「コンティレクト神がどんな策を講じてくるかは分からない。20日後……いや、もう4日経ってるから16日後か。俺は神々の集いにもう一度参加することになっている。自分が行って何かできるわけでもないけれど、しっかりと見届けてくるよ」
レオンの口から語られたリオラド神殿での出来事。3人の神様のこと……魔法のこと。どれもすんなりと頭の中に収めるには刺激が強過ぎた。
特に人間を食べてしまうというシエルレクト様の話。前にルーイ様から魔法の成り立ちや使い方を聞いた時、シエルレクト様のことは全くと言っていいほど教えてはもらえなかった。もしかしてルーイ様は面倒臭がっていたのではなく、話すことを意図的に避けていたのかもしれない。
私は途方に暮れたかのようにぼんやりとレオンを見つめ、彼の言葉におざなりに頷いた。そんな状態の私に気付いたレオンは、もどかしそうに自身の頭を掻く。
「一度に話し過ぎちゃったね。今日はこれでおしまいにしよう。ミシェルは……隣か。呼んでくるからちょっと待ってて」
机の上にある置き時計を見ると、いつの間にか2時間近く経過していた。時間を忘れるほどレオンの話にのめり込んでいた。ミシェルさんは1時間後に迎えにくると言っていたのに来なかったな。会話に集中していた私達に気を使ったのだろうか。
椅子から腰を上げて部屋を出ていこうとするレオン。咄嗟に彼の上着の裾を掴んで引き止めてしまう。
「どうしたの?」
「私もレオンと一緒に行っちゃ駄目ですか?」
「どこに……ミシェルの所?」
「違います。神殿……リオラドに」
紫色の瞳が驚きで丸くなった。だって、嫌なんだ。もしまた彼が倒れたら……何かされたらと思うだけで、胸が張り裂けてしまいそう。
どうしてコンティレクト様はレオンに集まりに参加するよう命じたのだろうか。彼の魔力を持って行った理由は? 考えても仕方のないことだけれど不安でたまらない。指先に力が籠る。彼の側から離れたくなかった。裾を掴んだまま離さない私の手の上に、レオンはゆっくりと自分の手を重ねて握りしめた。そして、言い聞かせるように静かに語りかける。
「ごめん、それは出来ない」
「……規則だから?」
「それもあるけど、神殿にはメーアレクト様の力が及んでいて許可された者しか立ち入れない仕組みになっているんだ」
強引に付いて行ったとしても、神殿に向かう途中の橋手前で弾かれてしまうのだそうだ。王族以外で入ることが許されているのはセドリックさんだけなんだって。
「セドリックはかなり特殊なケースだから。でも、そのセドリックも神達の集まりには来るなと言われてる。本当なら俺だって同席できるような立場ではないのだけど、ルーイ先生の口添えのお陰で今回は特別」
神殿に近付くことさえ出来ないのか。一緒に行くのは無理だと分かり落胆した。更に畳み掛けるように、私を連れて行く気は無いと、レオンはきっぱりと断言した。
レオンひとりいるだけでもシエルレクト様は相当に気分を害したらしく、神の逆鱗に触れるような行いは極力避けたいのだそうだ。ルーイ様からも刺激するなと忠告を受けているらしい。安易について行くなんて言ってしまったけれど……私がひっついていたら、レオンの立場を悪くするかもしれないという可能性に思い至らなかった。
「ごめんなさい。私、神様達がどう思うかなんて考えずに……」
「俺を心配してくれたんだよね、大丈夫だよ。コンティレクト神は危険なことは無いって言っていたし、次も先生が同行してくれるそうだからね。それでも精神的にキツいってのはどうにもならないけどさ。想像してごらん……神達に囲まれ、身の置き場がなくて縮こまってる俺を。あの空気、すっげー気ぃ使うんだから」
「それは……そうでしょうね」
「だろ? そんな息の詰まる所に無理に行くことないよ。だからクレハはお留守番。良い子で俺の帰りを待っていて下さい」
「はい……」
「それじゃ、ミシェルを呼んで来るね」
よしよしと頭を撫でられた。私は握りしめていた彼の服から手を離す。力いっぱい握っていたので、その部分が少し皺になってしまう。レオンは気にしなくていいからと、そのまま部屋を後にした。
神様達の話し合いに入り込もうだなんて、身の程知らずもいいところだ。もし、私がいたら余計にレオンの負担になってしまう。ルーイ様にだって迷惑をかけられない。私にはコンティレクト様の言葉を信じて、彼の無事を祈ることしか出来ないのだった。
「お話、ずいぶん盛り上がってたみたいですね。それで、クレハ様。殿下はどちらがお好きでした?」
「え?」
部屋に入って来て早々、ミシェルさんは私に言い放った。何の話だっけ……
「ミシェル、お前俺の好みを捏造したらしいな。母上もそうだけど、クレハで遊ぶんじゃないよ」
「えっ!! 殿下ったら、こんなに可愛らしいクレハ様がお気に召さなかったんですか!? 嘘でしょ!!?」
「そうじゃない。自分の欲を満たす為に、適当な事を並べ立てるなと言っている」
「酷い……殿下を喜ばせてあげようと思ってしたことですのに。そりゃ、私の意向も多分に含まれていますけれども……でも、殿下だって嫌いじゃないでしょう? ふわふわレース!!」
「そこは否定しねーけどさ……。泣き真似やめろ!!」
やっぱり否定はしないんだ……。ミシェルさんは泣いているような仕草をしながら床に座り込んでいる。ほんと面白い人だな。
あまり気は進まないけど、レオンが好きならたまに着ても良いかも……ひらひらでふわふわな可愛い服。そうだ、思い出した。レオンの好みの髪型を本人に直接聞いてみようって話だったんだ。ミシェルさんと約束をしてたのに、すっかり忘れていた。
「あっ! あの、レオン。私あなたに聞きたいことがあったんですけど……」
今まで黙ってふたりのやり取りを眺めていた私が、突然割り込んできたので、レオンとミシェルさんは言い合いをやめて私の方へ注目する。
「レオンは……髪の毛、長いのと短いの……どちらが好きですか?」
「かみのけ?」
よほど虚をつかれたのか、さっき私が神殿に行きたいと言い出した時と同じくらい、彼の瞳はまん丸に見開かれていた。
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