビビアナと一緒に”妖精の食事処兼台所フェアリーダイニングキッチン“と書かれた移動式屋台を開いていた。

緑色に塗られた壁や屋根は色とりどりのカルーナやアキレア・ミレフォリウムなどの花で装飾されており、目を引く華やかさだ。

屋台ではお好みでパンの上にサラダやトマト、サーモンやツナ、ハムやベーコンなど様々な具材や調味料を選んでオープンサンドを作ってもらうことができ、フルーツやホイップを乗せたスイーツも作ることが出来る。

食べ物以外にも野菜や果物のシェイクなどの飲み物、具材となる野菜そのものや花、種も販売しており、商品の種類は豊富だ。


「味はどう? って、複雑なことはしてないけどね」


「美味しいです! 食事系と迷ったけど、ブルーベリーと苺の甘酸っぱさが甘いホイップに合いますね」


「私が注文したツナサラダの組み合わせもシンプルで美味だけど、貴方を見てたらそっちも頼みたくなるわ」


オープンサンドを片手に持ち、周りに花を咲かせながら楽しげに会話をする三人。

女子会ムードに唯一の男子レビンは「作ったの俺なんだけど……」とボヤき、完全に空気となっていた。




Fairy Fate〜妖精の運命〜

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