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窪みを出て気楽そうな足取りで近付いて行った善悪は、改めてタロースと呼ばれる赤銅(しゃくどう)色の巨人の姿を確認するのであった。
体高は二十メートル弱で有ろうか、人間の様な姿をしているが、顔や手足、胴体に当たる部分も、身に付けているヘルムやアーマーと同様金属製である。
両目と口、左右の掌(てのひら)からヒュドラのそれと酷似した破滅のブレス、いやモラクスが言っていた通り口以外からは破滅光線と呼ぶべきだろう攻撃をぶっ放していた。
いそいそと小走りに移行しようとした善悪に、背中を向けたままのパズスが叫ぶ。
「善悪様、それ以上近付いてはいけませんっ! 今は目と口から発射される威力の高い物だけを私とヒュドラで迎撃していますが、もしも被弾すれば右の骸骨みたいになりますっ! どうぞお下がりを!」
言われて右前方に視線を移した善悪は思わず息を呑むのであった。
そこでシューシューと音を立てながら破壊され続け、今にも姿を消そうとしていた物は、イーチのファイナルウェポンである巨大骸骨、全高三十メートルは有った筈のジャイアントスケルトン、タイラントのなんとも悲し気な空洞の右目だったのである。
『ふっ、俺とした事が不覚を取ったぜ』
そう言いだしそうな右目はそのまま破壊されて消え去ったのである。
思わず見入ってしまっていた善悪の左こめかみに激しい痛みが走る。
「ぐっ! ば、馬鹿なっ! エクスプライムじゃなくてエクスダブルでこの痛みだ、と…… こ、こりゃ無理でござるよ、パズス君とヒュドラ君! もう少しだけ耐えて欲しいのでござる! 待っていてね!」
パズスは小さく頷きを返し、ヒュドラは全身に大粒の汗を浮かび上がらせて返事をする余裕も無さそうであった。
その様子からは少なくともヒュドラが戦い続けらる時間はそう長く無い事が察せられた。
善悪はパズスの言葉に従って僅かに後退し、脇にあった窪みに身を隠すとコユキに存在の絆を使って話し掛けたのである。
『ヤバイでござる! これ以上近付けない、というよりも、エクスダブルでも拙者達人間では耐えられないそうでござるよ! どうする? 因みにヒュドラの限界近し!』
『ど、どうするったってぇー、えっとー、えっとー、はっ! そうだわ善悪ポクってみたの?』
なるほど、これまでどうしようもない危機を何度も乗り越えて来た秘技、ポクリがあったでは無いか。
善悪も同じ事を思い出したのだろう、早速座禅を組んでポクポクとやり出し、程なく目を見開いたのであった。
恐らくチーンが来たのではないか? そう推測できた。
善悪は再びコユキに語り掛けた。
『コユキ殿! 朝背負わせたリュックは? どうしたのでござるか?』
『リュック? あれだったらお婆ちゃんに背負って貰ったけどなんなの?』
『む、師匠に…… ねえ、その位置から師匠が見えないでござるか? ここからだと見つからないのでござるよ』
『うーんとねぇ…… あ! 居たわよ! ここから真横に百メートル位の所で塹壕みたいの掘って隠れてるみたいだわ、リエとリョウコ、それにカイムちゃんも一緒に居るわよ!』
『…………危ないけどさ、そこまで移動する事は可能でござるか? どうでござる?』
『え! ま、まあ距離的には大したことないけど…… 恐いわね…… んでも必要な事なんでしょ? 行ってやろうじゃないの!』
『気を付けてね、んで無事着いたらリュックの中に鉄人のコントローラーが入っているでござるから探して欲しいのでござるよ』
『ああ、あれね、お人形動かす奴よね、それでなんとかなるの?』
『うん、多分ね、おっと、ヒュドラ君側から抜けて着弾する数が増えて来たのでござる!そろそろ限界かも知れないっ! 急ぐでござるっ!』
『りょっ!』
「『加速(アクセル)』」
モラクスに説明もせずに姿を消したコユキは次の瞬間トシ子がスキルで掘ったのだろう塹壕の中に飛び込んでいた。
驚いて目を見開く面々には目もくれず、地面に置かれていたリュックを逆さにして内容物をぶちまけ、目的のコントローラーを見つけたコユキは素早く手に取り善悪に通信をしようと思い、その時、
ひゅぅーグチャッ! ……ひゅぅーグチャッ!
塹壕から十数メートル離れた場所に善悪が頭から叩きつけられ、数秒遅れて漆黒の美天使モラクスが更に十数メートル先で同じく叩きつけられて動かなくなったのである。
善悪の腰には確りと縛られた磬(けい)の紐が、モラクスの右手にも手首に回して掴んでいたのだろう同じく磬の紐が握り込まれている事が見て取れる。
「あちゃー」