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ツンっと鼻に香る酒と、つまみに食べた、胃がもたれそうなほどに油っこい唐揚げの匂い。頭がふわふわして、体が今にも空に浮いてしまいそうな、嫌な浮遊感をおぼえる。
あぁ、飲みすぎたか。瞬時に理解した。
今日は確かえーっと、蘭が奢るという条件で珍しく2人っきりで飲みに行って⋯。1件、2件ハシゴして、それから⋯、、、記憶にない⋯。
まぁ、多分、きっとそれで楽しくなって散々飲んじまったんだろう。
はぁ、と心の中で深いため息をつく。
明日は絶対二日酔いだ。外の仕事も入ってるってのによ⋯。
くっそ、元はと言えば蘭があまりにも度数の高い美味しい日本酒やワインを薦めてきたのが悪いんだ。
なんて言い訳をしながら、周りを見渡すため重い瞼を開こうとする。
あぁ、重くて開かない。開こうとしているはずなのにピクリとも動かない。
ぎし、
その瞬間、ベッドが沈む。
「春千夜⋯」
あ?、蘭か、
返事をしようにも、自身の喉から出るのはカスッカスの空気だけだ。
あぁ、最悪、ほんとに飲みすぎた。全然声が出ねぇ。まぁ、少ししたら回復すんだろ。そんなことを考えながら何とか瞼をあげようと奮闘する。
「好き⋯大好き⋯」
⋯は?
目を開こうと入れた力が一瞬にして抜けていく。
今、こいつ好きって、⋯
「⋯ほんと、寝顔可愛いすぎ⋯」
いや、いやいやいや、
ちょ、ちょっと待て、
「かーわい⋯」
なでなで
は?、いや、え、な、
「あーくっそ、本命に手ぇ出せねーとか、俺ヘタレすぎんだけど⋯、」
本命って、⋯いやいやいや、え、?
蘭「はぁ、寝れる気しねー⋯。」
パタン
あいつが部屋を出ていったことを確認して、飛び起きる。
春千夜「⋯っ、は、はぁぁ?!」
なるべくあいつに聞こえないような声量で今の気持ちを口に出した。
い、今、の、なんだよ、あれ、あいつ、俺の事、す、好きって⋯⋯
いや、いやいやいやいや、ないないないない、あの灰谷蘭だぞ?!
男も女も老若男女問わず取っかえ引っ変えで、何よりあの美貌をもつあいつが
年下で、しかも上司で、男で、
犬猿の仲だって言われてる俺を好きになる?
そんなわけねーだろ!
あぁ、きっと幻聴だったんだ、あれは、そうだ、うん、きっとそうだ。と何度も自分に言い聞かせる。
『好き⋯大好き』
春千夜「⋯⋯」
春千夜「⋯ぁー、くそ⋯、//」
あいつに撫でられた箇所から、緩やかな熱がじわじわと広がっていく。好き、そう放ったあいつの言葉が、声色が、心の奥の奥に甘く広がって染み渡る。
熱くて、甘くて、甘すぎて。胸の中がその甘さに侵食されていきそうで。ごびりついてはなれない。
頭に広がった、甘い熱を外に逃がすようにくしゃくしゃと掻き毟る。そうでもしないと、この熱さが身体中に広がって、手遅れになりそうだった。
春千夜「⋯、」
春千夜「あ”ー、⋯」
春千夜「最悪だ⋯⋯、」
あまりにもありえないこの状況に鼓動が早まるのが感じられる。
春千夜「この後、どんな顔して会えばいいってんだよ⋯。」
その後は結局、蘭と顔を合わせることなく、蘭の家を出て、そのまま家へ直行した。
急いで帰ったせいか、家に着いた時、体が熱くて心臓がいつもより早く、どくどくと脈を打っていた。
あぁ、つくづく嫌になる。
春千夜「⋯⋯はぁ、」
こんなこと、知りたく、無かった……。
俺より年齢の高い、細身のそこそこ顔のいい男。
金も持ってて、高身長で、そのくせ、『カリスマ』という名前を己のままにする。
こんな奴に告られたら、誰だって好きになる。虜になる。居ても立ってもいられなくなって、すぐYesと返事するだろう。
けれど、俺は違う。あいつの期待には、応えられない。
あいつが何を言っても、何をしても、俺らの関係は変わらない。いや、変われない。俺とあいつは部下と上司でしかなくて、それ以上でも、それ以下でもない。ただ、それだけなんだ。
春千夜「ああぁ”‘ーー」
ドンっ、
思わずマンションの壁にこのもやもやとした晴れない気持ちをぶつける。
春千夜「⋯なんで、俺なんだよ⋯、」
今も聞こえる、高ぶった鼓動が鬱陶しくて仕方がなかった。
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読んでくれてありがとうございます🙇♀️
次のお話も楽しみにしててくださると嬉しいです✨
コメント
6件
はうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ、、、、、蘭春最高だよぉぉぉっ春ちゃんが照れてるとこ尊すぎて死んでまう、、、やだ、好き☆
天才を見つけてしまった…🤦♀️ フォロー失礼します!