「 … ただいま 」
玄関で、ぼそりと呟く。
仄暗い静かな家に、自分の声が響く。
答えは返ってこなかった。
たまに、こう思うことがある。
もしも、母にしておけば。
もしかしたら多少は今私が置かれている現状が良くなっていたのかもしれない。
でも、これも所詮はこれも私の妄想に過ぎない。
きっと母を選んでいても同等の結果にはなっていただろう。
父は、毎日の様にキャバクラに通い、夜遅くに家の戸を叩く。
それが近所迷惑なのだ、とても。
近所に住む主婦やサラリーマンから冷たい視線を感じる。
嫌だった。
屈辱的だった。
なぜ私がこんな目に遭わないといけないのか。
どうせあなただって自分の子供を叱る時に大声を出すだろうに。
あなただって、会社の付き合いで酒に酔い、妻を困らせているだろうに。
自分のことは、棚上げにして、とにかく他人を批判する。
馬鹿なのだ、皆。
自分中心の世界に住んでいる。
大抵の人間は自分の事しか考えられない。
他人のことはそれからだ。
自分が良ければそれで良いのか。
幼稚だ、と思う。
馬鹿だ、とも思う。
それでもやはり嫌なのだ。
父のせいで自分まで非難されるのはプライドが許さない。
昔から負けん気で意地っ張りだったせいか、私は酷く歪んだ性格に育ってしまった。
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