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桐生クリエーションはコンテンツ制作会社でイベント向けのコンテンツから印刷物、ロゴデザイン、ウェブ制作などあらゆるサービスを提供している。
会社の規模は以前の高嶺コーポレーションと比べると随分と小さいがそれでも従業員が200人の企業だ。
この会社では海外とのイベントプロデュースもする為英語が話せる人を募集していたので自分のスキルが合っているのではないかと思った。
社長は桐生颯人で年齢までホームページに書いてなかったが顔写真を見るとまだ30代前半くらいではないかと思う。
桐生クリエーションは大きな斬新なデザインのビルの中の14階から16階のフロアにある。私は14階にある受付を通り指示通り人事部の前に来ると緊張した面持ちでドアをノックした。
「おはようございます。本日より出社いたします七瀬蒼です。よろしくお願いします」
「おはよう。丁度よかった。今七瀬さんの事を八神さんと話してた所だったんだ」
私は面接をした月城さんと一緒に立っている八神さんを見た。月城さんは40代くらいのわりとぽっちゃりとした人の良さそうな人なのに対し、八神さんはまだ30代前半くらいで眼鏡をかけていて厳しそうな感じの人だ。
八神さんは私のことをじっと値踏みするように見ていて、緊張度はさらにアップする。
「こちらは、秘書室長の八神篤希さんです」
なぜ秘書室長が私のような新人に会いにきたのかと内心ドキドキする。まさか既に前の会社での騒動を聞きつけたんじゃ……
── お願い、せっかく見つけた仕事なのに初日に解雇しないでよ……。
内心冷や汗をかきながら八神さんに頭を下げた。
「七瀬蒼です。よろしくお願いします」
「八神です。既に月城さんとは話をしてあるので、とりあえず私の後について来てください。今から七瀬さんの仕事について説明します」
私は頭に疑問符を浮かべながら黙って彼の後を歩いた。
八神さんは16階のエレベーターのボタンを押すと口を開いた。
「七瀬さんには本日より社長秘書の仕事をしていただきたいと思います」
「えっ…?」
思わず絶句する。いきなり社長秘書とは何かの手違いじゃないだろうか?
「あの、わたし企画部に応募したんですが……。それに秘書としての経験もありません」
「大丈夫です」
八神さんはエレベーターから降りると廊下をどんどん歩いていく。
「七瀬さんは帰国子女でTOEICのスコアもほぼ満点です。しかも秘書検定もお持ちですね」
いやいや、秘書検定といっても3級だ。以前就職活動をしている時に何か履歴書に書ける物があればと思い受けただけだ。
「実は先月ある事情で秘書が辞めたんですが、なかなか後を引き継ぐ人がみつからなくて困っていたところだったんです。今は臨時で五十嵐さんが社長の秘書をしているんですが、彼はもともとあまり英語が得意ではなくて。僕も忙しくてなかなか手が回らない状態なんです」
八神さんは廊下の奥にある部屋に入った。そこにはデスクがいくつかあり、さらに奥に部屋がある。八神さんはその扉をノックしてドアを開けた。
「おい颯人、連れて来たぞ」
その馴れ馴れしい呼び方に少しびっくりする。もしかして八神さんはただの秘書室長ではなく、もっと親しい間柄なのかもしれない。
中に入ると社長の桐生颯人がデスクから腰をあげた。緊張で心臓がドキドキして手に汗が出てくる。
「おはようございます。本日より出社いたします七瀬蒼です。よろしくお願いします」
私は慌ててお辞儀して、人事部で挨拶した時と同じ言葉を繰り返した。
「社長の桐生だ。よろしく。八神から聞いていると思うが今日から秘書を頼む。彼がしばらく七瀬さんと一緒に秘書の仕事を担当するから彼らから色々と学んでくれ」
桐生社長はそう言って人懐こそうに微笑んだ。
黒髪で切れ長の目の知的な感じのする顔はホームページに乗っている顔写真よりもずっと若く見える。30代半ばかと思っていたがもしかすると29か30歳くらいなのかもしれない。背が高く185センチはあるのではないだろうか?立ち上がると圧倒的な存在感がある。
しかし何より一番驚いたのは写真で見るよりもかなり男前な事だ。顔のパーツがバランスよく配置されその端正な容姿は大人の男としての鋭さと色気を兼ね備えている。社長でおそらく金持ちで男前。……これまたなんともモテそうな男だ。
私がそんな事を考えながら社長を見ていると、彼も私を頭のてっぺんから爪先までじっと見ている。その顔にはなんとも言えない表情が浮かんでいる。
── この格好社長秘書としてまずかったかな……。だってまさかこんな仕事につくと思わなかったんだもん。後で八神さんに服装のこと聞いてみよう。