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「じゃ、七瀬さん、部屋はこっちだからしばらくは僕と一緒にこっちのデスクを使って」


そういって八神さんは社長室を出て先ほどの部屋に戻る。私は社長に一礼すると彼に続いてドアを閉めた。


「それじゃ、ここが今日から七瀬さんのデスクで、ここに人事からの必要な書類があるから確認しておいて。それから当面は翻訳と書類の作成、あとは電話の対応かな。わからない事があったら僕か五十嵐さんに聞いて。五十嵐さんは今外出してるけどもう少ししたら帰ってくるから」


何だかわからない事だらけで混乱する。なぜ秘書経験もない私をこの仕事に就けたのか……。でもこの質問をするには何故か躊躇いがある。せっかく与えられた仕事なのに悪い印象は与えたくない。


「はい。ありがとうございます。……あの、質問なんですが秘書室で働くとは思ってもいなかったのでこんな服装で来てしまいました。もっときちんとした服を着るべきでしょうか?」


だいたい社長秘書というのは派手ではないが、私が今着ているような貧乏くさい地味な服でもない。何となく心配になって、眉根を寄せながら地味なグレーのスーツを見下ろした。


「えっ?ああ、服装ね。それでバッチリ。そんなの全然気にしなくていいから!」


八神さんは嬉しそうに微笑んだ。この地味な服装を上から下まで見てとても満足そうにしている。


「……そうですか…?」


何となく八神さんの態度に首を傾げながらも、私は早速秘書として初めての仕事に就いた。




***




「はい、これ社長からサインをしてもらった書類です」


各部署に社長から頼まれた書類を置いてまわり、最後に経理の姫野ひめのさんのデスクに立ち寄った。


「ありがとう。ねえ、今日一緒にご飯食べに行かない?今日は事務の女の子達も何人か誘ってるの」


「いいですね!今日はどこですか?」


「ほらこの前ベトナム料理食べたいって言ってたじゃない?いいお店見つけたの」


「やった!絶対行きます。じゃいつものように仕事が終わったら一階で待ち合わせで」



私は足取りも軽く秘書室に戻る。


桐生クリエーションに勤め始めてそろそろ2ヶ月。


初めは何もかも分からず八神さんと五十嵐さんに頼りきりだった私も、次第に要領を得て自分で仕事ができるようになってきた。


この格好のお陰か、以前の会社と違って男子社員に言い寄られることもなく最近は女子社員とも仲良くなった。特に経理の姫野さんとはよく一緒にご飯を食べにいったりする仲だ。


「只今戻りました」


秘書室の扉を開けると五十嵐さんが電話の相手と四苦八苦していた。


「ああよかった、七瀬さん。ちょっと電話代わってもらってもいい?」


「はい。どなたからですか?」


「先月からうちでイベントの担当しているLAの会社なんだけど、コンテンツか何か変更したいって言ってるみたいなんだ。でも早口とアクセントが強くてよくわからないんだ」



電話を変わると英語で話しかけた。


「Hi, This is Aoi, May I help you?」


側で五十嵐さんがほっと安堵の表情になる。


五十嵐さんは30代後半の男性で、見た目はなんとなく厳しそうなのに実はとても優しくて家庭的な人だ。最近二人目のお子さんが生まれたらしく小さな子供の写真を机の上に飾っている。


五十嵐さんはこの会社を社長が立ち上げた時からずっと勤めていて、元々は秘書ではなく違う仕事をしていたらしい。


しかし雇った秘書が皆あまり長続きしない為、会社と社長のことをよく知っている彼が社長秘書になったらしい。それに彼が女性ではなく、男性だったこともあるようだ。


「OK, No Problem. I will let him know. Thank you, Bye.」


私は電話を置くとメモに内容を書き出した。


「なんて言ってた?」


「イベントで流す映像で一部変更したい箇所があるみたいなんです。社長にもメモをしたんですが、これ担当の方にも知らせたほうがいいですか?」


「そうだね。お願いできる?俺さ、今から今度の接待で使う場所の確認と打ち合わせでちょっとだけ外出するんだけど大丈夫?」


五十嵐さんはPCの電源を落とすと荷物をまとめ立ち上がった。


「大丈夫です。いってらっしゃい」


私は五十嵐さんを見送った後、机に座って先ほどの電話の内容をこのイベントの担当者にメールした。


「はぁー。疲れた」


私は誰もいない秘書室で独り言をつぶやくと、分厚い眼鏡を取った。


最近この分厚い伊達眼鏡をかけてコンピューターの画面を長時間見ているからなのか、目が疲れる。しかも軽く頭痛までしてくる。誰も居ないんだったら眼鏡くらいとって仕事しても大丈夫だろう。


グリグリと目頭をマッサージした後、再びPCの画面を睨んだ。



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