春。大学のキャンパスには、桜の花びらが舞っていた。
高校を卒業し、それぞれ別の大学に進学した紗季と葵は、今は同じ街で一人暮らしをしている。大学は違っても、週に何度かは一緒に夕飯を食べたり、休みの日に待ち合わせて出かけたり。そんな日々が続いていた。
だけど――高校の頃とは少し違う“距離感”に、紗季は気づき始めていた。
***
「ねぇ、紗季。今度の土曜、久しぶりにあの海行かない?」
授業帰りのファミレス。ハンバーグをつつきながら、葵がふいに言った。
「えっ、海って、あの……冬に行ったとこ?」
「うん。あのとき、寒くて全然ゆっくりできなかったからさ。今度は、ちゃんと話したいなって」
「話す……?」
「うん。いろいろ、ね」
その目はまっすぐで、でもどこか少し不安げだった。
土曜日。ふたりは電車に揺られて、海辺の町へ向かった。駅を降りると、海風が髪を揺らし、潮の香りが懐かしく胸にしみた。
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