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ルーイ様はミシェルさんにお願いされたのもあるけど、話し合いが終わったらどのみち私の様子を見に来るつもりだったらしい。
フィオナ姉様のことで私が体調を崩したのも知られていた。ルーイ様は怪我のせいで自由に動けなかったが、報告だけはきちんと受けていたので、事件の捜査をしながらも私を気にかけてくれていたようだ。
「レオンともちゃんと話をしてやりなよ。お前に負けないくらい取り乱してたからな」
「……レオンが?」
「俺の説教が効いたのか、態度には出さないように頑張ってるけどね。姉さん関連のことでクレハが落ち込んでるって知ってかなり堪えてた。自分との婚約を解消するんじゃないかって怯えてたんだよ」
「えー……そんなことしないのに」
リズも『とまり木』のみんなも同じ事言ってたけど、私ってそんなに婚約解消しそうに見えるのかな。昔の自分なら言いかねないとは思うけど。
「知ってる。リズちゃんから聞いたからね。姉さんを見返してやるんだって? ほんとに強くなったな……クレハ」
「見返すだなんて、そこまでは……。でも認めて貰えるように頑張るって決めたんです」
「そうか、そうか。レオンにもそれ直接言ってやりな。本人の口から念を押されれば、あいつの不安も解消されるだろうよ」
「はい」
ルーイ様はまた私の頭を撫でた。決して優しい手付きではない。髪の毛だってもうボサボサだ。でも、その粗野な仕草が私は嫌ではなかった。
「……ルーイ様。もう平気ですから、事件のお話を続けて下さい」
「ほんとに? 仮説とはいえ、結構キツい内容になるよ」
「はい。私には頼もしい仲間がいてくれますから。それに、辛くなったらまたルーイ様に抱きつきます」
「あら残念。次からは有料です」
「ルーイ様のケチ。せめて今日一日はタダにして下さい」
「しょうがないなぁ」
実際にルーイ様が私に金銭を要求することはないだろう。お互いに分かった上での茶番だった。このような気安いやり取りを彼と交わせるのを嬉しく思う。
「……クレハ様。私の胸は24時間いつでも無償で差し出せますから、ルーイ先生の都合がつかなかったら遠慮なく言って下さいね」
「お前はお呼びじゃねーよ。空気読めよ、このハゲ」
「クレハ様、私も!! どんと飛び込んで来て下さい」
レナードさんとミシェルさんが両腕を広げている。そんなふたりをルイスさんが窘めていた。彼らのやり取りがおかしくも嬉しくて……笑みがこぼれるのを抑えられない。
「レオンは身内にライバルが多くて大変だねー」
ルーイ様も和かな表情で『とまり木』のみんなを眺めていた。私のことを強くなったと言ってくれたけれど、それはきっとレオンたちがいてくれたからだろう。私ひとりだったら姉様に対抗しようなんて考えすら浮かばなかったに違いない。
レオンや彼の臣下がこんなにも私を慕ってくれている。そんな彼らの前でいつまでも『私なんかが……』とウジウジしたくなかった。必要以上に自分を卑下するのは、彼らも一緒に下げてしまう行為に他ならない。
「よし、それじゃ……クレハの意思確認も終わったことだし……話を元に戻そうか」
私はひとりじゃない。苦しい時に側で支えてくれる人がいる。ルーイ様やレオン……みんながいてくれるなら、この先どんな困難なことが起きてもきっと乗り越えられる。
みんながいるから、私は強くなれる――――
「まず、ほぼ確定したと言っていいのはグレッグが島を襲撃した理由だな。あいつはニュアージュでも札付きのワルで、魔法の力を利用して殺し屋のような事をしていたそうだ。つまり、島を襲ったのはグレッグ個人の意思ではなく、何者かに依頼されたためと考えられる」
「グレッグ……私たちが尾行をしたあのチンピラですね。そんな大層な人物には見えなかったのに」
「そこは腐っても魔法使いってことだよ。そういえば、フェリスはシエルレクト神を直接見てるんだよね。グレッグの最期にも立ち会ってるし……ニコラ・イーストンの目撃情報といい……お前重要人物じゃん」
「ルイスさん……あの夜の事はトラウマになってるので、あまり思い出させないで……」
「あっ、わりぃ……」
ニュアージュの魔法使いはシエルレクト様の一存で決まると聞いた。選出に善人か悪人かなどは考慮されないとも……
グレッグのような者に魔法を扱って欲しくないと思うけど、それは私たち人間側の都合であり、シエルレクト様には関係ないのだった。
「そして、グレッグが滞在していた酒場の経営者夫婦ね。彼らが本当に犯罪に関与していたかどうか……これも間もなく判明するだろう」
「あの夫婦って確か軍の詰所で保護されてたよね。もしグレッグの共犯だとしたらいい度胸してる」
「今思えば、旦那の方はグレッグについてあまり聞かれたくないような素振りでしたね。自分たちとの繋がりがバレるのを警戒していたのかもしれない」
レナードさんとルイスさんは、酒場の夫婦と会話をした当時の事を思い出しているようだ。
夫婦がグレッグと何らかの繋がりを持っていたとしたら……彼らはグレッグに依頼をしたという人物が誰なのかも知っているのだろうか。
「クレハ」
「はい、ルーイ様」
話の途中でルーイ様が私の名前を呼んだ。私は相変わらず彼に抱っこされたままだった。体を支えてくれているルーイ様の腕の力が僅かに強くなる。
「グレッグのターゲットはお前。そして、グレッグにそれを依頼した人物は『ニコラ・イーストン』……出来れば間違っていて欲しかったけど、俺はそう考えている」
「……はい」
可能性は散々示唆されていたから今更驚きはしない。それでも、ルーイ様の口から改めて言葉にされると胸のあたりを締め付けるような痛みが走った。