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コメント
1件
あああもう読んでて胸がグッと苦しくなったよ…😭💔 エースの後悔と自責、監督生への想いがひしひしと伝わってきて…特に最後の手紙のシーンで涙腺崩壊したよ…「生きられなかった僕の分もちゃんと生きて」って…監督生の優しさが痛いほど染みる…。エースが「俺も大好きだよ」って言えた瞬間、救われた気持ちになったよ…本当に良かった…。亜久亜さん、素敵な作品をありがとうございます🌸
⚠この作品を読むにあたっての注意⚠
この作品は以下を含みます!!
死ネタ
男監督生
鬱表現
病み
エー監♂
誤字脱字は親友
語彙力は友達じゃないようです()
それでも良いよという神様天使様はこの先をお進みください!
1
俺はいつものように、オンボロ寮のベッドに、監督生ともに腰掛け、窓から見える夜空を眺めていた。
「エース、僕、死のうと思うんだ」
「……は?」
何を言ってるんだ、と、監督生を凝視する。
俺は驚きのあまり口を空けて固まった。
「ははは…冗談だよ。冗談」
監督生はそう言って笑うが、彼の目は本気だった。目の奥が笑っていない。
監督生が自殺することは、考えられない話ではなかった。何故なら、監督生は現在、学園で酷い虐めを受けているからだ。毎日空き教室に連れてかれ、殴られ、罵られ、暴言を吐かれ、叩かれ、時には犯される。そんな日々を、彼はおくっていたのだ。俺が何度も学園を休めと言っても、グリムを監督するのが僕の役目だ。と言い張って話を聞いてはくれない。俺が先生に呼ばれて席を外している隙に攫われる。前にデュースが止めに入ったことがあった。その時、彼奴まで巻き込まれてしまい、殴られる羽目に合った。だから、俺らは慎重に行動しつつあったが、いくら魔法が使えるとはいっても人間だ。隙は絶対にある。奴らにはその隙をついて監督生を攫う。
奴らは監督生が寮長達に気に入られているのが調子に乗っているようで気に入らないらしい。魔法が使えないのに。ナイトレイブンカレッジの品がお前のせいで落ちる。馬鹿馬鹿しい。夢見るな。等、言われる言葉は監督生にとって酷く残酷だった。
そんな日々が続いた。だから、監督生は今壊れつつあった。いや、もう、壊れてしまったのかもしれない。
「とにかくっ!!絶対に死ぬなよ!?」
「あはは…ごめんね…、死なないよ笑」
彼は苦笑した。大丈夫だよということなのか俺の肩をポンポンと叩く。
「お前、グリムに迷惑かけたくないとかいってんなら、死んだら駄目。お前が死んだら…グリムにも、俺達にも迷惑かけることになるかんな!」
静かな部屋に俺の声が響く。グリムは自慢の図太さですぅすぅと寝息を立てて寝ている。
「うん…わかってるって。嘘々笑。」
「それなら…いいんだけどさ…」
声を小さくする。
「…毎日ごめんね。こんな遅くに相談のってもらっちゃって。」
「……別に。俺が好きでやってることだし。」
その言葉に監督生は俺を凝視する。
「そうなの…?」
「…そうだよ。ダチに何かあったら心配だろ」
俺の言葉に監督生は薄く微笑む。月明かりに照らされ、その横顔はとても美しく光った。
「…エースは優しいね…。ありがとう」
「…別に」
自分の心拍数が上昇したのが分かって、少し恥ずかしくなる。そっぽを向いて監督生と目が合わないようにした。
「………」
監督生は、黙って窓の外を眺めていた。
__何故、あの時の俺は気付かなかったのだろうか。
__何故、目を合わせないようにしたのだろうか。
__何故、その時の監督生の顔が、とてつもなく危ないということに気が付けなかったのだろうか。
✧___✧___✧
それから一週間後。
監督生は特に自殺する素振りを見せなかったため、その面では少し安心していた。
___だから、駄目だったのかもしれない。
夜の11時50分、俺はいつも通り寮をこっそりと抜け出し、監督生の居るオンボロ寮に向かった。
