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次の日、会社に行くのが少し怖かった。 あいつが、いるから。
けど逃げる理由もなくて、
結局いつも通り出社した。
デスクに座ってパソコンを開く。
「おはよう」
背後から声がして、肩がびくっと揺れた。
振り向くと、
いつも通り穏やかな顔。
何も知らない人が見たら、
ただの優しい同期だ。
「顔色悪いよ。寝れてない?」
そう言いながら、
机の上にコーヒーが置かれる。
……頼んでない。
「砂糖少なめのやつ。好きでしょ」
喉が詰まる。
なんで知ってる。
昨日のことを思い出して、
胸の奥がじわっと冷える。
「……なんでそこまで知ってんの」
思い切って聞くと、
あいつは少しだけ困った顔をした。
「だって、知りたいから」
あまりにも真っ直ぐで、
言葉が返せない。
「君のことなら、なんでも知りたい」
その声は優しいのに、
逃げ道を塞ぐみたいに静かだった。
沈黙に耐えられなくて、
俺は無理やり笑った。
「重いって笑、それ」
冗談のつもりだった。
でも次の瞬間、
あいつの手が俺の手首を軽く掴んだ。
「重い?」
声が低い。
心臓が跳ねる。
「でも君、昨日帰ったあと、
五分くらい窓のとこ立ってたよね」
息が止まる。
「誰かいるか確認してた?」
ゆっくりと、
逃げ場のない視線が絡んでくる。
「安心していいよ」
指先が、手首をなぞる。
「ちゃんと見守ってるから」
——逃げなきゃ。
そう思ったのに。
その手は強くないのに、
どうしてか振りほどけなかった。
むしろ。
離されたら、少し不安になる気がした。
そんな自分に気づいて、
背筋がぞくっとした。