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彼の首元から垂れたネクタイが私の顔を撫でさすり、不意の体勢に身じろぎもできずに見つめ合う。
ややして、つと離れようとする彼のネクタイを、片手で引き、
「このままで、いて……」
耳元ヘ小さく呼びかけると、彼はもう離れようとはせずに、ネクタイを掴む私の指をゆっくりと解くと、自らそれを解いた。
スーツの袖が抜かれ、ワイシャツの胸がはだけられる。
彼の一つ一つの仕草から目を離せずにいると、掛けられた手で私の着ている服がくつろげられた。
「……ん」
胸元の下着が露わになると、ためらいがちにふと彼が手を止める。
「やめないで……。いいから……」
誘うように、彼の手を左胸に押し当てる。
「……あなたとこうしてると、こんなにもドキドキとしていて……」
彼に伝わっていることを思うと、よけいに心音が高ぶる。
「私も、同じだ……。君といると、こんなにも心臓が高鳴る……」
彼の胸に手の平が差し伸ばされると、触れ合った肌から高まる鼓動を感じ取れた。
そうして互いの想いを感じ合うと、どちらからともなく求めるままに抱き合った。
曝け出された素肌に、身が焦がれるような口づけが、幾度となく落とされる。
胸を、腰を、腿を撫でる手に、足先から痺れるような感覚が押し上げる。
「……辛くはないか?」
耳元に付けられた唇で囁きかけられて、黙って首を横に振る。
……その刹那、腰がぐっと引き寄せられ、自分自身の声とも思えないような喘ぎが、「あっ……ん」と、喉を堪らずにほとばしり出た。
掻き抱かれる腕の熱さに、身体がじんと火照る。
くり返し波のように押し寄せる熱感を分け合い、共に昇りつめても尚も、しばらくは肌を重ねたままでいた。
「……本当は、耐えるつもりでもいたんだ」
「……耐える、って?」
不意に口を開き、そう切り出した彼に、何のことだろうと問い返す。
「ホテルの時もそうだったように、すぐには君を求めるつもりはなかった……」
纏わりつく余熱を冷ますように、薄く艶めいた唇が掠めるように触れる。
「……大切に思ってくれていたのなら、うれしい……。だけど……、」
真上から私を見下ろす眼差しを、じっと捕らえる。
「……こうして確かめ合える、信愛もあるから。あなたに、それをわかってもらえたらって……」
「ああ……」と、彼がため息ともつかない声をこぼす。
「……。……私は、どうやら相手を思うふりで、実は相手の思いを汲むこともなく、ずっとないがしろにしていたのかもしれないな……」
私自身は思うがままの本心を伝えたのに過ぎなかったけれど、彼は何かしらの真意に辿り着いたらしかった。