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長い間土の中にいると、どこかがやっぱり腐るのかな?
後、一週間前に篠原君から借りた植物図鑑を返す時が今日だった。僕は台所でお湯を作って二階へと上がる。階段を上りながら、おじいちゃんの世話を母さんがしているのを何気なく聞いていた。
「裏の畑から田中さんが、たくさんの大根とナスをくれたんだけれど」
母さんの言葉に僕の心臓がビクンと鳴った。子供たちが埋まっている畑の部分じゃなければいいけれど。それと、田中さんって向かいの田中さんのことだ。
のっぺりとした丸顔で30代後半でも独身の男性だ。髪はいつも均等に両脇に分けてあって、口数が少ないけれど親切な人で、隣町の工場で働いている。たまに僕と亜由美の下校時間に会うことがあった。
昨日の夕方に裏の畑にいた男の人はひょっとすると田中さんかも知れない。田中さんは仕事帰りの夕暮れ時に裏の畑から夕食のために作物を採る時があった。
後は佐々木さんの可能性もある。
近所に居酒屋を経営していて、登校する時に犬の散歩をしていた時をよく見かけるけれど、たいていは、裏の畑で長ネギなどのお店の調理具材を採る姿を多く見ている。
実は田中さんという苗字は二人いるけれど、もう一人の田中さんは大家族で、いつもは大勢で昼間に裏の畑で野菜たちの手入れをしてる。明るく楽しい大家族だ。裏の畑以外の広大な畑も所持していて農家の人たちだと母さんから聞いた。
子供たちを埋めた人は一体誰なんだろう?
「おお。そうかそうか。俺が食べるよ。裏の畑の野菜は元気が出るからね。田中さんにはお礼を言っといてくれ」
僕は二階の和室のポットにお湯を入れ終わり、気になって一階へと一旦降りた。おじいちゃんはキッチンの片隅の冷凍庫からやっとのことで、凍っている五人分の鮭を見つけ、母さんに目配せをしていた。
「ああ。もう食べ物が無いわね……。今日の午後に熊笹商店街へ行かないと」
おじいちゃんの胃袋に母さんが辟易していた。
僕はキッチンの窓から裏の畑を見ていた。
朝の光で裏の畑の野菜全部が息を吹き返していた。
子供たちも土の中でもう起きているのだろう。
今では佐々木さんと大家族の田中さんが畑仕事をしていた。
「今日の朝は田中さんから貰った野菜と鮭だけで何とかしましょう」
母さんはそういうと、広いテーブルの上のリモコンを持ちテレビを点ける。