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三者が追いついた林の先では、それ程時間差は無かった筈なのに、既にトシ子とリョウコ、カルキノスの戦いが始まっていたのである。
リョウコから離れ、単独で青柿の投擲(とうてき)を終えたフンババは、その身を雪原に出来た僅かな窪みに滑り込ませながら吐き捨てるように言う。
「ちっ! 毛ほどもダメージを与えられないとはなっ! これは…… ちとヤバいかもなぁ! お、コユキにモラクス来たか、んだがどうした物かなぁ?」
「フンババちゃんの投擲も効かないってどんな化け物なのよ! そんなの世の中に居て良いのぉ?」
同時に窪みに辿り着いたモラクスがチラリと覗いてから返す。
「なるほど、あれはいかんです、ヘーパイトスの叔父、マッドサイエンティストのオイノピオーンが我が子を改造して作り上げたタロース、所謂(いわゆる)ミノスの巨人ですね、しかも、色が赤銅(しゃくどう)色ですよ、本来は青銅製の筈なんですけれど…… なにやら魔改造されているようですね」
コユキは窪みから飛び出してしまいそうになる腹部をへこませる為に、断続的に息を吸い続けながら答えた。
「ミノスの巨人、ああ、あれね、アイツの尻尾からミノタウロスを作ったんだったっけか? そんなに強いわけ?」
モラクスは窪みの上端から抜け目なく戦場の様子を覗いながらコユキに答えた。
「そうですね…… 今はここから十メートル位先でソフビサイズの弟、パズスが『鉄盾(アスピーダ)』を極大にまで広げて護り、カバーし切れないで襲い来る破滅の光線を横に並んだヒュドラが必死に相殺させているようですが、このままではやがてこちらが圧倒されてしまう事でしょうねぇ」
コユキはこんな状況だと言うのに頭の上にハテナを浮かべて疑問を口にしたのである。
「へ? そうなの? 一対多なんだからアッチが先にエナジー切れになるんじゃぁ無いのん?」
モラクスは苦笑いで答える。
「お忘れですか、っというより覚えて居られないんですよね、あのタロースの脊髄に流れて魔力の根源になっている物は、コユキ様善悪様、その前身たるルキフェル様の血液なのです、ギリシアでイコールと呼ばれていた頃に分け与えたお力の神髄なんですよ、ですからガス欠になる事は有り得ません、先にカツカツなのは間違いなくこちらですよ」
「えっ! アタシ達ってかルキフェルの血液? お、オリジナルのぉ! そんなの勝てる訳、無いんじゃ――――」
「失敗したでござるよぉー、引っ張って貰うのは大成功だったでござるが、二人が止まると飽和攻撃の只中に置き残されてしまうのでござるなぁ、今後改良を要すっってヤツでござるね、これ! んまあ、エクスプライムを覚えておいて良かった良かった、って所でござるな、あぁ、痛かったぁー、んでこれからどうすんのぉ?」
右の側頭部と左わき腹に着弾したのだろう、二か所を擦々(さすさす)しながら現れた善悪を驚愕の目で見つめたモラクスは言うのである。
「い、痛い? ですか? えっと、あの、善悪様? 破滅光線を受けたんですよね? あの、えっと、本当に?」
聞いている間に一発、良い感じの光線が頭を上げていた善悪の額の真ん中に命中したのであった。
一瞬だけ首をムチ打ち気味に後方に持って行かれた善悪はおでこを擦りながら答えた。
「見ての通りでござるよぉ! これ結構痛いよね? あんまり当たると辛いかも知れないのでござるよぉ? 皆、ビーケアフルッ、でござる!」
「あ、ああ、ああ、あ、はい、き、気を付けます」
呆気に取られているモラクスにコユキは聞いた。
「んで、これからどうしよっか? モラクス君!」
「はっ! し、失礼いたしました、えっと、今はヒュドラとパズスが何とか抑えています、トシ子様のクレイゴーレムとリョウコ様の蔦(つた)は通用していないようですね…… うん、善悪様が数秒でもエクスダブルでパズスを守って下さるとすれば、パズスにオリジナルの姿をとって貰う事が可能だと思います、そうすれば何とかあの自動機械を打ち倒す事も出来るのではないかと、愚考、いいえそれしかありません!」
頷いたコユキは善悪に言う。
「聞いた? 善悪! エクスダブルだってさ! パズス君にさっさと元の姿に戻れって言って来てね!」
「りょっ! 『エクスダブル』、おおーいぃ! パズス君ー! おーいおーい! 交代交代ぃ! オリジナルになるでござるよォぉー…… 痛っ! 痛ててっ!」