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36 - 第36話 「残るは3人」

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2025年11月12日

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1.突然変異

遠くでチェンソーのエンジン音がした。気がした。

「!」

院瀬見は目を覚ました。仰向けにまっすぐ寝そべっている。そして目を覚ました自分に違和感を覚えた。

地獄から抜け出すことが成功したはずなのに、院瀬見の周りに広がるのは変わらず先の見えない暗闇。

院瀬見は死んだ。闇の悪魔に身体中をバラバラにされて死んだ。

なのに、意識がはっきりしている。傷や痛みがないどころか、汚れひとつついていない。だが、仰向けの姿勢のまま身動きできずにいる。まるで金縛りにあっているような感覚だ。

(…死後の世界…ってやつか…?)

人は死んだ直後にはこんな感覚になるのかと、やけに冷静に考える。頭だけ唯一わずかに動かすことができたので、院瀬見は見ていた方と反対方向に頭を向けた。

そこには、寝ている院瀬見を見下ろすように座っていた狼の姿があった。目が合った。

「狼…」

狼は瞬きひとつせず、こちらをじっと見つめ、やがて口を開いた。

「院瀬見。これは、私とお前との契約だ」

「は…」

「私の全ての力をお前に捧げよう。弟の仇を必ず取ってこい」

「お前なにを─」

言葉を遮るように、狼は弱りきった院瀬見の心臓に前足を乗せて言った。

“私の眼”を使うんだ

「─!!」

その言葉を皮切りに、院瀬見は目を覚ました。

「し、死んだ隊員が!目を覚ました!!」

「なに!?脈は止まってたはずだろ!!」

目を覚ましてすぐに、見知らぬ男性隊員が驚いた表情でこちらを見ている姿が目に入った。辺り一面広がっていた暗闇は晴れ、崩壊した砂ぼこりまみれの市街地に変わった。

「おいお前!大丈夫か!」

もう1人の男性隊員が駆け寄り、院瀬見の体を軽く揺さぶる。だが、院瀬見は目を大きく見開いたまま動かない。

それを覗きこんだ隊員があることに気づいた。

「こいつ…瞳孔が…」

院瀬見の瞳孔が痙攣を起こしたように小刻みに震えている。

不思議に思った隊員が診ようと、院瀬見の右目の眼帯を外したそのとき。院瀬見は突然何も言わずにその場を立ち上がった。

「あ…大丈夫か?急に立つと─」

隊員は言葉を止めた。

…ハハ…ッハハハ…!!ハハハハハ!!!

院瀬見は天を仰ぎ、狂ったように笑った。

2.人が変わったように

半壊したビルとビルの間に、人型の悪魔のような影を院瀬見は見た。

ドイツの刺客─サンタクロースだ。

無数に生えた細い腕と、大きく婉曲した2本の角、裂けた口に、見れば見るほどおぞましい血走った目。長い脚は人間の頭をいくつも繋ぎ合わせたようなフォルムをしている。

一目見ただけでもわかる。”彼女”は恐ろしいほどに強力な悪魔と契約を交わしている。1歩でも間違った手順を踏めば即死だと、今この場にいる全員が感じているだろう。

「!」

こうしている間にも、サンタクロースの手によってどんどん人形が増えていく。

視界の端で、ボロボロになった隊員が人形に襲われそうになっているのを捉えた。

ドン!!

院瀬見は壁を蹴り、走った。その踏み込みの強さ、爆発的なスピードは明らかに人間の身体能力をゆうに超えていた。

それはまさに、獲物を狙う狼の如く。

「うわあああっああぁぁぁ!!!」

院瀬見は隊員に手が届くあと一歩のところの人形の腕を削ぎ落とした。

「あ”ぁぁぁ…人でなし…人でなしィ…!!」

人形には意思があった。

恐らく、デビルハンターが倒しにくいようにサンタクロースがわざと生きた状態で操作しているのだろう。まだ生きていると思わせ、躊躇させ、その一瞬の隙に殺すつもりなのだ。