……いつもより、行くの少し遅くなったな…
そう思いながら、遅れを取り戻そうと、少し肌寒い夜の道を走った。
コンコンコンコンッ
「監督生ーー」
オンボロ寮のドアを叩いた。
「…………………」
いつもならすぐ返事があるはずなのに、いくらまってもこない。胸騒ぎがしてドアをノックする力が強まる。
「おいっ!!!監督生っ!!!監督生!!!返事しろ!!!」
ドアには鍵がかかっている。壊すか壊さないか、判断に迷った。もしかしたら中で監督生の身になにか起こっているのかもしれない。
「早く向かわなきゃいけないのにっ…!!」
その時_____。
ドシャッ
と。
不自然な音がした。
自然現象で生み出せる音ではない。そう分かると、ドアをノックしていた手が下へとずり落ちる。
その音がした方向へ、ゆっくりと、ゆっくりと、足を進めた。嫌な勘が働く。背中を冷たい汗がつたう。
そして、音が聞こえた場所へ、辿り着いた。
「監……督、生…………?」
掠れた声で言う。
その時、俺の瞳に映ったのは、目の光を失い、頭から血を流して倒れる、監督生の姿だった。
2
「デュース、エースの調子は?」
ハーツラビュル寮の談話室で、リドルがデュースに問った。リドルの声は、いつもよりも少し重かった。
「………全然です。回復どころか悪化してっていて…」
拳をギュッと強く握る。
監督生が、オンボロ寮の2階から飛び降り自殺をしてから5日。監督生と共に沢山の日々を過ごしてきたものは酷く落ち込み、彼を虐めていた集団は意地悪な笑みを零していた。そんな、意地悪く笑う奴らのことが許せず、そいつ等にデュースやジャック、エペルは殴りかかり、激しい乱闘騒ぎで問題となってしまった。寮長達には伝達されたが、決して、レオナも、いつもなら厳しく叱るヴィルもリドルも、デュース達のしたことを決して攻めはしなかった。
「ここんところエースの野郎、学校にも行かずに部屋でこもりっきりで、まともに食事もせず睡眠も取らないから痩せていくばかりで…。」
「……………そうか。デュース、君も体調管理はきちんとするんだよ」
「はい。寮長…。」
デュースはそう言うと、重い足取りで自分の部屋に向かった。エースがいる部屋に。
✧___✧___✧
あの日見た光景が、目に焼き付いて離れなかった。
目の前には倒れた監督生。急いで駆け寄り呼吸を確かめたが、息がなかった。心臓が動いていなかった。脳から大量の出血。上の階の窓が空いていて、2階からの飛び降りたとされる痕跡。生きていたら奇跡だ。
何故、気づけなかったのだろうか。もしもあの日、寮を出る時間が少しでも早ければ。遅くならなければ。監督生の表情の異変に気付いていれば。もっと、もっと早く、虐めが悪化する前にちゃんと救っていれば、彼奴らを早く殴っていれば。自分が代わりに殴られていれば。………監督生は、死ななかったのかな……。
その考えが頭をぐるぐると回る。吐き気がする。自分を殺したいくらい悔しくて、救えなかった自分が憎かった。
自分も死んだら監督生のところにいけるのかな、なんて思い、自殺をはかって、ハーツラビュルのキッチンからナイフを持ち出したが、直ぐ様トレイとケイトに止められて失敗した。今では、自殺するために歩く力も残ってもいないし、首を絞める力だってない。もう、なにもない。大好きだった監督生を失ったら。自分は、何をしたらいいのか。わならなくなった。監督生がいない世界で魔法師を目指したくない。ずっと、ずっと隣で見守ってくれるものだと思っていた。これからもずっと、側で支えてあげたかったのに。
こんな形で、終わりを迎えるとは思っていなかった。
俺はベッド上で蹲る。情けない。そんな姿をみた監督生は何を思うのだろうか。
こんな自分に嫌気が差して、横になり、死んだように窓の外の空を見つめた。
✧___✧___✧
ガチャ
ドアをゆっくり開ける。
ドアの先には、昼間なのにベッドの上に横になるエースだった。
