「はぁぁぁぁぁぁ゛」
 
 いきなり奇声をあげる勇斗に反射して体が跳ね上がる。
 目を丸くしたまま無表情で数秒勇斗を見つめた。
 
 「びっくりしたぁ…いきなりなに」
 
 「最近欲求不満でさ」
 
 「あ〜、はいはい…」
 
 何を言い出すかと思えば、くだらない。
 自分で聞き出しといてなんだが、回収するのが面倒くさくなりそうで話を流した。
 しかし勇斗はそんなことはお構い無しに話続けた。
 
 「この職業柄ね…ほら、大変だろ?忙しいし」
 
 「そろそろ規制音かかりそうな話だな」
 
 「そこで1つお願いがあんだけど、」
 
 「無理です。」
 
 「まだ何も言ってないだろ」
 
 「笑大体ろくな話じゃないだろ。で、何?そのお願いというやつは。頼み方によっては叶えてやらなくもない」
 
 「抱かして? 」
 
 「はい?」
 
 「いや、だから仁人抱かして?」
 
 「バカヤロウ。却下に決まってんだろ」
 
 「えー…」
 
 「どういう脳内してんだよ。」
 
 「やっぱりダメなの? 」
 
 「ダメです。おさわり厳禁!!」
 
 ほらやっぱり、ろくな話じゃない。
 話し終わって一息つこうとするが、どうも勝手に俺の脳内が妄想を膨らませる。
 というのも、今までに1度だけ勇斗とそういうことをしたことがある。
 俺が勇斗の家で宅飲みした夜、
 この1度だけ。
 お酒を入れる度、理性が減っていった。
 お互いに飲みまくって、頭なんて働いてない。
 
「仁人お前、飲みすぎ」
 
 「いやぁ、ひさしぶりだからね…」
 
 「ちゃんと水飲んでんの?」
 
 「ん〜…」
 
 「飲まないとダメですよ、特にあなたは。」
 
 「飲めなぁ~い…////」
 
 「あぁ、今コップ持ってくっから。」
 
 「ねぇ…」
 
 「ん?」
 
 「勇斗が飲ませてよ」
 
 こいつは何を言っているんだろうか。
 紅く染まった頬、耳、項
 潤んだ瞳に垂れ下がった眉
 目を閉じ、口を少し開けて見上げる仁人が俺の欲情を煽った。
 コップに入った水を仁人の口に注ぐなんて思考は無くなって、自分の口に水を含んだ。
 そしてそのまま仁人の口に流す。
 ゆっくりと飲み込んでいく仁人を前に更に胸が熱くなった。
 もう一度口に水を含み、仁人へと送る。
 
 「ん…/// 」
 
 と漏らす声にとうとう理性が効かなくなって、そのまま口付けをした。
唇をはみ、頬、首筋、瞼にキスを落とした。
 そして恐る恐る仁人に問う。
 
 「その気ある?」
 
 静かに頷く仁人に自分の中の何かが外れたような気がした。
 頭に手を添えて、後ろへと押し倒す。
 見つめ合い、そのまま深くキスをした。
 
 「ん、…///きもち…」
 
 「何その顔可愛すぎ…」
 
練習が終わり、帰る支度を進めた。
 勇斗を見る度に今日の言葉とあの夜を思い出してうんざりする。
 
 「仁人顔に出すぎ笑」
 
 「お前のせいだろ」
 
 「ねぇ、ほんとにだめ?」
 「うん」
 
 「明日オフだよ?」
 
 「関係ないだろ」
 
 「いっぱい甘やかしてあげるよ?」
 
 「…」
 
 俺が押しに弱いこと機に、勇斗はどんどん言葉をかけてくる。
 あれだけ酒を飲んだのに、こういう時に限って記憶が飛ばないのは何故だろうか。
 「甘やかす」そんな言葉に気持ちが揺らいでしまう俺もまた、同罪だろう。
 
 「…よ」
 
 「ん?」
 
 「だから、分かったよ」
 
 「え、がち?」
 
 「ん。その代わり…ちゃんと最後まで甘やかせよ… 」
 
 「もちろん」
 
 そうして2人で家に帰った
 同じ家に。
 
 end.
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