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硝子が割れる音と共に、何時もの『ゲーム』が始まる。
マップは軍需工場。
編成は、オフェンス、傭兵、探鉱者、機械技師。
強力なサバイバー達が駆り出されている為、ハンターである血の女王―マリーは少々面倒さを感じていた。
しかし、無駄口は叩いていられない。
「工場スポーン… なら、小屋方面にサバイバーが湧いているはず」
サバイバーの位置を予測し、小屋がある方向へマリーの能力の一つ、水鏡を出す。
「当たり。一発は入るわね」
直後。
マリーの言った通り、サバイバーに攻撃が命中した。攻撃を受けたサバイバーは、探鉱者―ノートン・キャンベル。
磁石を駆使しハンターにスタン攻撃をする能力を持つサバイバーだ。
他のハンターであれば鬱陶しく感じるであろう磁石も、スタンが一切効かない鏡像を出すマリーにとっては大した痛手でも無かった。
マリーは鏡像と入れ替わり、その後補助能力の神出鬼没でダウンを取ることに成功した。
残り暗号機は五台、サバイバー陣営は相当不利な状況だろう。
「随分と早いわね、探鉱者 ?」
風船に括り付けようと、地面にしゃがみこんだその時。
ふわり、とマリーの鼻腔に甘やかな匂いが香った。
「…げほ…ッ…か゛は゛っ…はーっ…はーっ…」
顔を覗き込むとノートンは顔を紅潮させ、荒い呼吸をしている。
彼の呼吸器が弱いことは風の噂で聞いていたが、明らかに様子がおかしい。
それにこの香り…もしかして…。
「貴方、まさかオメガ?」
「!…ちがっ…オメガ、なんかじゃ…」
「貴方から香りがプンプンするのよ…っ」
ノートンの香りにあてられて、マリーは理性の糸が切れそうになりながらも、マリーはノートンに尋ねた。
「…なぜ抑制剤を飲まなかったの?貴方の陣営には医師がいるでしょう?」
「ほかの、っ…サバイバーに、オメガだって…、知られたくなかった………また、前みたいに、襲われたくなかったんだ」
ぽつり、ぽつりと途切れ途切れに言葉を紡いでいくノートン。
体調不良のサバイバーを相手にして勝利を掴んだ所で嬉しくなんてない。
狩る者としては失格だが、一度負けた程度でそこまで勝率は下がらないだろう。
また今度勝てば良いだけだ。
そう考えたマリーはノートンに告げた。
「仕方が無いわね。今回は見逃してあげるわ。その代わり、次出会った時は覚悟なさい?Monsieur」
ノートンに言い終わると、マリーはこう叫んだ。
「「投降よ!!!!サバイバー共を脱出させなさい!!!」」
対戦後。
試合の編成に入っていたナワーブとトレイシーが会話をしていた。
「なぁ、トレイシー。」
「なに?」
「さっきの試合のハンターさ、おかしくねぇか?明らかに勝てる状況だったのに投降するなんて」
「確かに変だよねー。詳しいことは分からないけど、ノートンと何かあったんじゃない?」
「試合でハンターと直接的に関わったのはノートンだけだもんな。俺ちょっと聞いてくるわ」
タッタッタッ。
軽い足音を立て、ナワーブが向かったのはノートンの部屋。
二回ノックをして、扉越しに話しかけた。
「おーい、ノートンいるかー?お前に聞きたいことがあんだけど」
そうナワーブが問うと、扉の向こう側からボソリ、と聞き慣れたテノールが聞こえた。
「……開いてるよ」
「おっけ、入るぞ」
扉を開けると、整頓された部屋と、真っ白なベッドの上に横たわるノートンの姿があった。
「…で、聞きたい事って何?」
さっきの試合の事なんだけどさ、と前置きをして。「ハンターと何かあったのか?結構な即死だったのに投降したからさ。お前と何かあったのかと思って」
「”結構な即死”ですまないね」
明らかに不機嫌な声色と表情でノートンが返す。ナワーブは焦ったように言った。
「いや、嫌味じゃねぇって。それで何かあったのか?」
「……言っても引かない?」
「そんなヤバイことやらかしたのか?まぁ、聞くぜ」
「僕、実はオメガなんだけど。運悪くヒートが来てさ。あまりに酷い状態だったから、ハンターが情わかせたみたいで」
「お前オメガだったのかよ、なんで今まで言わなかったんだ?」
「襲われるかもしれないじゃないか……」
「あー、それでか。それにしても女王ってそんな情深い奴だったか?お前気に入られてんじゃね?」
小馬鹿にしたようにナワーブが笑う。それを聞いたノートンも笑ってこう言った。
「僕みたいな底辺階級者、あんな貴族に気に入られると思う?」
ノートンが言う通り、彼自身の階級は下の下。対してマリーはかつて、一国の女王だったのだ。
「ハハ、案外分からねぇもんだぜ。お前は顔がいいからな。俺そろそろ帰るわ、女王に礼言っとけよー」
じゃあな!と、笑顔で颯爽とナワーブが去った。
一人となったノートンはマリーにどう顔合わせをしていいのか頭を悩ませるのだった。
-ハンター館
「わたくしはどうすればいいの」
談話室全体にマリーの声が響き渡る。
「一体何があったんです?」
マリーの悲痛の叫びに返答をしたのは同じハンターであるジャック・ザ・リッパー。
「探鉱者が全くと言っていい程に心を開いてくれないのよ!」
上質なソファの上でマリーがじたばたと暴れる。
女王らしからぬ光景を目の当たりにし、リッパーが引き気味に言った。
「折角の綺麗な顔が台無しですよ、Lady」
「ねぇ、リッパー…紳士な貴方になら分かるでしょう?どうすれば想い人を落とせるのかしら?」