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第3話 「『いつもの』って、まだ言うな。」
ホークス『』
燈矢「」
カラン。
「いらっしゃい。」
『こんにちは、燈矢さん。』
「……。」
「『Blue Flame Cafe』」に現れた大学生は、今日もにこにこと笑っていた。
燈矢は軽く眉を寄せる。
「……また来たのか。」
『ひどいなぁ。常連さんですよ?』
「まだ三回目だろ。」
『じゃあ、常連予備軍?』
「知らねぇよ。」
ケイゴは楽しそうに笑った。
不思議なやつだ。
こんな愛想の悪い店に、何度も来る理由が分からない。
「注文。」
『じゃあ……』
啓悟は少し考えて、にやりと笑った。
『いつもの、で。』
「……は?」
燈矢はじろりと睨む。
「何言ってんだ。」
『え?』
「『いつもの』なんてねぇだろ。」
「でも、昨日も一昨日もブレンドでしたよ?」
「だから?」
『だから、そろそろ『いつもの』って言っても――』
「却下。」
『えぇー。』
「面倒くせぇ。」
『ひどい。』
そう言いながらも、燈矢はブレンドを淹れ始める。
啓悟はカウンター席に座り、そんな様子を眺めていた。
前世では見られなかった姿。
静かな店内でコーヒーを淹れる横顔。
柔らかな午後の日差し。
穏やかな時間。
「……何。」
『え?』
「見すぎ。」
『ごめんなさい。』
「気持ち悪ぃ。」
『そこまで!?』
啓悟が大げさに肩を落とす。
その反応に、燈矢はほんの少しだけ口元を緩めた。
「お待たせ。」
『ありがとうございます。』
カップを受け取った啓悟は、一口飲んで目を細めた。
『美味しい。』
「そう。」
『燈矢さん、コーヒー好きなんですか?』
「仕事だから。」
『それだけ?』
「……。」
少しの沈黙。
「嫌いじゃねぇ。」
『へぇ。』
「豆の種類とか、淹れ方とかで味変わるだろ。」
『うん。』
「面白い。」
ぽつりと落ちた本音。
燈矢はすぐに気まずそうな顔をした。
「……別に。」
『ふふ。』
「笑うな。」
『だって、好きなものの話してる燈矢さん、ちょっと楽しそう。』
「……帰れ。」
『まだ飲み終わってません。』
燈矢は舌打ちした。
だけど、本気で追い出そうとはしない。
啓悟はそのことが少し嬉しかった。
『そういえば。』
「何。」
『燈矢さんって、彼女いるんですか?』
「は?」
『気になって。』
「何で。」
『いや、モテそうだなって。』
「どこが。」
『顔。』
「……。」
『あと、なんだかんだ優しいし。』
「ねぇよ。」
即答だった。
『へぇ。』
「お前は。」
『え?』
「彼女。」
啓悟は少しだけ目を伏せる。
『いないですよ。』
「ふーん。」
『好きな人はいましたけど。』
「……。」
『もう、ずっと前の話です。』
燈矢は何も言わなかった。
だけど。
なぜか胸の奥がざわついた。
知らないはずなのに。
その『好きな人』という言葉が、妙に引っかかる。
「……まだ好きなのか。」
思わず口をついて出た。
啓悟は驚いたように目を瞬く。
それから、小さく笑った。
『どうでしょう。』
「はっきりしねぇな。」
『でも。』
啓悟はコーヒーカップを見つめた。
『その人が幸せなら、それでいいって思ってます。』
「……。」
『前は、そう思えなかったんですけどね。』
燈矢は返事をしなかった。
ただ。
その横顔から、なぜか目が離せなかった。
「……変な奴。」
『また言った。』
「事実だろ。」
『燈矢さん、俺に厳しくないですか?』
「普通。」
『絶対違う。』
そんなやり取りをしているうちに、カップは空になっていた。
『ごちそうさまでした。』
「……。」
『じゃあ、また来ます。』
啓悟が立ち上がる。
その背中を見ながら。
燈矢は小さく息を吐いた。
「……おい。」
『はい?』
「明日。」
『?』
「……新作のケーキ作る。」
啓悟はぱちぱちと瞬きをした。
「試作品。」
『うん。』
「余ったら捨てる。」
『うん?』
「だから。」
視線を逸らしながら。
「食うなら、来い。」
数秒の沈黙。
『……燈矢さん。』
「何。」
『それ、誘ってます?』
「違ぇよ。」
『顔、赤いですよ。』
「帰れ。」
『行きます! 明日絶対来ます!』
「うるせぇ!」
カラン。
扉が閉まる。
静かになった店内で。
燈矢は額を押さえた。
「……何なんだ、あいつ。」
うるさくて。
距離が近くて。
調子を狂わされる。
それなのに。
「……来るんだろ。」
明日も。
明後日も。
あの大学生が笑いながら店に来ることを。
少しだけ、楽しみにしている自分がいた。
そして、その夜。
燈矢は夢を見る。
燃える青い炎。
崩れ落ちる瓦礫。
そして――。
「『……啓悟。』」
自分の声で、誰かの名前を呼んでいた。
「……っ!」
飛び起きた燈矢は、荒い呼吸を繰り返す。
知らない夢だった。
知らないはずなのに。
胸が、痛かった。
「……啓悟。」
ぽつりと零れた名前に。
なぜだか、泣きたくなった。
第4話へ続く
「試作品のケーキと、知らない記憶。」
ーーNEXT♡
#現パロ
コメント
1件
第3話、読み終えたよ〜!「いつもの」って言うなって拒否してたのに、試作品のケーキで明日来いって誘うの、燈矢さん不器用すぎて可愛いじゃんw啓悟が「好きな人がいました」って言うシーン、あれ絶対燈矢さん本人だよね?夢で名前呼んでたし、記憶がないだけで前世の何かがありそう…次回が待ち遠しい🔥