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昼食後、再び図書室に戻って本探し。
神器に関する別の本は無いかと調べたものの、他に見つけることはできなかった。
「人生、そんなに甘くはないか……」
そんなことをつぶやきながら、先日見かけた王立図書館のことを何となく思い出す。
私は入ることが出来ないけど、時間があったらエミリアさんに調べてもらうのも良いかな?
でも、本の貸し出しはしていないんだよね。
全部覚えてきてもらうわけにもいかないし、それはそれで上手くいかなさそうだ。
もしかして、錬金術師ギルドで活躍したら……図書館の資格も、もらえたりはしないかな?
自分で王立図書館の資格を取れるのであれば、それが一番手っ取り早そうだ。
それなら、まずは何か動こう。動かないと、何も始まらないからね。
「それじゃ図書室はこれくらいにして、ダグラスさんと少しお話してこようかな。
S-ランク以上の特別な依頼もあるっていうし……」
私は図書室を出て、錬金術師ギルドの受付に戻ることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アイナさああああん! お疲れ様ですうううう!」
とりあえず声を掛けて来たのは、テレーゼさんだった。
だから、恥ずかしいから大声で呼ぶのは止めてください。
「テレーゼさんもお疲れ様です。
ダグラスさんはいますか? 依頼の件でお話をしたいんですけど」
「あ、それなら私がご案内しますね!」
そう言いながら、テレーゼさんは資料を手に取り始めた。
「ダグラスさーん、いらっしゃいますかー!?」
「ちょ、アイナさん!?」
私の呼び掛けに、ダグラスさんが奥から出て来た。
「お、アイナさん。またテレーゼが何かやったか?」
「やってませんよ、ねぇ……?」
私はにっこり微笑みながらテレーゼさんに尋ねる。
「も、もちろんですよ……。
主任、アイナさんが依頼の話をしたいと……。はい、これ資料です……」
「おお、準備が良いな。ありがとう、テレーゼ」
「いえいえ……」
ダグラスさんはテレーゼさんから資料を受け取ると、満足そうに頷いた。
テレーゼさんから仕事を受けたら、本来とは違うルートで仕事を受けることになるから――
……仕事は仕事、それ以外はそれ以外で、しっかり区別をしていかないとね。
「さて、それじゃ向こうの席に行こうか」
「あ、私も行きますね!」
「テレーゼは来る必要ないぞ?」
「でも、本来は私の仕事ですし!」
「今は俺の仕事だから大丈夫だぞ?」
「くぅ~……っ」
テレーゼさん、あえなく撃沈。
「ささ。アイナさん、向こうにどうぞ」
「はーい」
うなだれるテレーゼさんを受付に残して、私たちは隅にあるスペースに移動した。
……小さなテーブルを囲む、2人用の席。
テーブルの上には先ほどの資料が置かれて、ダグラスさんと向かい合って話が始まる。
「依頼の件だが、アイナさんにはS-ランク以上のものを受けてもらいたいんだ」
「掲示板に貼られているのは、全部A+以下の依頼なんですか?」
遠くの掲示板を見てみれば、びっしりと依頼票が貼られている。
そしてその前では、たくさんの人たちがそれを眺めている。
……そういえばあの人たち、錬金術師なんだよね?
ふとそんなことを思うと、何だか嬉しくなってしまう。
王都に来るまでは、錬金術師には1人としか会ったことがなかったから。
「掲示板の依頼は、B+ランク以下のものだな。
A-からA+の依頼も、個別に案内をしているんだ」
「なるほど。B+以下を受けるなら掲示板、ですね」
「そうだな、あまり簡単なのは受けてもらいたくはないけど……。
さて、テレーゼが準備しておいてくれたのは……ファーマシー錬金とアーティファクト錬金の依頼か。
……うん? パプラップ博士の依頼も入っているな……」
パプラップ博士……?