院瀬見は人形を迷いなく殺した。

「……」

襲われかけていた隊員は恐怖と院瀬見の無慈悲さに絶句した。院瀬見は何も言わず、顔色の一つも変えずにその場を去った。

いや、”院瀬見”なら躊躇したであろう。

死の淵から蘇ったその瞬間から、院瀬見は院瀬見でなくなっていた。敵を殺めることに快楽すら感じていた。

今、院瀬見は自身が何者なのかわかっていない。わからないままに、本能のままに、ひたすらに人形を殺し続けた。

3.危機

獣さながらの殺し合いをする院瀬見と少し離れたところに、未だ戦闘らしい戦闘に踏み出せず立往生している隊員がいた。

4課隊員・星野である。

こちらもまた建物の陰に隠れ、参戦する機会を必死に伺っている。が、問題は先ほどよりも戦闘が激化していることと、想像以上にサンタクロースが近くにいるということだ。

身を潜めている建物の向かいに半壊したデパートがあり、その目の前でサンタクロースとチェンソーマンが死闘を繰り広げている。それを見て、星野は珍しく身震いをした。

これまで散々積んできた悪魔殺しの経験も、今となっては何の役にも立たないかもしれない。今の自分は無に等しい存在であるかもしれない。

だが、あの前線に自分よりも戦闘経験の浅い水無月リヅとイサナがいるのを星野は見た。2人はきっとそんなことは全く考えず、無我夢中になって戦っているだろう。

(クソ…!!)

惨めったらしく恐怖しおののいている場合ではない。無力だろうとなんだろうとやらねばならない時がある。

星野は素早く指を鳴らし、武器人間に姿を変えた。

勢いをつけて思いきりその場から跳び、砂ぼこりをまといながらビルの壁を伝い、サンタクロースの視界から外れたはるか上空から攻撃を仕掛けた。

渾身の一撃を入れようと力を込めた瞬間に、こちらを見上げて笑みを浮かべるサンタクロースと目が合った。

心臓が凍りつくような感覚がしたと同時に、

ゔあ”─⋯!!

背中と右腕に激痛が走った。

星野先輩!!

一部始終を見ていたリヅが声を上げる。星野は血を噴き出しながら垂直に落下した。

(星野先輩がやられた…!早う血を飲ませて蘇らせんと─!)

だが、リヅは四方八方を人形に塞がれている。無機物である人形は毒が効かないために、倒れて動かなくなっていた隊員の刀を拝借して使っていた。そのせいで使いこなせず、周りの援護に向かう暇などあるはずがないのだ。

(早う…誰か…!!)



上空20mほどの高さから瓦礫の山に落下した星野は、奇跡的に一命は取り留めたものの、背骨を損傷し身動きが上手く取れずにいた。呼吸もできない。

(まだだ…まだ私は……)

落下したすぐ近くで逃げ遅れたであろう一般人が死に倒れていた。星野は気力を振り絞ってそこまで這いつくばり、その人の傷口に噛み付いて血を吸った。

骨折した背骨だけでなく、攻撃がかすって大きく横一文字に開いた背中の傷、そしていつの間にか切断されていた右腕を回復させてすぐに、星野は血にまみれた口元を拭ってゆっくりと立ち上がった。

一度解けてしまった変身をもう一度やり直し、再びサンタクロースの元へ走る。

(上空は見破られた。正面突破はあの化け物に適うはずがない。残るは─)

星野は死体の山を踏みつけ駆け抜けながら大きく回り込んだ。

「星野先輩…!?生きて─」

猛スピードで走り去る星野にリヅが気づいた。なにか作戦があるのだと瞬時に理解し、星野が攻撃を再度仕掛けるタイミングを窺い、それに合わせることにした。

(少しでもあいつの体力を減らせ…はやく…!)

サンタクロースの背後、デパートの後ろに星野、サンタクロースの斜め前の建物の後ろにリヅと、つい先ほど合流したばかりのイサナがいる。

星野は飛び出した。

「海!走れ!!」

星野の動きを見たリヅとイサナもすかさず飛び出す。

星野が自身の鎌を振りかざしたそのとき、

物凄い音を立てて、空気をも裂くような衝撃が3人の全身に響いた。

4.3対1

ぐ…ッ…!!

サンタクロースの攻撃をもろに食らった星野と、すんでのところで躱したリヅとイサナは別方向に吹っ飛んだ。

(なん…何が起きた…!?今のは─)

あまりに速すぎて目で追えなかった。サンタクロースが腕かなにかをしならせて直接攻撃を出してきたのだ。その動きはまるで大きな鞭のようだった。

リヅとイサナは地面に叩きつけられた。受け身は取れなかったが急所の骨折は免れた。

とはいえ2人の体力はかなり限界に近づいていた。直接攻撃の当たらなかった2人ですら衝撃波で鼓膜を損傷し、耳が聴こえづらいというのに、それを真っ向から受けた星野は─

「海!!僕のことはいい!!星野先輩を助け─」

ハナちゃん!!!

血相を変えて叫ぶイサナの目線の先─リヅの背後にいたのは一体の人形。

死を覚悟し、目をつぶったリヅと、リヅの背中を狙って刺し殺そうとした人形の間に、

海!!!

イサナが割り込んだ。

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