テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
最近、春川先輩の様子が変だ。
俺──王子谷から見て、今の先輩は明らかに「バグ」っている。
連日の深夜残業で目の下に深いクマを作っているというのに、肌のコンディションだけがレベルアップ直後の回復状態みたいに輝いているのだ。
生命力のゲージだけが不自然に上限突破している。
同じオンラインゲームのギルドで何度も死線を越えてきた仲だからこそ、その違和感がどうにも引っかかった。
「……ふぅ。……よし、まだいけるな」
社員食堂で向かいに座った先輩は、鶏むね肉の定食を平らげたあと、自分の前腕をじっと見つめながら、呟いた。
そして鞄から高濃度マカ・亜鉛・アルギニンのサプリを取り出し、男性活力系ドリンクで流し込んだ。
そのボトルのデザインを俺は二度見……いや、五度見した。
赤と黒の禍々しい配色と金文字で躍る『極・スッポン&ハブの力:十倍濃縮』という文字。ボトルの裏面に並ぶ成分表――スッポン抽出液、マムシエキス、コブラ抽出物、ニンニク、高麗人参が、嫌でも視界に飛び込んでくる。
(……これ、昼休みに飲むやつじゃない! 『一晩に五回戦』とかする予定の人が飲む、ガチのやつ!)
「先輩。……あの、最近ちょっと異常じゃないっすか? 一体何を目指して、そこまで自分を追い込んでるんすか?」
俺が恐る恐る尋ねると、先輩は至って真面目な顔で答えた。
「これか? ……最近ジムに通い詰めてて。……今の僕の体力のままじゃ、白石さんについていけないと思って」 (※以前のジムデートで、白石さんより先にへばってしまったのがショックだった)
(うわ、えげつな……。白石さん、可愛い顔してどんだけ性欲モンスターなんだよ。もしかして、一晩に複数回とか当たり前に求めてくるタイプなの……?)
「……ああ、なるほど。白石さんの……『ご要望』に全力で対応するため、ってことっすかね?」
「そうなんだ。とにかくスタミナをつけないと。……妹にも言われたんだ。『お兄の今の体力じゃ、相手の要望に応えきれないよ。もっと自分を追い込まないと、途中で力尽きて捨てられるよ』って」(※妹の指摘は「買い物デートで長時間休みなく歩き回ること」について)
(……実の妹に夜の相談したのかよ!? っていうか、力尽きて捨てられるって、先輩は一体どれだけ激しい夜のフルマラソンを予定してるんだよ……!)
「準備は万全にしておきたいんだ。……重いもの(大量の買い物袋)を長時間持っても平気なように、下半身もしっかり鍛え直してる。……当日、彼女が望むまで、(試着や下見を)何度でも、何時間でも応えられる体力が欲しい。絶対にがっかりさせたくないからね」
(……重いもの。下半身。がっかりさせない。俺の目の前にいるのは、穏やかな先輩じゃない。絶倫な彼女に一晩中絞り尽くされても、なお立ち上がる不屈の戦士……いや、一人の勇者だ……! 先輩、スゲー!)
「……先輩。……あまり無理だけはしないでくださいね。白石さん、見た目はああでも中身は『やべぇ人』だってことがよくわかったんで」
「? ああ。……でも、彼女の望みを叶えるのが僕の役目だから。……当日は僕が全部背負うつもりだよ」(※全部背負う=全ての荷物を持ち、歩き疲れた白石さんをお姫様抱っこする覚悟)
(白石さん……。……本当によかったっすね。……あんたの本能に応えるために、先輩、本気で『野獣の王』になろうとしてますよ……)