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───最凶最悪にして悪虐非道。
そこに一切の慈悲はなく敵対するものには僅かな希望すらも与えない。
対峙するだけで心をへし折る圧倒的な強さは正に最強にして並ぶものいない至高の存在。
無敗にして頂点。
天災とさえ呼ぼれるその者の名は、ハーデス。
過去未来現在において並ぶもののいない最強の魔王である。
「ぬぅ⋯⋯」
かの魔王の口から漏れた悪魔の呻き声より尚おぞましいその声に周囲にいる悪魔が恐怖のあまり身震いする。
あまりの恐怖に怯え震えながらも彼らは皆、魔王の行動の一つ一つに注意を向ける。
いつ己の身に降りかかるか分からないその厄災に対する恐怖が故に。
その為突然、立ち上がった魔王の行動に死を覚悟した者がいたのは隠す事の出来ない事実である。
死。
それは生きとし生きる者全てに平等に訪れるもの。
されど目の前の魔王にそれは当てはまらない。
何故ならば魔王は死を与える側であり、理不尽にそして不平等に死撒き散らす天災そのモノであるからだ。
「ハーデス様、不敬を承知でお尋ねにします。何か御座いましたのでしょうか? それとも我々が何か粗相を致したでしょうか?」
1人の勇気ある悪魔が魔王の前に跪き恐る恐るそう尋ねた。
その行動に死が付き纏う事を悪魔は理解していた。
それが不敬と取られれば首をはねられるも致し方なし。
それほどまでに危険で、無謀な行為であった。
もしかしたら、次の瞬間には死が待っているかも知れない。
不気味な程の静寂に、その考えは次第に強くなりそれに応じドクンドクンと悪魔の心臓が激しく脈を打つ。
魔王が天井を仰ぎ見た。
そして───。
(え、何、この状況?)
心中でそうごちた。
───魔王ハーデスを心を埋め尽くすのは困惑であった。
否、真に困惑を示すのはその中の人物である。
(何だこの状況は、まるで意味が分からんぞ。というか何で俺ハーデスって呼ばてんの? 俺の名前はそんな西洋風な名前じゃなかったよね?)
大丈夫だよね、間違ってないよねと自分自身に訪ねるが当然のように返事はない。
なら、目の前にいる者に聞けばいいじゃないかと変な結論に至ったハーデスは邪悪な笑みを浮かべながら口を開いた。
「余がいかなる存在か貴様らは嫌というほどに理解しているであろう。が、故に問おう。貴様らにとって余とはなんだ?」
(自分ってハーデスって名前じゃないですよね、俺間違って無いですよね。)
アレっと、思っていたものとあまりにかけ離れた言葉に魔王は更なる困惑に陥る。
そんな彼の困惑を破るきっかけを作ったのはやはり目の前で跪く悪魔であった。
「はっ! それでは恐れながら申し上げます。
ハーデス様は真の魔王にして、死をも超越した究極の悪魔。並び立つ者などいない至高の存在にして世界の頂点に君臨する絶対者であります。
忌々しい神どもめはそれを認めず天災の塊に過ぎないなどと抜かしますが、全世界否、過去未来現在その全てにおいてハーデス様を超える者など存在しません!
ハーデス様こそがこの世全ての王。我々はハーデス様に使える事こそが至高の喜びと心得ております。どうか、ハーデス様への我らの不動の忠誠をお許し下さい!」
「忠誠を許す。好きにせよ」
(あ、はい。どうぞ)
気迫迫る悪魔に逆に冷静になった───若干引き気味ではあるが───魔王は肯定を示す言葉と共に玉座に腰を下ろし、瞼を伏せた。
(『Destiny』に出てくるラスボスじゃねぇか!)
『Destiny』とは、とある会社が制作したゲームの事で簡単にそのゲームを説明するならクソゲーの一言に尽きる。
ゲームのシナリオに関しては魔王に侵略されている世界を救うという有りきたりのものであるが、問題なのはその難易度である。
どれくらい酷いかというと発売から10年の月日が経過したにも関わらずクリア出来たのが両手で数えるほどしかいないのだ。
クリアした人数の何万倍の人がゲームを放り投げた。
そもそもゲームのコンセプトからして酷いのだ。
『最初から本気の魔王』。
そのコンセプト通りクリアさせる気がないだろうと思える理不尽さをゲームで見せる。
『Destiny』はランダムエンカウント方式で従来のモンスターを倒してレベルを上げいくものなのだが、このランダムエンカウントにて低確率で魔王が現れる事がある。
スタート地点の最初のダンジョンであろうと魔王は平気で現れる。
問答無用で現れる。
ちなみに現れた際には『厄介事の種は早めに積むに限る』という発言をし、その後は有無を言わせずバトルとなる。
逃げるを選択した際に流れる『魔王からは逃げられない』という言葉にふざけるなと叫んだプレイヤーは数しれず。
とにかくこのゲーム、魔王が本気で主人公を殺しにきている。
ランダムエンカウントは言わずもがな、イベントで選択肢を間違えば高確率で魔王登場からの強制戦闘。
戦いに敗れればゲームオーバーと。
初心者にも熟練者にも厳しい心折設定である。
奇跡的に最後の魔王戦まで来る事が出来ても待っているのは今までのボスが可愛く見えるほどの馬鹿げたステータスに、ラスボスにお馴染みの変身をなんと3回も行うのだ。
神の祝福などと言う言葉と共に変身の度に全回復してくれるのがせめてもの救いか。
そして、3回の変身を終えた魔王を倒すとエンディングになるのだが、数少ないこのゲームのクリア者は死んだ魚のような目で涙を流したという。
その結果、究極のクソゲーという称号を与えられ、プレイした事のある者に『ラスボス(真)』『どうあがいても絶望』『魔王からは逃げられない(泣)』『勇者絶対殺すマン』『歩く天災』などネタにされる事もしばしばあった。
───ハーデスの中の人こと佐藤 淳は数少ない『Destiny』のクリア者であった。
その為、ゲームで何度か聞いた事のある単語や聞き覚えのある自身の口から出る声に自分がハーデスになっている事に気付いた。