「……エース…。」
デュースは死体のようになった彼の名前を呼ぶ。返事は返ってこない。分かっていたが、胸が痛んだ。
かつてはエース、デュース、監督生、グリムの3人と1匹で仲良く笑い合っていた。それなのに、今は、監督生が虐めのせいで自殺し、エースは止められなかったショックで鬱状態。グリムは監督生が自分に何も相談してくれなかったことが悔しくて暴れまわり、現在は学園長に保護されている。こんな形で崩壊してしまうなんて思わなかった。虐めの中心にいた人物達は今日退学処分にされ、学園から追い出された。監督生はクルーウェル先生のお気に入りでもあったため、虐めていた彼らを酷く罵っていた。そして、生徒のことなのに気付けなかった自分を憎く思い、今は学園を休んでいる。監督生の自殺は、彼らにとってとてと大きな影響を与えた。
「………なぁ、デュース」
珍しく、エースが声を出した。だがその声は以前とは全く異なり、掠れた弱々しい声だった。
「もしもさ、俺がオンボロ寮に向かう時間が少し早ければさ、彼奴は、今も生きて、俺らの近くにいてくれたのかな……………。」
エースの発言に言葉が詰まる。
彼は監督生の死の原因は自分だと思っている。実際、あの日エースは部活で疲れ切って寝落ちしていた。すぐに起きたが、いつもオンボロ寮へ行く時間よりも遅くなり、時間がギリギリだったのを覚えている。もしあの時自分が寝落ちしていなければ。なんて考えてるに決まってる。自分がその立場だったら思う。だが、エースが早く来ていたところで、監督生の死は100%防げたという確信は持てない。鍵をかけていたら入れないし、壊すといっても時間がかかる。いじめを止められなかったのにはデュース自身も責任を感じている。この前にその事を言ったが、エースはお前らのせいじゃない。と言い切った。彼は、すべて一人で抱え込んでいる。すべてが自分の責任だと思い、自分をせめ続けている。
なんとか反論したいと思ったが小さな頭では思いつかず、あらためて自分の脳に苛ついた。
でも、エースの気持ちは本当に十分分かってしまう。あの時諦めずに虐めてた奴らに挑んでいたら、結果は違ったのかもしれないと思う気持ちもある。だが取り返しのつかない過去をみたって、監督生はかえってはこない。それが現実の残酷さだった。
「……エース…お前だけの責任じゃ…」
「なくねーよ。俺が悪いんだよ」
被せてくる。苛立った口調で彼は言った。
「監督生は一人で苦しんでた。俺等に虐めの事を言ったのは、彼奴が虐められて2週間も経った頃だ。俺等が知る前からずっと彼奴は一人で耐えてきたんだ。俺等はその間のうのうと部活したり、ふざけて笑ったりして…。何で最初に言ってくれなかったんだよ…。そしたら事が大きくなる前に対処できただろ……。彼奴は俺を信用してなかったのか…?なんでだよ…どうして……。どうして…。どうして……!!!!!」
ベッドのシーツに爪が喰い込む。
「ああああああ゛!!!!!!」
部屋に叫び声が響いた。
エースが壊れていく。エースがエースじゃなくなる。
デュースは、そんなエースをみていられず、顔を伏せた。
部屋の中は、エースの泣き声で溢れていた。
✧___✧___✧
次の日、ナイトレイブンカレッジの食堂で、デュース、ジャック、エペル、オルト、セベクは集まった。
少し前までは、監督生やグリム、そしてエースも一緒で、わいわいと賑やかだったが、今では楽しそうな話題は一つもでず、空気はとても重かった。
「……エースクン、本当に大丈夫なのかな…」
エペルの心配する声にジャックも頷く。
「…わかんねぇ。昨日彼奴の部屋に行っても追い返されちまったし…。」
「僕も…。前にハーツラビュル寮の廊下でエース・トラッポラさんがお手洗いに行くときを狙って精神バイタルを測ったんだけど、酷く乱れていたよ…。あんな精神状態見たことないよ…」
「クソっ…!!……どうしたらいいんだよ……!!」
