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湊の裏切りが発覚する前から、私は寂しくて仕方なかった。


一緒に住んでいても、湊との距離が遠く感じて。


触れ合いが無く、私から近寄っても拒否されるばかりの日々は悲しかった。


でも悲しくても寂しくても他の人と抱き合いたいなんて思わなかった。


私は湊じゃなきゃ駄目だって思っていたし、湊に触れたいのは性欲より気持ちの問題なんだって信じてたから。



それなのに……。



ボンヤリと覚醒しきれない意識の中、身体中が凄く気持ちいいと感じてた。


人肌の温かさにホッとして。

強く抱き締められると、涙が出そうになった。


ああ、私はこうやって抱き締めて貰いたかったんだって実感した。


どうしてこんなことになってるのか分からないけど……相手は湊じゃないって分かってるけど、信じられないことに安心したのだ。


触れて来る手が優しかったからかもしれない。


久しぶりの人肌が恋しかっただけかもしれない。


このまま、この夢の様な温もりの中に居たくて――。



だからと言って、この状況は有り得ない。


キングサイズのベッドの隣には、上半身裸の藤原雪斗がいるなんて!


目を閉じて眠る姿は、普段オフィスでは決して見られない姿だ。


きりりとした眉、すっと通った高い鼻に形よい唇。男らしい広い肩に逞しい胸。


掛け布団で隠された下は……恐くて見る勇気が無い。


一気に現実に戻り、私は慌てて周囲を見回した。


ベッド下には、散乱した服。


この状況……どう考えても藤原雪斗としてしまったみたいだ。


何でこんな事に?


昨夜は成美も一緒に、三人で飲んでたはずなのに。


それに藤原雪斗は社内の女に手を出さないはずじゃ……。


私は頭を抱えて混乱していたけれど、とにかく服を着ようとベッドから降りようとした。


ところが、突然腕が伸びて来て、抵抗する間も無くベッドに戻される。


「きゃあ! な、何?」


思わず悲鳴を上げると藤原雪斗はようやく目を開いた。


「あ……起きたのか」


眠そうなボンヤリとした目をしながら言う。


片肘をついて身体をゆっくり起す姿は異様に色気が有って、目のやり場に困る。


「大丈夫か?」


「だ、大丈夫って何が?」


「二日酔いなんじゃないか?」


心配するところ違くない?


この状況でどうして普通に話しかけられるの?


唖然とする私に、藤原雪斗は全く動揺を見せずに言う。


「宮本ならちゃんと家まで送ったから大丈夫」


「そ、それは良かったけど……」


「何?」


「何って……何でこんな事態になっているのかと」


お互い殆ど裸でベッドに居て何も無かったとは思えない。


昨日の夢の記憶も、感覚付きで有るし。


でもはっきりとは言い辛くて曖昧に言う。


それなのに、


「お前が誘ったからだろ? 断ったら恥をかかせると思ったから応じた」


あっさり衝撃的な台詞を告げられた。


「私から誘ったって……まさかそんなこと有る訳が……だって私藤原さんのこと好きじゃ無いし」


「寂しいって泣いて抱きついて来たんだろ? それから藤原さんとか今更だけど。昨日は散々藤原雪斗って呼び捨てだったからな」


「う、うそでしょ?」


確かに心の中では藤原雪斗って呼んでたけど本人に言う訳無い。


それに私は寂しいからって他の男に頼ったり慰めて欲しいって思うタイプじゃない。


「いくら湊に振られたばっかりだって私はそんなダラシナイことしません」


はっきり言うと、藤原雪斗は、ハアと溜息を吐いた。


「俺は昨夜のお前の言葉の方が本音だと思うけど」


「そんな訳……」


「それに悪いこととも思わない、辛い時に何かに縋りたいって思うのはおかしなことじゃないしな」


「でも……」


「彼氏とも別れてるんだし、別に誰も傷付けてないだろ?」


そうだけど……でもこんな行動に出た自分が信じられない。


もう大人だし、恋人も居ない自由な身なんだから、一夜限りの関係が有ってもいいのかもしれない。


ただ相手が藤原雪斗というのが、がショックだった。


変な気を遣わないで断ってくれたら良かったのに。


これからも一緒に働いていかなくちゃいけないのに、どうすればいいんだろう。


藤原雪斗は自然で変わったところは無いけど、私は気になる。


夢の様な記憶は幸せで……気持ち良くて……今も微かに身体に感覚が残ってる。


忘れられるのか心配だった。




ホテルを出た後、成り行きで藤原雪斗と朝食を一緒にとった。


平然と食事をするなんて、どうかと思ったけれど、いつまでも意識している方が逆に恥ずかしい気がして来て……彼が言う通り、どうってこと無いんだと自分に暗示をかけた。


そのまま出社して、仕事をして……昨日と同じ服が気になって落ち着かなかったけど、周りは私の服になんて興味無いようで、ほっとした。


ただ、成美だけは別。昼休みになるとすごい勢いでやって来た。


「昨日藤原さんと泊まったんでしょ?」


「……」


やっぱりバレてる。


昨夜、一緒にいたんだから当然だけど……かと言って何て言えばいいのか。


悩んでいると、成美はニヤリと含みの有る笑いを浮かべた。


「藤原さんどうだった?」


「どうって……」


「やっぱり、上手かった?完璧だった?」


何が? なんてとぼけた事は聞けないけど、正直に答えることも出来ない。


気持ち良かったなんて……なんかふしだら過ぎるし。


「昨日のことは覚えてない、凄い酔ってたから」


酔って記憶を喪失したで通すことにする。


「そうなの? 勿体無い、藤原さんとなんてこの先もう出来ないのに」


有ったら逆に困るけど。


一度だって、なかなか割り切れないのに。


「いいの。まだ誰かと付き合いたいって思わないし」


暗い気持ちになりながらそう言うと、成美は気まずそうな顔をした。


「ごめん……美月が湊君に振られたばっかりだって忘れてた、無神経だったよね」


「……いいよ、気にしないで」


湊の無神経さに比べたらどうってことない。


「でも昨夜の美月の様子を見ていたら、藤原さんが好きなのかと思って。一時でも幸せになれたらいいかと思ったんだ」


私が藤原雪斗を好き? まさか……。


「どうやったらそう見えるの?」


「え……なんか美月は藤原さんには素を出してたし、距離が近い感じがしたから」


「……」


距離が近い?


そんな事有る訳ない。だって昨夜の私は湊の事ばかり考えてたし。


……距離って何だろう。


湊との距離はどんなに努力しても縮まらなかったのに、藤原雪斗との距離は意識しなくても近く見えるなんて。


素の私って何だろう。


私の自然なところを一番知っているのは湊のはずだけど……違っていたのかな?


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