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アクラへの帰りは、アライアさんの魔力駆動車を使った。
「高速移動魔法を使って走るよりは遅い。でも余裕を持って景色を見ることが出来るし、食べたり話したりも出来る。同じパーティ予定だから、運賃は取らない」
そんな理由の他に、俺個人の理由として、走っている魔力駆動車の動きを確認したかったというのがある。
こういった希少な魔道具を観察出来る機会は逃したくない。
背後の理論を理解したり、場合によっては設計そのものを覚えたり出来れば、いずれ俺専用の魔力駆動車なんてのも作れるかもしれないから。
そして魔力車の中の話題のメインは、アライアさんが過去に作ったの尊厳破壊魔法について。
これはミーニャさんの、こんな言葉がきっかけだ。
「禁呪文は、アライアが作ったと聞いたのニャ。名前は忘れたけれどハゲらった魔法も、アライアが作った独自の魔法と聞いたことがあるのニャ」
「あれはエステティック脱毛魔法」
すかさずアライアさんから訂正が入る。
「そう、その魔法ニャ。ニャらそれ以外にも、アライアが作った魔法ってあるのか、知りたいニャ」
「里から出た当初は、魔法師をしていた。だからその頃は、注文を受けて魔法を作るのが仕事だった。ただ予想外の失敗が重なった上、『もれ出ずる影のさやけさ』で失敗して、魔法師を辞めた。それ以降は、自分用の魔法しか作っていない」
これ以上聞くと、何か危険な気がする。
だからちょっと聞いてみたいことがあったけれど、あえて聞かずにいたところで。
「魔法って、自分で作れるものなんですか?」
俺ではなくジョンが、そう聞いてしまった。
「作ることそのものは、割と簡単。要件を整理して定義し、必要な機能に分解し、組み立てるだけ。ただ必ずしも依頼者が要件を理解しるとは限らない。むしろ『こんなもの』というイメージだけで、具体的な要求事項がはっきりしていない場合が多い。結果、聴取した要件通りの魔法を作ったのに、望まぬ結果が生じることが多々あった」
危険な予感が、更に高まった。
ここは話を、少しずらした方がいいだろう。
ということで、個人的にもしておきたい質問で、話を逸らしてみよう。
「作る方法について、あとで教えて貰っていいですか。エルフの秘伝など言えない事でしたら、諦めますけれど」
「問題ない。とりあえずこれを渡しておく。エイダンならきっと、このあたりを読めば理解出来る」
『リーダブルコード』、『サルでも描ける魔法教室』、『Hello world!から始める魔法言語ABC』と3冊の本が出て来た。
「ありがとうございます。読んだら返します」
「ゆっくりでいい。エイダンなら読めば、すぐに理解出来る」
そこで一息ほど間をあけてから、アライアさんは続ける。
「だから魔法師として相手の説明通りの魔法を作っても、結果的に望みからかけ離れた魔法になってしまうことが多かった。ひょっとしたら、仕方ないことなのかもしれない。私はエルフで、人の心はわからないから。結局、私は魔法師をやめ、魔道具研究に道を変えた」
なるほど、アライアさんはそれで、魔道具の研究をする様になったのか。
聞き覚えがある言い訳が出たのは、とりあえず無視して。
そう思ったところで、ミーニャさんが口を開いた。
「たとえば失敗した魔法は、どんなのがあるのニャ?」
あ、まずい。
そっちの話題に行かない様に、さっきの質問をしたのに。
そう思ったのだけれど、アライアさんは特に気にした様子はなく、淡々と話し始める。
「たとえば犯罪者自白魔法。これは冒険者ギルドに頼まれたもので、依頼内容は、『言いたくない、隠したいことこそ話してしまうような魔法を作ってくれ』ということだった。だから『誰にも絶対言いたくないことこそ、話してしまう魔法』として作った。魔法名は『忍ぶることの弱りもぞする』」
アライアさんは、そこで意味ありげに言葉を切る。
「それで、どうなったニャ?」
「犯罪関係より先に、個人的に恥ずかしいと思っていたことを一方的に話してしまう魔法が出来てしまった。『冒険者になりたての頃、格好いいと思って自分やパーティにつけた二つ名』だとか、『冒険者として有名になった時のために、サインの練習をした』だとか、初恋の相手に送ったラブレターに書いた詩の全文だとか、『身体の一部が短いことにコンプレックスを抱いた結果、怪しい店で買った「3cm伸ばす商品」を使用して、あそこが腫れてしまった』だとか」
うわっ。
そう思ったところで、ミーニャさんが頷く。
「その魔法は今でも、冒険者ギルドで有効に活用されているニャ。この魔法を一度でも使われた冒険者は、二度と冒険者ギルドに舐めた口をきけなくなるのニャ。でも確かこの魔法、『黒歴史魔法』と私は聞いているのニャ」
「元は私が作った自白魔法、正式名は『忍ぶることの弱りもぞする』」
確かに黒歴史を知られた相手には、逆らいにくくなるだろう。
万が一バラされた際、ダメージが大きすぎる。
「あとは『怪しく露と消えかへりつる』。これも冒険者ギルドの犯罪捜査のために作った魔法。本来は、隠している武器や危険物を出させるための魔法だった。だから『隠したいものを出す』魔法として作った。その結果、全部脱いで裸踊りをする魔法が出来てしまった」
「それも、冒険者ギルドや衛士庁で使われている魔法ニャ。魔法を発動するだけで身体検査が簡単に出来て便利ニャ。場合によっては、見たくないモノをブラブラさせた被疑者を見ることになるけれど。でもアレは確か、『全裸体操第一』とか、『びっくりするほどユートピア』と呼ばれていたニャ」
「元は私の作った『怪しく露と消えかへりつる』」
こうやって聞くと、アライアさんも酷いけれど、冒険者ギルドも大概という気がする。
それともこの世界では、これが普通というか、問題ないのだろうか。
「他には緊張緩和魔法『光のどけき春の日に』もある。緊張を緩和しすぎて、必ず失禁する魔法になってしまった。更に……」
うーん……
聞いていて、やっぱり思ってしまう。
やっぱりアライアさん、尊厳破壊系の魔法が多い気がすると。
もちろん失敗した魔法の話だけを聞いているから、そう感じるのかもしれないけれど。
大丈夫なのだろうか、この先。
魔法を作って戦うなんてことは無いだろうから、大丈夫なのだろうか。
それとも……
(このお話で、一度休載にします。以降の再開予定は未定です)
コメント
1件
あー、これ面白かったわww アライアさんの失敗魔法、どれもこれも「依頼通りの要件」で作った結果が全部尊厳破壊系になってるの、笑いすぎてしんどい。「黒歴史魔法」も「全裸体操第一」も、ギルドがガチ活用してるのがまたヤバい。 エイダンが「大丈夫なのかこの先」って思ってるの、めっちゃわかるわ。エルフに人の心はわからないってアライアさん自身が言っちゃってるしな…笑。でもこういうほのぼの回すき。続き、心待ちにしてる🔥