TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
シェアするシェアする
報告する

「俺はクレハがどんな髪型でも可愛いと思うよ。今してる編み込みも似合ってるし」

「いやいや、殿下……そうじゃないんですよ。可愛いのは分かってますって。私達が聞きたいのは殿下がロングとショート、どっちがタイプかって事なんですよ。せっかくクレハ様がより殿下好みにご自身を磨こうとなさっているんですから、ちゃんと答えてあげて下さい。何でも良いは無しですよ」

ミシェルさん……そんなはっきり言わなくても。質問したのは自分だけど、だんだん恥ずかしくなってきた。レオンは口元に指を這わせ、考えるような仕草をしたのち私の名前を呼ぶ。

「クレハ」

「はい……」

「服装に続いて髪まで……俺のためにっていうのは嬉しいんだけど、ミシェルにつられて無理してない? そんな一度に色々変える必要無いんだよ。前に言ったよね、俺はそのままの君が好きなんだって」

強引に誘導するような真似をするなと、レオンは再びミシェルさんに注意をした。彼女の勢いに乗せられてしまったというのは否定出来ないけれど、それはあくまできっかけでしかない。私はレオンの喜ぶ顔が見たくて、彼の好みが知りたいと思った。それは決して無理をしているわけではなく、自分自身で望んだこと。

「でも、ロングヘアーのクレハか……それはもう壮絶に可愛いだろうね。本音を言うと見たいの一択」

「殿下……せっかく良い感じのこと仰ってたのに、すぐさま台無しにしましたね。欲望に抗えてないじゃないですか。私をとやかく言えないですよ」

「うるさいな。こっちはクレハが慣れないお洒落をしようとしてるって事実に改めて打ち震えてんだよ。しかも俺のために! 分かるだろ、感動してんの!! 無理強いはしたくないけど嘘は吐けねーよ。見たいに決まってる」

「ぶっちゃけましたねぇ……素直なのは良いことですよ。私もクレハ様にたくさん可愛いお洋服着て頂きたいですし、髪型だって色々いじりたいです」

「お前は欲に忠実過ぎだろ……」

えっと……これは伸ばした方がいいってことなのかな。髪型ひとつでここまで盛り上がるとは思わなかった。でも、髪の長さで人の印象ってかなり変わるものね。ルーイ様の髪が短くなっていたのもびっくりしたし。長い髪を乱雑に後ろで縛っていた姿は色っぽくて素敵だったけれど、今の短い髪もさっぱりと爽やかで格好良い。ルーイ様とは反対に自分は伸ばすことになりそうだな……

「クレハ様どうでしょうか……私もつい興奮して、強引過ぎたことを反省しております。しかし、殿下もこう仰ってますしロングヘアーに挑戦してみては?」

「クレハ、あの……さっきはそのままで良いって言った癖にって思うだろうけどさ。色んな君を見てみたいって気持ちも俺にはあって……髪型もそのひとつで、クレハが嫌じゃないなら……」

『長い髪にしてみてほしい』と、妙に畏まって話すレオンが可笑しかった。真剣な眼差しをしている彼には悪いけれど、つい笑みがこぼれそうになってしまう。

お洒落なんて全く興味無かったのになぁ……。きっと私はこれからも彼の影響で少しずつ変わっていくのだろう。それをどこか感慨深く感じなから、私は『はい』と頷いた。







「殿下、嬉しそうでしたねー。やっぱり殿下の喜ぶお見舞いはクレハ様です」

「えっと……元気そうで良かったです。たくさんお話し出来ました」

予定より随分と長くなってしまった『お見舞い』を終え、私とミシェルさんはレオンの部屋からお暇した。向かう時は緊張していたので、ぎこちなかった足取りも今は軽い。元気なレオンの姿を見て安心したのもあるけれど。私はのんびりと自室へ向かって歩きだした。

「明日のお見舞いにはどんなお洋服を着て行きましょうか。私のおすすめはもちろんですが、王妃殿下からのリクエストもたくさんあるんですよ」

「明日も行くんですか? 一応レオンは療養中なんだから、連日押しかけるのは迷惑じゃ……」

「もうっ! クレハ様ったら……迷惑なはずないじゃないですか。むしろ1番のお薬ですよ」

ミシェルさんはうきうきとスキップでもしそうなほどにご機嫌だ。お見舞いという名目が無くても毎日行っても良いくらいだって。それは……遠慮したいかも。質素だったとはいえ、王子様の私室なんて落ち着かないし……レオンの方からも会いに来てくれてるわけだしね。

ふたりで雑談をしながら歩いていると、数メートルほど先……自室の扉が見える廊下に差し掛かった所で、男性の兵士さんが立っているのが分かった。腕組みをしながら部屋の前で行ったり来たりを繰り返している。その様子に警戒したミシェルさんが、私を庇うように背後に下がらせる。向こうもこちらの存在に気付いたようで足を止めた。互いの視線が絡み合い、緊迫した空気が流れ――

「あっ! クライヴさん」

「クレハ様……!!」

流れ……なかった。部屋の前にいたのは王宮警備隊三番隊隊長、クライヴ・アークライトさんだったのだ。

「あらら、クライヴさんじゃないの。どうしたの? クレハ様のお部屋の前でうろうろしちゃって……」

「ミシェル……そうか、今日は君がクレハ様に付いてるんだな」

「兄弟は町に行ってるからね。もうじき戻って来ると思うよ。何、あいつらに用事?」

「いや、クレハ様に……。不在のようだったので出直そうかと迷っていた所だったんだ」

「私にですか?」

クライヴさんは私の目の前までやってくると、その場で膝を折って跪いた。

「クレハ様、本当にご無事で良かった。再びお元気な姿を拝見出来たこと祝着至極に存じます」

「クライヴさん……」

彼は釣り堀で襲われた私の事がずっと気がかりだったそうだ。無傷という報告を受けてはいたけれど、それでも心配で何度も様子を見に来てくれようとしてたんだって。

「もっと早くに伺うつもりだったのですが、なかなか上手くいかず……更にはレオン殿下までお倒れになったというじゃないですか。ここ数日は生きた心地がしませんでした」

釣り堀のことやシエルレクト様のことがあって、警備隊の人達は忙しいだろうに。しかも隊長であるクライヴさんなんて尚更だ。それなのに私のために時間を作って会いに来てくれたのか……

「クライヴさん、私は大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」

彼と目線を合わせるために、私もその場にしゃがみ込む。クライヴさんの手を取り、感謝の意を伝えた。

その後は、彼も一緒に室内へと移動した。ずっと廊下にいるのは目立っちゃうしね。クライヴさんともちょっとだけお話しをすることになったので、以前彼が教えてくれようとしていた、ストラ湖の怪物『ミレーヌ』に実際に遭遇した時のことなどを報告しておこうかな。

loading

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