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卒業式

1 - 足を運ぶ

2025年03月11日

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ベッドから起き上がったとき見た光で、今日はもう二度寝出来ないなと思った。

そもそも、今日はちゃんと行こうとお母さんに誓ったのだ。これから寝るわけには行かない。

自分に襲いかかってくる緊張感と焦燥感に潰されて死んでしまいそうだった。誰かとすれ違ったときに何か言われるかもしれない。後ろで陰口を言われるかもしれない。話しかけられて嫌味を言われるかもしれない。

後ろへと逃げ続けていると、学校へ行く際のハードルがどんどんと上がってしまう。かといってずっと逃げ続けるわけにはいかない。いつか必ず行き止まりに辿り着くのだから。


「宕、準備は出来てるの?」

「あ、うん。お母さん」

お母さんは今日どうしても僕を送っていきたいと仕事を休んだ。申し訳なさが僕の背後を付きまとう。

「…ねえ、本当に大丈夫?行かなくてもいいんだよ?」

「……。大丈夫、うん。大丈夫…」

このままお母さんに迷惑をかけ続けるわけにないかないし、僕だってちゃんと前に進まなきゃいけない。だから、この恐怖は必要経費と思わなきゃいけない。

何があっても、絶対に、僕は、学校に、行かなきゃいけない。そう、僕はちゃんと学校に行ける。そこまで弱くない。ちゃんと中学校に行ける。絶対に、僕は。


「宕さん」

「あっ、にろよ!…じゃなかった、コルセットさん」

コルセットさんには名前がないらしくて、製品番号がNo-264らしいから最初は”にろよ”と読んでいた。そして僕からのプレゼントでコルセットさんという名前をつけた。コルセットというのは昔よく使われていた腰の辺りにつけるものだけれど、その名前をにろよにつけた理由は特にない。思いつきというものだ。

「明日は貴方の誕生日ですよね?なので宕さんが帰ってきたら盛大にお祝いしましょう」

「本当?楽しみにしてるね」

今日が3月11日。卒業式だ。その次の日の3月12日が僕の誕生日。

僕なんかが、普通に誕生日を楽しんでいいのだろうか。


通学路は不思議と足が覚えていた。けれども長時間歩くのが久しぶりですぐ息が切れる。空気は十分冷たいのに汗が出るような感覚がして嫌になる。

周りに同学年の子がいるのが見えて今すぐ隠れてしまいたかった。お願いだから、こっちを見ないで。


記憶にない思い出を語って、なんとか覚えている校歌を歌って、みんなの目の前で卒業証書を受け取る。たいしていい思い出なんかないのに、ピアノの音で泣きそうになってしまう。同時に、無力さが胸を刺した。

周りに立っている子達はみんなちゃんと六年間学校に通って、中学校に行こうとしているんだ。僕はそんな子達の影にしかなっていなかった。


僕は本当にこのまま中学生になれるのだろうか。なんにも目標がないまま進んで、特にやりたいこともないまま勉強して、そのまま時が進んでいくのだろうか。

怖かった。何もかも怖かった。自分のこの考えを誰かに話しても理解してもらえるか怪しいし、かと言ってそのまま大人になるのも嫌だった。それに子供だからまだ一人きりで何かを出来ない。

そんなことを下校中歩きながら長々考えていた。周りを見ないでずっと空想に浸る癖をそろそろやめたいと思っていた。


将来何の職業になりたいか学校で聞かれたことがあった。僕には何も分からなかった。なんで他の子達はそう簡単に答えられるか分からなかった。勿論人の役に立つ仕事に就きたかったし、それなりにお金も稼げる環境も欲しかった。でも僕には知識も力も意思も足りなかった。

僕はそれに焦りを感じていた。でもどうにもならなかった。


目の前で車が道路を突き抜ける音が聞こえる。もう冬だからか、肌寒かった。

無駄に長いこの信号はもう少しどうにかならなかったのかと待つ度に思ったことがある。夏休みに入る数日前にあまりに多い荷物を持って待っているときは特に、それが一時間にも感じられた。

車が走る音が止まって、信号が青に変わる。僕の少し先を歩くお母さんに着いて行く。

ここは車通りが多いし横断歩道も長いしであまり好きじゃない。

静寂を貫くように車の走る音が聞こえる。その音がだんだん近づいてくるのに気づいたのは、車のボンネットがすぐ横に見えたときだった。


景色がスローモーションに見えて、お母さんの驚く声が聞こえて、それでも車は止まらなくて、ずっと死期を焦らされて、くだらない人生だったなって、せめてもっと生きたかったなって。

僕がちゃんと学校に行っていればこんなことにはならなかったのかな。僕が空想に浸る癖を早く辞めた方がよかったのかな。ちゃんと学校の人に将来が分からないって言えばよかったのかな。卒業式になんか足を運ばなきゃよかったのかな。

ねえ、ぼく何か悪かったのかな?

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