食堂の机を拳で叩く。あまり手のつけられていない食べ物ののった食器がガシャンと音を立てる。何人か周りの生徒たちはこちらを見てきたが、彼らにとってそれは気にすることではなかった。
「彼奴、昨日は急に怒り出したと思えば急に泣いて、急に首絞めようとして、やめてはまた怒ることを繰り返してたんだ…。」
昨日の光景が目に浮かぶ。
デュースは何をしてあげたら良いのかが分からず、歯を食いしばる事しかできなかった。胸の奥がズキンと痛む感覚。戻ってこない日常。戻ってこない監督生。この二つの事実が彼らの心を強く、深く切り裂いた。
「監督生サンが飛び降りた夜、僕達に報告に来たじゃん?その時のエースクンの顔が今でも忘れられないんだよね…。」
「ああ。僕もだ。その後オンボロ寮に着いた時、エースが血だらけになった監督生を泣きながら抱きしめていた姿が嫌でも覚えてる。」
監督生の死と、エースの崩壊。グリムの暴走。
この出来事は、一緒忘れられない出来事として、脳に刻み込まれるのだろうと、彼らは理解していた。
✧___✧___✧
3
監督生と話す夢を見た。
監督生と話す時間は、夢の中でも楽しくて、夢の中の俺は監督生が死んだことを忘れていて、監督生も死んでいないことになっていて、虐めもない環境で。とても楽な気持ちになれた。
いつも寝れるのは深夜3時から深夜4時の間の1時間だけ。その時に見る夢は、残酷で、監督生が死んだときの映像がずっと流れている夢だった。だが、今回は違った。監督生が笑顔で、生きていて、俺の望んだ世界だった。だが、夢から覚めた時、現実を思い出して、深く絶望した。その絶望はとても残酷だった。
____
「監督生の夢はさぁ、元の世界に戻りたかった?」
誰もいない部屋の中で問う。
「ごめんなぁ……っ…監督生っ…俺が…お前を元の世界に戻してやれなかったっ…オレっ………っ…約束…したのにっ……絶対、お前が元の世界に帰れる方法探すって………っ…言ったのに…、っ…!!まだ俺と同い年なのにっ…俺が守ってやれなかったせいでっ………、、彼奴は…アイツはぁぁッ!!!…なぁ、俺はどうしたらいいんだ??もう、お前のいなくなった世界で……俺、生きられる気がしないよ……監督生………」
スマホのロック画面に映る、監督生とエースの2人のツーショット。その画面を見ると、後悔が心の底から死ぬほどわいてくる。気持ち悪くて、気持ち悪くて、スマホを投げた。壁に辺り、跳ね返って床にゴトンと音を立てて落ちた。ロック画面を変えることも今のエースにとっては難しいことだった。
「………なんで…………言わなかったんだろうな………」
寝たままの姿勢で泣いたため、シーツが涙で濡れた。
「………お前に…大好きだって………。」
✧___✧___✧
「エースはさ、僕のこと、好き?」
ある日の夜、オンボロ寮のベッドで問われた。
「はあ!??!!?な、なななんだよ急にっ!!」
「あはは、いやいや冗談冗談。あ、ちなみに僕は友達として好きだよ」
笑われた後、にこりと微笑まれる。「友達」という言葉に引っかかったが、好きと言ってくれたことが嬉しかった。
「…そうかよ…」
「あははっ、エース照れてる笑」
「はぁ!?う、うっせぇっ!」
きっと顔赤いだろうな。…「友達」なのに、監督生は「友達」として好きと言っているのに、一人でこんな舞い上がって、照れて、……馬鹿みたいだ。
そう、思った。
本当の自分の気持ちを言ったら、監督生は俺から離れていくだろう。気持ち悪いと言って突き放すだろう。…もう、かかわることをやめてしまうかもしれない。
それが怖くて怖くて、俺は、監督生に伝えることをしなかった。
どうせ壊れてしまうのなら、監督生が元の世界に帰る時か、卒業する時に言おうと思っていた。最終的には会えなくなるんだから。関係が崩れて、これから気まずくなるのも嫌だ。だから、気持ちはまだ閉まっておくことにしていた。していたのに…。オンボロ寮で彼奴を見た瞬間、後悔が襲った。なんで、言わなかったんだろうかと。あの時あんなことを考えなければよかった。そうすれば思いを伝えられた。…けど…。監督生が自殺するなんて、思っていなかった。たしかに彼は虐めで苦しんでいた。だけど、夜、オンボロ寮の中で2人で話す監督生の姿は、学園にいる時よりも楽しそうで、よく分からかい感情が自分の中で入り混じっていた。