ああ、バイオロジー錬金でププピップの豚を研究してる人だっけ。
「今日のお昼に食堂に行って、テレーゼさんとその話をしたので……。それ繋がりでしょうか」
「おお、アイナさんも食べたのか? あの肉、うめぇよなぁ……」
「そうですね、とても美味しかったです。
やっぱり、それ関係の依頼ですか?」
「ああ、良質のエサをたくさん使いたいらしいな。
今回は『高栄養飼料』の作成だな。素材と作り方は提供してくれるそうだけど、これは難しそうだ」
「そうなんですか?」
「素材が劣化しやすいものだし、発酵の手順もあるから……温度管理や湿度管理が大変だな。
それに時間も1か月くらい掛かるみたいだし……」
「それって、失敗したらどうなるんですか? 提供してもらった素材は弁償……?」
「弁償の必要は無くて、報酬は成功報酬になっているな。
S-ランク以上の依頼だと、こういう条件も結構多いぞ」
「でも、本人がやらないくらいには手間なんですよね……」
「ま、そういうことだな。
自分がやるには時間が無いし、他人がやるには難しいし……といった感じか」
でもそれ、私としては何の問題も無いよね。
素材は全部もらえるし、作る工程は全部すっ飛ばせるし。
「それでは、まずそれを受けましょう」
「え? 詳しく見てないけど大丈夫か? 依頼に失敗すると、信用が落ちるぞ?」
「得意な感じだと思うので、きっと大丈夫です!」
「ふむ、それならお願いするか……」
「他には何がありますか?」
「あまり受けすぎても、大変になると思うぞ?
『高栄養飼料』は時間も掛かるそうだし……その合間ということなら、これはどうだろう」
「これは……アーティファクト錬金ですか」
……思い出のアクセサリに、出来るだけ良い錬金効果と追加効果を付けたい……という依頼だ。
こういう場合の『出来るだけ』っていうのは結構な曲者なんだけど、私は問答無用で最大値を付けられるから問題ないよね。
「これも受けましょう。まだいけます!」
「……凄いな。でも最初っていうこともあるし、あと1つにしておこうか。
アイナさんの実力はこの前見せてもらってはいるが、依頼の実績はまだゼロだからな」
「そうですね、確かに。これからどんどん、信用を築いていきますよ!」
「ああ、是非そうしてくれ。
それじゃバイオロジー錬金と、アーティファクト錬金ときたから……最後はファーマシー錬金にするか。
一気に3分野の依頼をこなせば、注目度も上がるはずだしな」
「売り込み上手ですね!」
「使えるものは何でも使うさ!」
「ぶっちゃけすぎ! でも、嫌いじゃないですよ」
「ははは、アイナさんはそういうタイプだと思ったからな」
……確かに、私ははっきり言う人は嫌いじゃない。
その分、表と裏がある人は苦手なんだけど。
「この中で言うと、そうだなぁ……。それじゃ、これはどうだろう」
「えぇっと、これは――」
ハゲ薬。
「――出来なくはないですが、今回はパスで」
「む、そうか……。……え? 作れはするの?」
「何回か作ったことはありますけど、今はちょっと……そう、素材が難しいので!」
もちろん、嘘である。
今回パスしたのは、先日ジェラードから『育毛剤はあまり売らない方が良い』と言われていたからだ。
報酬もそんなに高くはないし、受ける理由が見当たらない。
「素材があればできるのか……?
ちなみに効果はどんな感じだった?」
「寂しい感じの頭に使ったら、ふっさふっさふっさふっさになってましたね」
「ふっさふっさふっさふっさ……。
な、なぁ……。それ、作ってもらうわけにいかないかな……。
今回の報酬は安いけど、この手の依頼ってずっとあるんだよ……」
「でも、際限ないですよね?」
「ま、まぁそうだな。ハゲは1人じゃないからな……」
それじゃ、ひとまずは却下。
やるならやるで、ジェラードと慎重に相談しないとね。
「作れるようになったらお伝えしますね。今回は別のものでお願いします」
「わ、分かった……。
それ以外だと……『目覚めの粉』、『全状態異常治癒ポーション』、『抗菌薬<8172型>』あたりかな」
……ん? 『抗菌薬<8172型>』って、確かガルーナ村で作ったやつだよね。
「それでは『抗菌薬<8172型>』を受けます。
っていうか、今持ってますね」
「な、なんでそんなものをピンポイントで持ってるんだ……?」
「少し前にガルーナ村――
……鉱山都市ミラエルツの北にある村なんですが、そこで作ったものが残っていまして」
「あ……!?
疫病の村を救ったのって、もしかしてアイナさんのこと!?」
「え? あれ、伝わってましたか?」
「そりゃもちろんさ! 凄腕の錬金術師が200人以上の村人を救ったって!
なるほど、それなら持っていても不思議は無いか!」
ダグラスさんからひとしきり感心されたあと、結局『抗菌薬<8172型>』の依頼を受けて、即座に納品することになった。
他の2件は持ち帰ることになったので、受付のテレーゼさんに手続きをお願いすることに。
私がパプラップ博士の依頼を受けたことについては、テレーゼさんは何故か満足している様子だった。
……さて。
用事も済んだことだし、今日のところはもう帰ろうかな?