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不思議な声を聴いて私は立ち止った。
「エアリス?」
「ううん,何でもないよ。」
スカイは私をまじまじと見て心配していたが,大丈夫と言って歩き出すと,スカイもまた安心したようだ。
あの声は何だったのだろうか。もしかしたら私の中の恐怖や弱みが声となって出てきたのだろうか。
「この山を越えるには結構な距離歩かないといけないんだが…。」
「めんどくさいわね。山を迂回できないかしら。」
山を越えていくには夜が危なくなる。迂回しようにもスカイの体力が持たない。どちらかを選べと言われると迂回のほうを選びたい。
日も着々と沈んでいっている。周りには宿や村がないため,また森で野宿しないといけなくなる。それは私もスカイも嫌。
そう立ち止まり,考えてると馬車の音が聞こえてきた。
「お嬢ちゃんたち,どうしたんだい?」
四聖様がいる王都行の馬車だった。馬の飾りに王家の紋章が大きく描かれている。白い馬がひときわ目立っていて綺麗だ。この馬は一角獣。王都でしか買えない貴重な馬で普通の馬よりも2倍速い。そして酔いやすい。
「えっと,王都まで行きたいんです。でもこの山を越えられなくて~。」
私はか弱いエルフのふりをして馬車に乗っていた貴族を見つめた。これはお母様から教わった方法。おじさんたちはか弱い女の子を見ると絶対に助けてくれるという。
「そうかい,それじゃあお嬢ちゃん,こっちおいで。ちょうどいい,私も王都へ帰る途中だったんだ。」
「仲間のスカイも一緒に乗ってもいいですか~?」
じゃらじゃらと高価なものを身に着けているおじさんはもちろんと言わんばかりに頭を縦に振り,手招きをした。もちろん,こんな奴の横には座りたくないからスカイの横に座った。私が隣に座ることを拒絶した時の顔ときたらもうW笑いがこらえられなかった。
「ほんっとに早いですね~。」
愛想笑いをぶちかまし,おじさんの機嫌を取りなおす。少し笑っただけで機嫌を回復するから扱いやすい。
「だろ?この一角獣は王都でもかなり高値で取引されているんだ。何と言ってもこの一角獣は話が通じるからね!」
自慢げに話すが一角獣はどの個体も話は通じる。一応ほかの動物も訓練すれば話は通じる。…話すことはできないけど。犬にしつけをするようなもので数日一緒にいることで主人を覚えることもある。ただ,このおじさんのことは主人と思っていないらしいけど。
「ほら,もう王都だ。」
「え!?嘘!まだ30分もたっていないのに?」
流石は一角獣。本当に早すぎた。スカイは…相変わらず。
「…スカイ,大丈夫?」
スカイの顔色が悪い。多分,酔ったんだろう。かわいそうに。
王都の門までついたとき,馬車を降りた。おじさんはまだ乗っていたけれどスカイの寄りたい武器屋が王都の外れ,郊外にあったからおろしてもらった。私が下りた時,おじさんは凄く悲しい顔をしていたけれどもうあなたに用はない。
「じゃ,行きましょうか。」
【早く,この男から離れろ。さもなくば不幸が訪れる…。】
おじさんを見送った後,あの声が聞こえた。次は紛れもなく,私の声。けれど前のように何度もは聞こえなかったから無視し続けた。何か危ないことを忠告してくれているようだったがスカイの事で間違いない。
【何故見知らぬ男を信じるのだ。】
…その通りだ。あの日,スカイの事を助けて仲間になって何故か魔王を討伐することになった。スカイの詳しいことは全然知らないのに,スカイを信用するのはどうしてだろう。
ふらふらしながらも私の前を歩くスカイの背中を見つめながら考えた。
信用するのは,スカイが私を信用してくれているから。じゃないとこんなエルフと一緒に行動なんてできない。もしかしたらスカイは私を裏切るかもしれない。それでもいい。
「スカイ。」
顔色がやっぱりまだ悪いスカイが振り向いた。私は本当に守りたいと思った人を信じればいい。
「無理しないで。ほら,乗って。」
「いや,いいよ。」
「じゃあお姫様抱っことどっちがいいのよ。」
小さな体のか弱い男の子をおぶりながら,私は雲一つない空を見た。スカイの体の温かさを感じる。村の人が畑を耕していて,みんなが笑顔で今日を生きていた。
「エアリス?…やっぱ俺重い?」
軽すぎるくらいだよ。まだ体力も回復して無いくせにもう大丈夫とか嘘ついて。
「暴れないで。もう着くから。」
にぎやかな村が見えてくる。あの声の正体はわからなくともスカイをなんだかんだで信用していることには変わらない。喧嘩をしたってまた仲直りすればいい。そうやって信頼は強くなっていくから。
to be continued→