もう監督生は二度と帰ってこない。
二度と会えることもない。
だから、お前への「大好き」は、永遠と言えない。
「あの時に言っとけばよかった」
なんて、後悔をした。
もっと自分に自信が持ててたら言えたのか。それとも、それ以前に、あの集団の虐めを止められていたら、監督生は今も生きていて、今も俺はオンボロ寮にいるはずだった。
今更どうすることもできなくて、自分を惨めに思う。
「なにが大魔法師だよ……何がすげー魔法だよ…何がユニーク魔法だよ!!!!!!」
部屋に荒い声が響く。
「……時が戻せなきゃ……意味がねぇーじゃん……」
小さく、弱々しい声で言う。
あのマレウス先輩でさえ、死んだ人間を元に戻すことはできない。それが、現実だ。
今日も一人、寂しく布団に潜る。
✧___✧___✧
監督生がこの世から去り、エースが壊れてしまってから一ヶ月が経った。
一ヶ月の月日が経ったとしても、監督生の死は忘れられなかった。
オンボロ寮の庭で見た監督生の死体。かつて、みんなでパーティーをした庭。あの時の僕達は、みんな笑顔だった。思い出があった庭が、彼の死により、地獄の場所へと変化した。
エースはまだ、まともに生活ができていない。監督生が自殺してから、彼が談話室に顔を出したことは一度もない。僕達が学園に行っている間、エースは泣き叫んでいる。僕達が戻ってくると、彼は死んだように声を発さなくなる。ローズハート寮長や学園長達はメンタルケアの先生をすすめたが、エースが拒否をした。
こんな生活いつまで続くのだろうか。
もう元には戻れないと知っている。けど、せめて普通の生活くらいは送れるようになってほしい。エースは前みたいな食欲を見せない。今では果物を少し口にしただけで、食べるのをやめてしまう。どんどん痩せ細っていくばかりだ。
僕達は、監督生を生き返らせることも、エースをもとに戻すこともできない、未熟で哀れな魔法師だ。
今日もブカツが終わり、汗をタオルで拭きながら寮に戻る。最初はショックすぎて走れなくなり、休んでいた部活。今は少しは走れるようになり、復帰することができた。
「エース、今帰ったぞ」
寮にはエースが横になっている。他の2人は現在入浴中だろう。エースが風呂に入るのは深夜の3時。ふらふらとした足取りで向かう姿を毎日見ている。エースが風呂でなにかあったら危ないということで、僕がエースの見守り役となり、風呂まで隠れてついて行っている。それが最近の日常。
「僕は風呂に入ってくるからな。」
返事は期待していない。今まで帰ってきたことがないから。
荷物を置き終わり、入浴の支度を済ませ、部屋から出ようとした。
「…………なぁ………デュース…………」
その時だった。エースがか細い声を出して名前を呼んだ。何日ぶりだろうか。
「なんだ…?」
「おれさ、監督生の…友達…失格だよな………こんな…生活続けてさ……。それに……おれ……監督生のこと……友達として…途中から見れなくなってさ……。おれ……あいつのこと……本当に……本気で…好きだったんだ………」
目を見開いた。
彼の言う好きは友達としてではない。それくらいは馬鹿で頭の硬い僕でも分かる。
彼は、言えなかったんだ。最後まで監督生に「好き」と。好きな人に好きと言えないで終わる気持ちは、どれだけ苦痛で残酷だろうか。僕でも辛かったんだ。エースは相当、相当辛かったんだ。目の前で好きな人を失うことをした彼は。
「……変…だよな……。男が男を好きだなんて…。気持ちわりぃーよな…。おれ。」
「っ…!!気持ち悪くなんかねーよ!!!好きな人に好き っつって何が悪いっ!!!それがお前の意思なんだろ!!?自分を否定してどーすんだよ!!」
「…っ……」
エースのその時の顔は、どう表現すればいいのだろうか。わかってるという表情、悲しい表情、辛い表情、後悔している表情、全てに当てはまった。
僕は重い空気が漂う部屋から出た。居心地が悪くて、エースをこれ以上見てられなくなって、浴場に逃げた。
暫く経ち、浴場から出た。タオルを肩にかけて廊下を歩く。そして部屋のドアを開けた。いつものように。
すると、目の前に飛び込んできたのは同じ部屋の寮生2人だった。
「デュース!!大変だ!!エースが!!」
「エースがどうかしたのか!?!」
2人の顔から見て、状況は緊急事態のようだ。
「エースが…どこにもいないんだ…… 」
「…………は……?」
✧___✧___✧
4
オンボロ寮。
この場所が、俺は大好きだった。
沢山監督生と話した場所。
一緒にパーティーをした場所。
一緒に遊んだ場所。
みんなでお泊り会をした場所。
みんなで笑いあった場所。
思い出が詰まった場所。
監督生の最後を迎えた場所。
監督生の最期を見た場所。
鍵はかかっていなかった。
すんなりとドアが開く。
中へ入った。
オンボロ寮の中は、暫く掃除がされていなかったため、埃が溜まっていた。それでも、一番最初にここに訪れた時よりは全然綺麗だ。
2階へ上がり、監督生とグリムがいつも寝ていた部屋に向かう。
ドアを開けた。
そこには、監督生が生活していた道具がのこったままの、あの時と変わらない、静かな空間が広がっていた。
鏡にうつった自分の体が、想像以上に痩せ細っていることに気付く。こんな体になっていたのか、と淡々と思う。
窓から覗く月は、満月で、光り輝いていた。かつてこの窓から、彼奴と月を見た。彼奴と過ごした日々を忘れることはない。
空きっぱなしの窓。あの時からずっと空いていたのだろう。
カーテンが揺れる。
夜空を眺める。
一歩を踏み出す。
そして、彼の過ごしたオンボロ寮の2階の窓から、身を投げた。
✧____✧____✧
『ごめんね』
『エースはまだ、こっちにきちゃだめだよ』
✧____✧____✧
僕は、エースが居ないことに物凄く嫌な予感をおぼえた。
胸騒ぎがする。
ローズハート寮長やエペル達を含め、全員で捜索した。
「デュース・スペードさん!!この映像にエース・トラッポラさんが映ってる!!この道はオンボロ寮に向かってるよ!!」
「オンボロ寮…?それってまさか…!」
「おい貴様ら!オンボロ寮に急ぐぞ!!」
僕達は、急いでオンボロ寮へと向かった。
玄関へ辿り着き、中へ入ろうとした時だった。
ドサッ
っと。庭の方から、音がした。何かが落ちた音。
僕達は、震える足で音のした方へ行く。そこに見えたのは
倒れて血だらけになったエースの姿だった。
5
エースは病院に運ばれた。
意識不明の重体だった。
監督生の時は即死だったが、エースはまだ死んではいないようだ。ほんの僅かな希望を信じて、僕達は待合室で、拳を握ってエースの状態が安全であることを祈りながら待ち続けた。
「どうして…エースくんまで………そんな………っ…あと少し早くオンボロ寮に行けてたら……」
「だが…今は信じることしかできねぇ…。クソっ……」
僕は口を開けなかった。
怖かった。これ以上友達を失うのは。
震える唇、震える手、もっと早く着いていれば、もっと早くオンボロ寮だと気付けていたらという後悔。
エースはこれを過去に味わった。監督生が自殺した夜に。
………エース……生きていてくれ………
涙を拭って心で祈った。
✧____✧____✧
あの時、すこし暖かかった。
一瞬、暖かい何かに包まれたような感じがした。
俺は死ねた。
やっと。
監督生のもとへいける。
そう、思った。
地面への衝撃の痛みは、今の自分にとって快楽だ。
だけど、その一瞬に暖かい何かに包まれた気がしたのだ。
それが何かは、わからなかった。
……………す……
……ぇ…………す……!
……………えーす………!
「エース!!!!!!!!」
✧_✧
その声に、目を開いた。
見えたのは白い天井。
ここは…病院………?
…あれ……、……俺は……なんで……しんだ……はずじゃ……
そして、白い天井だけだった視界に、デュース、エペル、ジャック、オルトやセベクが映り込んできた。
「エースくん……!!よかったあああ!!!」
涙でぐちゃぐちゃになったエペル。
「どれくらい人に心配をかければ気が済むんだよ…!」
涙を堪えられなくなったジャック。
「よかった……このまま死んじゃうんじゃないかって…心配で仕方なかった…。本当に、よかった…」
機械なはずなのに、涙が溢れるオルト。
「貴様!!!一人で抱え込みすぎだ!!!僕たちにも少しは頼れ!!」
相変わらず大きな声量が、涙で少し軽減されているセベク。
「おまえら……」
その瞬間、デュースが病室の端の椅子から立ち上がり、こちらへ向かってきた。
「っ…、エース…お前が、どれだけ辛かったかは分かる。後悔の大きさも。けど…それが死んでいい理由にはなんねぇ!お前が死んだら、家族や俺達だけじゃなく、監督生だって悲しむ!!監督生だって、そんなことは望んでないはずだ!!」
「っ…」
そうだ。
飛び降りる時、地面に落ちる瞬間、声が聞こえていた。
なんで忘れていたのだろう。
「ごめんね」
という謝罪。
そして
「エースはまだ、こっちにきちゃだめだよ」
という言葉。
その後に感じた、暖かさ。
「………ぁ……あぁ……」
涙が溢れた。
何粒も、何粒も。涙が頬を濡らした。
「監督生は……助けてくれたのか……?」
その呟きに、そこにいたみんなは、優しく微笑んで頷いた。
「エース、これ。学園長達がオンボロ寮に昨日行ったんだ。その時に、机であるものを見つけたらしいんだ。」
デュースの片手には、薄オレンジ色の手紙の封筒があった。
優しい手で渡してくる。
「俺等に一通一通、書いてくれてたみたいなんだ。それはエースのだ。」
監督生が…俺に……?
ギリギリ使える右手を使って、封筒を恐る恐る開けた。
『エースへ
これを見たときには、僕はもういないと思う。
そして、多分君は壊れてると思う。
勝手にいなくなって、先にいってごめんね。
もう、僕はこうするしかなかったんだ。
エースには、すごい迷惑かけたと思ってる。本当にごめんね。
エース、今僕のせいでちゃんとした生活を送れてないんだと思う。だから、お願いがある。僕からの、最後のお願い。
これから、ちゃんと食べて、ちゃんと寝て、ちゃんと起きて、ちゃんと学園にいって、立派な魔法師になって
自分を攻めないで。
エースが僕のせいで壊れていくのを空から見るのはきついんだ。だから、僕が空から見て、「エース楽しそうだな」って思えるように、残りの学園生活を楽しんで。
そして、エースは、生きれなかった僕の分も、ちゃんと生きて。
僕は、一番近くでエースのことを見守ってるから。
最後に。
エース、ずっと、
大好きだよ』
ああ。
監督生は…やっぱり、すごいなぁ…。
監督生が、そう、願うなら。
俺は、生きられなかったお前の分まで、ちゃんと、最後まで生きるよ…。
手紙を見て、微笑みながら呟いた。
「俺も、お前が大好きだよ」
と。
Fin